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「えと、ボクが埋められる事にどんな関係が?」

 

 我に返ってから、自然と言葉がでた。これは本心からだ。


「……クロイス。ローレンスさんを連れてきてくれてありがとね」

「さすがに、セシリア嬢もそこまでは……」


 やりかねない。

 今までの姉さんからすると、興味がクロイスからリリアさんに変わっただけで、それを邪魔する者にはやりかねないと思う。


 思わず身震いをして、ギュっとクロイスの腕にしがみつく。


「ハ、ハヤト?」

「ごめん。もう少しこのまま」

「あ、ああ……」


 しばらくの間ボクは腕を放さなかったけど、それをクロイスが解こうとしないことが意外だった。

 中身がボクだからって、振り払うのを遠慮してくれたのだろう。


 ずっと感じるイブさんのジド目が、やけに気になったけど。




 数人で遊びに来たといっても、姉さんとリリアさんは二人の空間を作っている。

 ボクとしては渡すものを渡したのでそれでも構わまいのだけど。


「……で、どうして殿下はこちらにいるのかしら?」

「え、クロイスも誘ったのはダメだった?」

「すまんな。さすがに一人でいるのはちょっと」


 ガイアルはさっきからローレンスさんに付きっきりで話しかけているし、サラさんはそれを微笑ましく見守るだけだ。

 たまに視線が合うことを考えると、ローレンスさんの代わりに目を配っているのかもしれない。


 そして姉さんたちは向こうで水を掛け合っている。

 見ていて目をそらしたくなるほどの甘々っぷりだ。

 つまり。


「そ、そうね。この空間で独りも虚しいわね」

「邪魔してすまない」

「さっきからすまないしか言ってないけど、そんなんじゃ他の貴族に舐められるよ?」


 王族というのに腰が低いのも考えものだね。

 いくら第二王子といっても、彼の性格と立場は釣り合っていない。

 本人ももっと自由に過ごしたいと言っていたし、そういった点では王族にはガイアルのほうが向いているのかもしれない。


 一通り遊び疲れてサラさんの元へ帰ると、クロイスのほうへにトトト、とサラさんが駆け寄っていった。

 ……内緒話でもするのかな。


「ボール遊びに混ざるとはやりますね」

「な、何のことだ?」

「お嬢様の下に目を奪われることなく、平然を保とうとする姿は……微笑ましかったですよ」

「あれが、セシリアとわかっていれば何ともないのだが」

「そうですね。あまりにも……自然体すぎて」


 二人揃ってこちらを見てくる。

 うん、一つ言いたい。


「内緒話のつもりだろうけど、そんな横で話されたらまる聞こえだよ?」

「なっ! これはだな。そのっ」

「安心してください。最初からそのつもりです」

「なん……だと」


 もうクロイスが弄られることには慣れたけど、そっか。

 ボクも自分の身体を見下ろす。


「やっぱり、邪魔だなあ」

「……サラと言ったかしら? 貴方、今から砂遊びをする気ない?」

「奇遇ですね。ちょうど向こうに人を埋めるための……失礼。人が半分埋まりそうな窪みがあります」

「え、埋める? というかサラさん? ボクを何処に引っ張って……うわっぷ!」


 何かに足を取られたと思ったら、そのままこけてしまった。

 ちょうどそこには窪みがあったらしく、ボクの身体はスッポリとはまりこんでしまう。

 ……サラさんに突き落とされた気もしたけど、そんなことしないよね。


「わー、どうしましたかー」

「胸が邪魔で、足元が見づらく……って、何で棒読みなの?」

「それは大変ですね。おっと」

「きゃっ! ちょ、大量の砂が振ってきたんだけど。うわっ、また!」


 起き上がろうとしたけど、それを制するようにイブさんが肩を抑えてきた。


「……イブさん?」

「これも私の未来を変えないためよ。協力して頂戴」

「えと、ボクが埋められる事にどんな関係が?」

「……小さなことでも、確率は収束するのよ」

「そう話している間にも、サラさんがどんどん砂を追加してくるけど?」

「フッ、作戦通りね」


 本当かどうか疑わしい話を聞いている間に、無駄に手際の良いサラさんの活躍で完全に埋められてしまった。

 ご丁寧に海水で固めてくる本格仕様だ。

 首から上だけは出ているけど、身体は完全に動かせない。


「運動した後は喉が渇きますね。どうですか?」

「いいわね。頂くわ」

「えっと、ボクは?」

「あら、メイド服が汚れてしまいましたね。着替えてきます」

「私もそろそろ殿下の相手をしないと」

「あのー?」


 そのまま二人は歩いて去っていった。

 埋められた状態で取り残されるボク。

 そして、すぐに一人の人物が駆け寄ってきてくれた。


「ハヤト! 大丈夫か!」

「クロイス……うぅ、寂しかったよぉ」

「お、おい。泣かれると困るんだが。今掘り出してやるからな!」

「う、うん。そんなに深くはないはずだから、ゆっくりと崩して……ひゃぁあん!」


 クロイスは一生懸命砂を崩してくれている。

 そして掘り進めるその手が、薄く(・・)盛られた上半身だとはボクも知らない。

 なので、崩れ去った山の下から別の山が現れ、それを無我夢中でかき分けていたクロイスが掴み取ったとしても……誰がせめられようか。


「ん? これは、張り付いているような……っっ!」

「んんっ、そんな、引っ張らないでぇ……!」

「わ、悪いっ! そんなつもりはなかったんだ!」


 しかし、クロイスはボクのお山を掴んだまま放そうとしない。

 そのまま数秒、数十秒とも言える時間が経過する。


「ク、クロイス……?」

「お前本当にハヤトだよな?」

「え、いまさらどうしたの?」

「いや、あまりにも女性っぽいので、まさかと思ってな」


 クロイスが疑うのも無理はないだろう。

 先程ボクは、自分のものかと疑うくらいの声をあげてしまったのだ。

 ……ま、まあ? メイドさんやイブさんの前では何度かあげていたのだけど、それをクロイスに聞かれてしまったのが恥ずかしい。

 しかし、一つだけ言いたい。


「……早くボクの胸を放してくれないかな?」

「す、すまない!」


 何度めかの謝罪を得て、無心になったクロイスの手によりようやくボクは解放された。

 ……でも、その間に胸だけではなく、お腹とか太ももとかを思いっきり触られたけど。

 ボクも声を我慢できたおかげか、無心になったクロイスが反応することはなかった。



10月中には完結します。

海はただの尺稼ぎではないことを一応。

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