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「あー……第三夫人にしてやるってプロポーズされちゃった」

 

 鐘が鳴り、一日が終了した。

 今日の授業は体調のせいもあってか、あまり頭に入ってこなかったな。

 後で誰かにノートでも……て、あれ?


 ふと周りを見渡す。

 姉さんの派閥だった女子たちには顔を逸らされた。

 それでも何人かはチラチラとこちらを見ているけど、何かに怯えているようで話しかけてはこない。

 ボク、そんなに怖い顔をしていたかな?


 考え込んでいると、またイブさんと目が合った。

 ちょうどいいや。彼女に頼んでみよう。


「もし、すみません」

「……私に何か用ですか?」

「恥ずかしながら、本日のノートを見せてもらえない、かしら? あまり内容が頭に入ってこなかったの」

「……すみません。他をあたってください」


 イブさんは少し考えるような素振りをしてから、逃げるように立ち去ってしまった。

 ……彼女は姉さんにどんな仕打ちを受けていたのだろう。


 考えているうちに、何だがまた痛みが襲ってきた。

 身体も思うように動かないし、今日はもう帰ろう。


 痛みを我慢してヨロヨロと退室すると、廊下に出てすぐに誰かが支えてくれた。


「セシリア嬢、大丈夫ですか? ハヤトの元まで送りますよ」

「クロイス……様」


 その優しさに、思いっきり甘えてしまいたい。

 ……けど、それじゃダメだ。

 彼の幸せの為には、ボクが邪魔してはいけない。


「お気遣いありがとう、ございます。その優しさだけで十分ですわ」

「そ、そうですか。では、俺もハヤトに用事があるので、せめて同行させていただきたい」


 精一杯の我慢をして言った言葉だけど、クロイスはそれでもボクを心配してくれるみたいだ。

 同行……くらいだったらいいかな。目的は同じなんだし。


「ありがとうございます。では、一緒に向かい……キャ! 嫌!」


 腰に手を回された。

 クロイスはエスコートでもしてくれるつもりだったのだろう。

 これが姉さんや他の女性だったらキャーキャー言ったのかもしれない。

 しかし、中身はボクだ。


 急な出来事に、思わずクロイスを突き飛ばしてしまう。

 クロイスは自身が拒絶されたという事実に呆然としているようだ。


「……え?」

「すすす、すみません! そんなつもりでは……」

「あっ、いや! いきなり女性に触れた俺が悪い。すまなかった」


 それからは二人とも無言だった。

 姉さんの教室までは距離もなかったけど、ボクとクロイスがここまで気まずくなったのは初めてじゃないだろうか?

 今は姉さんの身体だけど。


 その後、クロイスは姉さんと一言二言くらい話して立ち去った。

 去り際に何か言いたそうにしていたけど、良かったのかな?


「ちょっと姉さ……いえ、ハヤト。後で話があるわ」

「え? ボクは早く休みたいのだけど……」

「命令よ。絶対に逃さない」


 今度は姉さんに肩を掴まれる。

 ……なんだろう、さっきはドキドキしたけど、今は別の意味でドキドキしか感じないや。




 帰宅してからはメイドさんに色々片付けてもらい、お世話もしてもらう。

 出来れば一歩も動きたくないけど、姉さんの命令だ。

 無視すると後で何を言われるかわからない。


 気が重くなりながらも移動しようとしたら、姉さんのほうから訪ねてきた。


「え、まさか姉さん?」

「何だい? 僕が訪ねるのが、そんなに珍しいかな」

「うん」


 いつもは何かあってもメイドさんを使ってボクを呼ぶ姉さんだ。

 それが直接赴くとなると、何やらとんでもないことが起こったに違いない。

 思わず身構えて続きを待つ。


「姉さ……いや、ハヤト。質問に答えなさい。クロイス様に何をしたの?」

「クロイスに? 何って、エスコートを断っただけだけど」


 てっきり派閥のことかと思ったら、どうやらクロイスの事だったらしい。

 突き飛ばした件は……言わなくてもいいよね。

 姉さんを訪ねる過程で、クロイスが寄り添ってくれたこと。なので二人でいた事を答えた。


「あぁっ! 私達の憧れのクロイス様が、そのようなことを!」

「さすがクロイスだね。気遣いもしっかりしていたよ」


 姉さん、ボクの姿で悶えるのはやめてほしいかなー。

 顔を赤く染めているので、さもボク自身がクロイスに恋しているようだ。


「そういえば、ハヤトは知っているかしら。何でもクロイス様の親戚がご入学したそうよ」

「親戚? まだ王族がいたの?」

「いいえ。王位継承権はないけど、血が繋がっているとかいないとか。クロイス様の血族がいる限り、上がることはないとの話だけど……」


 そうして思い出すのは、保健室にいたあの男子だ。

 確かあの男子も、クロイスや王族がどうこう言っていた気がする。


「名前はガイアルと言うらしいから、ハヤトも気をつけなさい。何でも気に入った女子には片っ端から声をかけているらしいわ」

「もしかして俺様気質の人?」

「え? そうね、そんな話も聞いたわ。クロイス様とは正反対の野蛮な方で、争いを好むとか……」

「ボク、多分その人と会ったよ」

「なっ、大丈夫だったの! その身体はクロイス様のためにあるんだから! もし何かされそうになったら、すぐに逃げなさい!」


 すごい剣幕で言い寄られるも、既に手遅れだったりする。


「あー……第三夫人にしてやるってプロポーズされちゃった」

「お父様っ! いますぐ家族会議を!!」

「えっ、嫌! 待って! 落ち着いて姉さん!」


 不思議だ。

 身体の不調で不安定なボクより、どうして姉さんのほうが感情的に不安定なんだろう。


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