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「そうね……あら? 人数が増えていない?」

 

 ここから目的地の海岸まで、そこそこ遠い距離がある。

 ……行けないことはないけど、このまま一時間ほど歩きたくないのも事実だ。


「もしかして、このまま歩いていくの?」

「何よ、軟弱ね」

「だって釣りも好きだけど、本来なら庭いじりをしたり読書をする側の人間だよ? しかも、この身体でそんな体力は……」

「大丈夫よ、近くに馬車を待たせてあるわ」


 イブさんの視線がチラっとボクの胸に向いたけど、それはほんの一瞬だった。

 ……やっぱり視線の先ってわかるんだ。ボクも気をつけないと。


 でも、イブさんって庶民の出だったよね? ボクの家も一台しか持っていないのに、馬車なんて手配できたのかな。


「もしかして業者さんに借りたの? 御者まで借りると中々の費用になっちゃうけど大丈夫?」

「大丈夫よ、知り合いにお願いしたから。急だったけど快く引き受けてくれたわ…………ま、役得でしょうね」

「何かいった?」

「いえ、ほらアレよ」


 学園の近くに、ボクも見覚えのある馬車が一台止まっていた。

 ……あの、御者台にいる知り合いっぽい人は見間違いかな?


「お待ちしておりました。さ、中へどうぞ」

「ありがとう。待たせたわね」


 そして、馬車の中にも既に人の気配がある。

 ローレンスさんがそこにいるってことは、多分なかには……。


「セシリア。ようやく決闘する気になったか」

「って、何でガイアルが?」

「私が呼んだのよ。安心しなさい、ちゃんともう一人いるわ」


 なぜか我が物顔のイブさんに案内された先に、クロイスもいた。

 どうやら同行者はこの男性二人とローレンスさんらしい。


「え、イブさん? 今から何処に行って何するのかな?」

「もちろん、海岸に行って泳ぐのよ。水着は持ってきたのでしょ?」

「二人がいるなんて聞いてないよ!」


 てっきりイブさんと二人だけだとおもっていたからアレを選んだのに……クロイスの前であんなもの着れるわけがない。

 ここは忘れたと嘘をついて、誤魔化す――。


「ちなみにお嬢様の水着は予備も用意してありますので、抜かりはありません」

「裏切り者!」

「うふふ。私はローレンス様と御者台にいますので、若い方はごゆっくり」


 そのままメイドらしく、荷物だけ詰め込んで御者台に向かったけど……サラさんってまさか、結構な年齢のおばさ――。


「あ、ものすごく際どい水着だけ残して、他は紛失してしまうかもしれません。発言には気をつけてくださいね」

「ピンポイントにやめて」


 これ以上追求するまい。

 今回のお出かけって、もしかしてボク以外がグルなの?

 ……こうなったら意地でも姉さんも巻き込んで、ボクの苦労を味わってもらうしかないな。




 時期のピークがズレているせいか、到着した海岸に先着はいない。

 これ姉さんたちも本当に来るんだよね?

 イブさんの方向を向いて疑うと、彼女も困惑しているようだった。


「……おかしいわね。こんなプライベートビーチなはずが」

「場所はここで合っているの?」

「ええ。クロイス様の案内で来た私達は、後日二人きりで訪れるの。その際に貴方が……いえ、何でもないわ」

「その先って、あのことだよね?」

「そういえば貴方には話したわね。今の貴方は……どうしてもセシリアにしか見えないわ。ごめんなさい」

「……見た目は姉さんそのものだし、仕方ないよ」


 これから泳ぐ予定だったとはいえ、今はボクとイブさんしかいない。

 何でも近くにこの周辺を管理している貴族がいるとかで、クロイスやサラさんたちは挨拶に向かったらしい。


 一応、着替える場所を借りるので許可は必要なんだとか。


「もしかしてその貴族の方が追い払ったとか?」

「いえ、それはないわ。ここの領民なら誰でも使えるはずよ……そのはず、なんだけど」


 ま、今は考えても仕方ないや。

 優先するべきは、どうやって水着を着るのを回避しよう?


 イブさんに相談しても、面白がって「着ればいいじゃない? 自慢なんでしょ、その胸」と言われるし、サラさんに至っては敵だ。

 クロイスに相談したのだけど、彼の視線がボクの下に向いたのを見逃さなかった。

 慌てて取り繕っていたけど、そういや姉さんも散々アピールしていたからね……ボクに誘惑する気はないんだけど。


 サラさんだけなら何とかなりそうだし、ここは意地でも説得してみよう。

 そのためには泣き落としだってしてやる!




 そう意気込んで何分か経った頃、クロイス達が向かった方角から人が歩いてきた。

 ようやく挨拶が終わったのかな。


「あ、戻ってきたみたいだよ」

「そうね……あら? 人数が増えていない?」


 まだ遠くのほうだからよくわからないけど、数えてみると四人で向かったはずが二人増えている。

 増えた二人は、仲良く手を繋いでいるように見えるけど。


「ごめん。ここの貴族の名前ってわかるかな?」

「聞いたけど忘れたわ。何処かで聞いたことがあるなと思っていたのだけど、そう。彼女の領地だったのね」


 姿はまだ完全に見えていない。

 けど、ここに来る予定だった人物で、まだ姿を現していない二人なんて決まっている。


「こんちには……姉さん。奇遇だね、こんな場所で」

「お姉様……よろしければ、ご一緒に過ごされませんか?」

「……すまんな。伯爵に言われ、知り合いならちょうどよいという事になったんだ。俺も負い目があるので断れなかった」

「ガイアル、お前」

「言うな、分かっている」


 あー……伯爵にネチネチと嫌味でも言われたのかな?

 リリアさんは申し訳なさそうにしている傍ら、姉さんはニヤニヤとしているけど。


 挨拶にいったクロイス達は、姉さんたちとバッタリ遭遇したらしい。

 何でも二人で過ごす前にお家へと招待されていたようで、本日は貸し切りの予定。しかしクロイス達が一緒でも構わないとのこと。


 とくにガイアルの婚約破棄について伯爵も思うことがあったようで、圧力をかけられ断れなかったらしい。

 ま、断る理由もなかったしローレンスさん的には問題ナシらしいけど。


 そっとイブさんに耳打ちする。


「こうなること、分かっていたの?」

「……知ってはいたけど、こういう経緯だったとはね。まんまと騙されたわ」


 ボクも姉さんと合流する予定はなかったけど、ここまでくるとイブさんの言葉まで演技に思えてくる。

 一体どこまでが仕込まれているんだろ。


 でも、仕込まれていないと確信を持てることが一つ。


「お姉さまも泳ぐのですよね! 一緒に着替えませんか?」


 ボクがハヤトだと知っている彼女は、ただの天然かな?


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