「お嬢様の水着、ですか?」
あれから何日か経ったけど、一部を除けばひと月後までは元通りの生活に戻ったらしい。
姉さんは相変わらずリリアさんとイチャイチャするし、ボクはその愚痴をイブさんに聞いてもらうし。
「リリアさんも姉さんがボクの身体に入っていると知ったはずなのに、あのままでいいのかな?」
「良いんじゃない? 彼女の中では決定していそうよ」
「え、何が?」
「……わからないなら、そのほうが幸せかもね。それより、アレをそろそろどうにかしなさいよ」
今の話はそれで終わり! とでもいうように別の話題へと転換させられる。
まあ、アレについてはボクも何とかしたいと思っているんだけど……そう考えている間にも、アレはクラスの中に入り、ボクの目の前へやってきた。
「答えは出たか」
「お断りします」
「また明日くる」
「結構ですわ」
何度も繰り返されたやり取り。
こちらの声が聞こえていないかのように彼は去っていき、明日も同じようにやってくるだろう。
「ガイアルもしつこいわね。あんなに粘着する男、嫌われるに決まっているじゃないの」
「……でも、クラスの女子から嫉妬の視線を感じるのだけど」
「ま、アレで良いところの出なのよね」
もう見慣れた光景なのか、最初の方は追い払ってくれたクロイスも完全無視を決め込んでいる。
だって関わるだけ無駄だもん。
かといってもう一度決闘するのも……せめてボク本来の身体だったら良いのだけどな。
「そういえば、どうして相手するのが嫌なのよ?」
「だって姉さんの身体だよ? 動きにくくて仕方ないよ」
「見た目はそんなに変わらないと思うけど……その身体はそんなに非力なのかしら?」
「いや……その、重心がね」
「重心?」
「イブさんにはわからないかもしれないけど……その、胸についている重みが邪魔で、動きづらいんだ」
「………………喧嘩売っているのかしら?」
サラさんまでとはいわないけど、イブさんも慎ましやかなお胸をしている。
姉さんの場合は彼女よりツーランクほど上だと思われるので、この苦労がわからなくても無理はないだろう。
と、思っていたのだけど。
「え、どうしてそうなるの?」
「これでもねぇ、元は貴方くらいあったのよ! それを何? 胸の価値で何が決まるっていうのよ!」
「ちょ、落ち着いて!」
「大体貴方は引き立て役でしょ! 私はメインヒロインよ! 文句あるっ!」
「あっ、はい」
どうやら逆鱗に触れてしまったみたいだ。
彼女は堰を切ったように喚くけど、実はこの光景も珍しくはない。
今回は……四度目だっけな? それくらいになると皆も慣れたもので、落ち着くまでスルーしようという空気になっている。
そして生贄になるのはいつも、逆鱗に触れてしまったボクの役目だ。
「これでも日々考えて、私が幸せな道へいくにはどう行動するか悩んでいるのよ。それをいつもいつも、貴方はひっくり返して!」
「うんうん、そうだね。ボクが悪いよ」
「今度ハヤトとリリアは海岸デートだそうよ! いつになったら私も連れて行ってくれるのかしら!」
「それは戻ってからだって言ったような……」
「次の休みは空けておきなさいよ。私もそこへ行ってやるんだから!」
「うん、約束ね」
「あらそう。じゃ、お昼前には迎えにきて頂戴」
「うん? あれ……」
急にイブさんは冷静になったけど、ボクは何を言った?
「あーあー、私もデート楽しみだなー」
「え、でーと?」
「欲を言えば男の貴方とが良かったけど、ハヤトには違いないのよね」
「あ、うん。ボクはボクだけど……」
「この際それでもいいわ。だから……行きましょ?」
あれよという間に決定してしまった。
その際、水着を持ってくるように言われたけど……え?
ま、まあ帰宅してからサラさんにでも相談しよう。
「あとは……そうね。あの出来事を発生させるためにはアレも誘って、あの方は必須ね。そうなると……」
「ボ、ボクは食べ終わったし戻るね?」
「フフ……あとは仕込みを……あいつらの顔が楽しみね……うふふふふ」
怪しく笑うイブさんは、ボクだけではなく近くのクラスメイトもドン引きさせているけど、本人は気づいていないようだ。
……最近、イブさんが関わっちゃいけない人認定されていることを教えてあげたほうがいいのかな?
ま、まあ? 本人が楽しそうならいいよね。
早速家に帰ってサラさんに相談すると、フローラさんを紹介された。
「お嬢様の水着、ですか?」
「今度友達と海へ行くことになって。できれば着たくないんだけど」
「そうですね……さすがにハヤト様にあれは」
そう言うフローラさんの手には、一着の水着が握られていた。
……ただのヒモだよね。それが水着だなんて言わないよね?
「これはこれは……お聞きしたいのですが、その方は男の方でしょうか?」
「え、女の子だけど」
「なら肌面積は少なめで大丈夫ですね」
「どういう意味?」
そんなやり取りをしつつ、出された水着は全て却下した。
姉さんは水着を何着か持ってはいたのだけど……そもそも肌面積が多めな水着は、サイズが小さすぎた。
「やはりこのくらいしかないですね」
「やだよ! これ水着じゃなくて下着だよ! こんなの着て外なんか歩けるわけないじゃん!」
「舞踏会で美しく着飾るように……海岸での女性は、露出が多いほど美しく見られるのですよ」
「……嘘だッ!」
「あらら。バレてしまいましたか。しかし、これしか似合わないのは事実です」
「うぅー……新しく買うと、ボクが選ぶことになるしなぁ……」
姉さんの身体に似合う服を選ぶ。
その行為はボク色に染め上げるようなので、いままで一線を超えなかった部分でもある。
たかが水着だとは言え、露出が少ないサイズがないからと選ぶのもなぁ……せっかくここまで服を我慢したのに。
……よし、決めた!
「どうせ彼女と二人だし、これにするよ」
「あらあら。そんな爪の甘いハヤト様も可愛いですね」
「え、これって可愛い系なの?」
「いえ、お気になさらず」
後日、ボク以外が予想できていたようにこの選択を後悔することになる。
だって、イブさんだけじゃなかったの?




