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「安心して。わかっているよ全部」

 

 彼女も双子で入れ替わっていることは知っているはずだけど、あくまで今まで通りに扱うスタンスらしい。

 でも、この先はまずい。


「お姉様も泳ぎますよね! ここの海岸は領地でも自慢なのですよ!」

「ちょ! リリアさん? ひ、引っ張らないで……」

「あの、リリア様? 分かっているとは思いますけど」


 さすがにイブさんも止めてくれるらしい。

 他に味方はいないから頼んだ!


「ハヤト様ですよね? でも、それが私の知るお姉様だというなら問題ありませんわ」

「それもそうね。じゃ、行きましょ?」


 駄目だった。

 片方はリリアさんに捕まって、もう片方の手はイブさんに捕まり連行される。

 ドナドナされるボクを見守る男性陣とサラさん。


「誰か止めてよ!」

「……楽しんでらっしゃい」

「すまんな。同意の上なら俺は無力だ」

「フ、そこまで考えての入れ替わりだったとは、お前も大した男だ」

「では私も参戦に――」

「ごめんそれはやめて」


 ただでさえ視線に困るのに、その上サラさんまで来たら――あれ?


「……やはりやめておきましょう。そのほうが面白そうです」

「ちょ、お願いだから助けっ」

「お姉さまがどんなお姿を披露してくださるか楽しみです!」


 ボクの叫びは全て無視され、男性陣に見送られながら魔の更衣室へと連行される。

 おかしいな。男なら夢の場所になるはずなのに、姉さんの身体か用意した水着のせいか、全く楽しみに感じないや。




 それからのことは覚えていない。

 気づけば誰かに脱がされ、キャーキャーという声が聞こえる中で意識を半分手放していた。

 ……人の水着を見ては騒ぎ、ボクがされるがままになっていれば騒ぎ。

 リリアさんはわかるけど、イブさんまでもが一緒になって騒ぎ始めた時には終わったと思ったよ。


 何がって? 男としての威厳とか、色々と。

 でもそのことをイブさんに抗議したら『貴方に威厳なんてあったかしら?』と言われたから意識が半分飛んでいっちゃったのかな。


 せめてもの抵抗で、身体を覆い隠すほど大きいタオルを羽織って皆の前へと戻る。

 男性陣はローレンスさんも含め全員着替え終わっていた。

 ただ、サラさんだけはメイド服のままなので異様に目立つ。


「ろ、ローレンスさんまで?」

「ええ。くれぐれも、救命活動が必要にならない程度でお願いします」

「あっ、ご苦労さまです」

「おい。その顔は普通にバカンスを楽しむと思っていたな。ま、俺も最初はローレンスに休むよう伝えたのだが」

「お気になさらず。話し相手もいますので、退屈はしませんよ」


 そういって視線がサラさんに向かう。

 メイド服ってことはサポートに徹する気満々ということだ。

 若い子に混ざって遊ぶのが恥ずかしいお年頃なんだろうな。


「何でしょうか、その憐れむような視線は」

「き、気のせいじゃない? サラさんってば被害妄想が激しいね」

「そういや貴方、フローラに相談していたらしいね。なんでも『最近お肌のケアが追いつかなく――』」

「そ・れ・よ・り! お嬢様は何故隠すのですか?」


 チッ。

 上手くそらしていたのに誘導されてしまった。

 追求を逃れたいがための行動だろうけど、ボクも逃げたい。


「これは、その……」

「何よ。服の上からは散々自慢していたじゃない。どうってことないわよ」

「根に持っているよね?」

「ささ、綺麗な姿をお披露目してくださいな!」


 そういってリリアさんは言うけど、ボクらの中では彼女が一番の美人だ。

 ボクの好みもあるだろうけど、見慣れた姉さんはともかく、イブさんは良くも悪くも平凡だ。

 可愛いけど、こんな幸薄そうな子いるよね? という印象で、特別美少女というわけでもない。

 しかし、リリアさんは間違いなくお嬢様だ。

 貴族の出というのが納得できる美貌のお嬢様だし、見た目も仕草もどれをとっても淑女としての見本に思える。


 女子力で言えばボクは姉さんより上だったけど、そのボクを遥か超す女子力の持ち主に違いない。


「リリアさんと比べると、ボクなんて……」

「いいえ。皆の視線を見てみなさい」

「え?」


 ガン見してくる姉さんとサラさんはわかるとして、クロイスまでもがこちらを注目していた。

 ガイアルだけはローレンスさんの肉体美に見惚れているようだけど、彼は無視して良いだろう。


「何でクロイスが……もしかして姉さんに?」

「あ、いや……セシリア嬢に興味というか、ハヤトがどんな格好をしているのかがちょっとな」

「はは。さすがにボクも、男性用の水着は着ないよ」

「そうじゃないでしょ。全く、私だって気づいているのに……」


 姉さんが呆れる横で、クロイスは顔を思いっきりそらしていた。

 まあ、見ていないならいいかな?


「じゃ、じゃあ……」

「お預かりします」

「ちょ! サラさん待って!」


 タオルを解いた瞬間、後ろから回り込んでいたサラさんにパッと奪われた。

 そして、隠すものがなくなったボクの身体は無慈悲にも晒される。


「……姉さんも、攻めてきたね」

「数ある中からソレを選ぶなんて、さすがはお嬢様です」

「は、ハヤト? 何だよな。セシリア嬢はこっちにいるセシリア嬢だよな?」

「クロイス、落ち着いて? 姉さんもこれ、ボクの趣味じゃないからね?」

「安心して。わかっているよ全部」

「そのセリフ、ぜんっぜんわかっていない時に使うよね?」


 サラさんのは予想できたけど、三者三様の反応にボクも困惑する。

 今着ているのはセパレートタイプの水着だ。本当はワンピース型が良かったんだけど……所持しているものは全てサイズが合わなかった。


 あとはリリアさんが着ているようなビキニタイプ。サラさんが強く薦めてきたけど、下着と変わらないので却下した。

 ま、イブさんと同じセパレートタイプでも、結構ハデな部類だけど……

 チューブトップやヒモよりはマシだ。

 前者はこぼれそうで、後者はほどけそうだし。


 そんな水着を着て皆の前に現れたわけだけど、ボクが今何を言いたいかと言えば決まっている。


「……しにたい」

「あら。ならこの身体はずっと私のものね。戻される心配をしなくて済むから助かるわぁ」

「はは……冗談きついよ」

「うふふふふ」

「……え?」


 いつもの冗談だと思って軽く流すボクに、意味深な笑い声。

 ま、まあ? 脅されるのは初めてではないし、姉さんはボクの反応をみて楽しんでいるだけ――。


「ローレンスさんがいて、良かったね」


 それだけ言って、姉さんはリリアさんと一緒に離れていった。

 しかし、ボクを含めた数人はしばらく動けなかったという。


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