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「少なくとも、あとひと月はその身体で過ごせ」

 

 ボクを起こしてくれたメイドさんはフローラさんだった。

 この部屋も、ボクのじゃないけど何度か見たことのある姉さんの部屋で……つまり、また姉さんの身体になってしまったらしい。


「ど、どうして……あんなに気をつけていたのに」

「お嬢様?」

「あっ、えと……ボク、ハヤトなんだ」

「うふふ、冗談はよしてくださいな。さ、お着替えを」

「ええっ、ちょ! 冗談でもなくて!」


 あれよと言う間に服を脱がされ、フローラさんにされるままになる。

 しかし、どうして……。


「えっ、何で上をつけていないの?」

「またまた。感覚を思い出したいと、外して生活していたではないですか。ほら、何両手で隠しているのですか」

「だって……」


 いくら自分の身体ではないとはいえ、人前で晒すのは恥ずかしい。

 腕でむぎゅと潰れる感覚も、少しだけど懐かしいものだった。


「では、食堂でお待ちしていますので」

「あの……これ、どうすれば?」


 渡されたのは一枚の下着と、学園指定の服だ。

 しかし、その下着はなんというか……ボクがつけたこともないような種類のモノであった。


「いつものようにご着用をお願いがします……いえ、まさか?」

「うん。いつものように……がボクにはわからないんだ」


 そこでようやく、フローラさんもまた入れ替わったと信じてくれたらしい。

 キッカケが下着というのが、何ともアレだけど。


 いつものサラさんではなく、姉さん専属のフローラさんなので、身支度も姉さん仕様だ。

 そしてキッチリと化粧や髪型を整え、父さんが待つであろう食堂へ向かう。

 その途中、サラさんに睨みつけられたけど、あの人はいつも姉さんにこんな態度なのかな?

 初めてのことなので、なにか新鮮だ。


「サラさん?」

「どうなさいましたか? この前は口も聞きたくないとおっしゃっていましたのに、気でも触れたのでしょうか?」

「え? ええ……ボク、ハヤトだよ」

「ハッ! 今更そんな戯言に騙されるとでも?」

「あー……まあいいや。じゃあね」


 サラさんの態度はちょっと堪えるな。

 できれば姉さんとも仲良くしてくれると嬉しいんだけど。


 食堂へ入る前、フローラさんが説明している姿が目に入ったけど、サラさんが走り出したところでボクは扉を閉めた。

 ま、説明は後でいいよね。それよりも――。




「遅かったな。ハヤト」

「……やっぱり、父さんも絡んでいたんだね」


 食堂で父さんに説明してもらうのが先だ。


「ボクが泊まりにいったのがそんなに許せなかったの?」

「いや、むしろセシリアがどう動くか楽しみだったが……アイツは上手くやったみたいだな。そして、お前は騙されたようだ」

「うぅ……ということは」

「少なくとも、あとひと月はその身体で過ごせ」

「……はぁー」


 何も食べなかったはずだけど、可能性としては二つある。


「寝ているボクに、何か食べさせた?」

「王族のいる住処だ。簡単に侵入できないのはお前もよく知っているだろう? あの従者がそれを許すとも思えん」


 あの家はローレンスさんが護衛も兼ねている。

 彼一人で些細な物事にも気づくし、いつでも監視しているようで深夜ボクが起きたときは必ず近くにいる。

 一回暗闇の中にいて驚いたことはあるけど、それ以降は気配しか感じない……多分、近くで見ていると思うけど。


「ということはやっぱり、飲み物?」

「セシリアに必要分は渡したが、やはりその方法を取ったのだろうな」


 食べる以外にも摂取する方法はある。

 お昼にもらったイブさんの紅茶か、クロイスの家でもらった紅茶に混ぜられていたんだろう。

 それを渡す方の父さんもそうだけど……イブさんが怪しいかな。


「ということは、ボクは一生このまま……」

「泊まるという案も良い手だったが、セシリアの執念は凄まじいな。ま、これで時期は完全に逃したが、戻れる可能性はあるぞ」

「え、ほんと!」


 食事はまだ始まっていない。

 何も置かれていないテーブルに乗り上げてしまうも、父さんはそれを注意することもなく、懐から出したものをテーブルへ置いた。


「……これは?」

「昨日、もしやと思ってメイドに回収させたゴミだ。とはいっても、セシリアは片付けをメイドに任せたので、清潔な状態には保たれている」

「何かの使用済みの草みたいだけど……これってまさか!」

「ああ。おそらく霊草の絞りカスだろう」


 何かを食べた覚えはなかったけど、もし紅茶に混ぜたとしたら元になったモノがあるはず。

 そして、その現物が……ここにあるらしい。


「ひと月後に、お互いこれを食せばもう一度元に戻れるだろう」

「ちょっと待って。紅茶で入れ替わったってことは、もしかして……」

「はっはっは! 俺もまさかそんな使い方があるとはな! これで大量生産できそうだ」

「やめてください」


 それこそ、貴族のお家がパニックじゃない?

 父さんの上にいる人間に報告はするだろうけど、実用化されたときは想像するだけで恐ろしい事態になりそうだ。


 とりあえずはそのまま、食べられるように丁寧な保管をお願いした。

 ……今頃クロイスの家では、どうなっているんだろうな。


 ここからクロイスの家に向かうか、学園へ直接向かうか。

 そんなの、朝から馬車を走らしてクロイスの家に向かうにきまっている。


 時間がギリギリだとしても、そこは頑なに譲れない部分だった。




 父さんを説得して快く馬車を出してもらう。

 そしてクロイスの家に着いたのだけど……家の前には家主、クロイスが頭を抱えて座り込んでいた。


「閉め出されたのかな?」

「その馬車はセシリア……いや、ハヤトか?」

「う、うん? そうだけど」

「ハヤト……っ! ハヤト! 会いたかったぞ!!」

「えっ、ええっ!」


 馬車で一緒に来たサラさんたちに見られる中、姉さんの身体でクロイスに思っきり抱きつかれる。

 突然の事態にボクは動くこともできなかったけど……。

 不思議と、嫌な感じはしなかった。

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