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「弁償金、いくらになるんだろ」


そのままクロイスが落ち着くまでされるがままになっていたけど、イブさんが「コホン! ゴッホゴホ」と勢いよくむせたことで解放される。

女性というより、中年のおじさんのような咳だったけど、ボクのためを思ってなんだよね……そう信じよう。


「……悪いな」

「うん。大体察したから大丈夫だよ」

「助かる……うぅ、うおおおおおっ!」

「ッ! ちょ、また抱きついてこないでよ!」


クロイスがこんなに泣く姿は久々に見た。

ほんと、姉さんは何やらかしてくれたのだろう?


このままでは埒があかないので、サラさんにローレンスさんを呼んでくるように頼む。

それまでは腕の中でヨシヨシしていたけど、なんだかこそばゆいな。


そのまま待つこと数分。

サラさんが戻ってこない。

代わりに何かバシャン! ドタン! と、破壊音が聞こえるのが怖い。


「弁償金、いくらになるんだろ」

「ご安心を。高価なモノは既に避難させました。あとはお二人を止めていただきたく……」

「のわっ! ろ、ローレンスさん……いつのまに」


相変わらずクロイスは腕の中だけど、横にはいつのまにかローレンスさんが立っていた。

……目の前の扉から出てこなかったよね?


「現在セシリア様とサラ様が交戦中……いえ、お話し中なので、どうかお二人を止めてください」

「それお話じゃなくてOHANASHIじゃないの?」


そんなのボクだって嫌だ。

でもこれ以上、人様の家で迷惑をかけるわけにはいかない。

全く、サラさんもミイラ取りがミイラになっていたら意味ないじゃないか。


自分の家なのに入ろうとしないクロイスを引き剥がし、扉から大きな音がするほうへと向かう。

廊下は綺麗だけど、確実に何かぶつかるような音がする。

姉さんがいる部屋は……あそこか。


「あのー……」


ひゅん。

目の前を勢いよく横切っていったものがあった。

なにこれ、置物かな。


「このっ! よくも私を騙したわね! おかげでハヤト様に強く当たってしまったじゃないの!」

「何のことかっ! これで! 貴方も! 嬉しいでしょう!」

「あのー……」

「くっ、お礼は言わないけど! それでも気に入らなっ!」

「こうなったからには! 私の権限でクビにしてやるわ!」


「二人とも、いい加減にして!」


ようやく二人はボクの存在に気づいたらしい。

姉さんは「あら?」といったようだし、サラさんに至っては悪びれる様子もない。


「ハヤト様。そこは『私のために争わないで!』と言っていただけないと」

「うるさいよ!」




とりあえず学園に遅刻する……となりそうだったので、クロイスに手早く準備をしてもらい、ボクの来た馬車へ皆で乗り込む。

ものの数分しかないけど、それでも落ち着いて情報共有する時間があるだけありがたい。


「ダメ元だったのだけど、上手くいくものだね」

「せっかく元に戻れたというのに……姉さんはそんなに嫌なの?」

「当たり前よ。そもそも、逃げて問題を先延ばししようとするほうもズルいでしょ?」

「うっ……それは、たしかに」


姉さんはまだ絞りカスの可能性に気づいていない。

今度はボクが騙して、最後に元通りの身体へなるんだ。


「しかしそうなると、ハヤトはまたひと月はセシリア嬢の身体か」

「そうなるね……ところでクロイス、さっき抱きつく必要あったの?」

「あ、それは私も思いました。殿下はまるで、堪能するように……」

「何それ詳しく」

「あ、あれはだな! ハヤトを呼びに行ったらキスをされて混乱していただけだ! 決して上書きがしたいと葛藤していたわけじゃない!」


それ全部喋っているよね?

全員がそう思ったのか、馬車の中はしばし静寂に包まれる。

そこでクロイスも気づいたようだ。


「あっ、いや、違うぞ? 俺がハヤトにそんなことするわけが……」

「そ、そうだよね。クロイスがボクにそんなこと思うはずがないよね!」

「お、おう……」

「でもこの前の殿下は、私が迫ろうとしたときも想い人が……」

「あっ、そうだ! ボクの身体でキスってどういうことさ姉さん!」


ものの数分。

そのはずだけど、移動中の会話はカオスに満ち溢れていた。


……とりあえず、ボクの唇は勝手に使われていたらしい。

初めてではなかったみたいだけど、その初めてもリリアさんとしたことを聞かされ、何とも言えない気持ちになった。

イブさんのために、と思ったんだけどね。




そんな顛末を、クロイスも交えてイブさんに話す。

返答はそっけなかった。


「あら、そう」

「あまり驚かないんだね……え? まさか」

「そう……そういう出来事も、選択肢次第ではあったわ」


思わずクロイスを見る。

彼は意味がわかっていないようだけど、姉さんの身体でなく、元の身体でクロイスとそういう関係に……いや、ないな。


「ちなみに濃厚な絡みに発展する選択肢、聞きたい?」

「あるの!? いえ、遠慮しますので」

「……俺には理解できないのだが」

「あら、ようこそこちら側へ?」

「やめて! クロイスを穢さないで!」


馬車の中といい、数日ぶりのやり取りと言い、混沌としていることには変わりないけど……。

昨日までの本来の生活より、楽しいのは確かだった。

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