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それぞれの思惑 婚約者side


 リリア視点。



 あれから私の日々は充実していました。

 フリとはいえ、ハヤト様も私との時間を大切にしてくださるので、二人きりで過ごす時間も増えています。

 しかし、そんな機会があっても恋愛話になるはずもなく……話題はほとんどがお姉さまのことでした。

 といっても、私はあまり知りませんので、弟であるハヤト様のお話を聞くだけですが。


「姉さんは朝のお風呂までこだわっていて、遅刻しそうなときも欠かすことはないんだ。それでメイド達に用意まで手伝わせて……」

「ふふふ。それでも一緒に登校なさるほど仲がよろしいのですね」

「そりゃあね。荷物持ち……いや、姉さんは僕がサポートしてあげないと危なっかしいから」


 そう言いながら笑うハヤト様は、よほどお姉様のことが好きなのでしょうね。

 私が紅茶の好みを聞いた時も、どのような趣味をなさっているかも全て把握しているようなのです。

 あまりにも詳しく話されるので、最初の方は怖かったほどに。

 一回だけ、なぜ詳しいかを聞いたことがあります。


「そりゃ、本人だから……本人から、直接聞いたからね!」

「仲がよろしいのですね!」


 私ももし、兄弟か姉妹がいたら、そのようなことまで話すのでしょうか?

 ……いえ、例え家族だとしてもそこまで赤裸々に話せそうにありません。

 しかし、お姉様にだったら……話しても、良いかもしれません。




 そんな風に充実した日々を過ごしていましたが、最近お姉様が情緒不安定だという情報が入ってきました。

 何でも男性の家に無断外泊したり、突然暴れだしたりするそうです。

 私は心配していましたが、ハヤト様が「たまによくある」というならそうなのでしょう。

 たまになのか、よくなのかはわかりませんでしたが。


 そういえば、最近はお姉様よりもハヤト様とよく一緒に過ごしている気がします。

 婚約者ということを抜きにしても、付き合うフリというのがだんだんとエスカレートしているようです。

 ハヤト様も、気づいてはいるでしょうが……お互いに口には出しません。

 向こうも満更ではないと、思っていてくれるのでしょうか?


 そんなときです。

 ハヤト様といつものように腕を組んで歩いていると、お姉様とバッタリ出会いました。


「ご、ごきげんようリリア。弟のためになってとは言ったけど、まさか婚約者になるなんて」

「それは、あくまで落ち着くまでですわ。今の時期さえ……え?」


 お姉様の前だというのに、ハヤト様は大胆にも私を抱きしめます。

 ……どうしてでしょう。振りほどいたらすぐに解放されるはずなのに、不思議とその温もりを甘んじていたいです。


「そういうわけだから、すぐには困るんだ。姉さんもココに放り込まれたら困るでしょ?」


 言っている意味はわかりませんでしたが、彼は私を護ろうとしてくれるのでしょうか?

 腕の中からハヤト様の瞳を見つめてみると、力強い意思が感じられます。


 お姉様はそのままどこかへ立ち去ってしまいましたが、私はそれを目で追うこともなく、しばらくハヤト様の腕の中に収まっていました。




 その後、私はハヤト様に嫌われたようです。

 いつもなら何も言わなくても側に来てくださるのに、本日は近付こうともしてくださらないです。

 目も合うことがないので、意識的に外されているのでしょうか?

 しかし、こちらも今日は放課後に約束をしています。

 せめてどうするかの予定だけでも……と思い、勇気を持って話しかけました。


「ハヤト様。本日の予定ですが……」

「リリアさん。それなんだけど」


 グサリ。

 他人行儀な呼び方をされるということは、何か怒りに触れることをしてしまったのでしょう。

 泣きだしそうになるのを我慢し、それでも心は強く持ち、向こうが心を開いてくれることを待つのみです。


「まあ、いつものようにリリアと呼んでくださいな」


 真っ直ぐに彼を見つめ、この想い……伝わるでしょうか?

 そんな熱意が伝わったのでしょう。

 何か悩んでいたようですが、決断したようにハヤト様は私を誘ってくださいます。


「っ! リリア。今日は姉さんも一緒でいいかな?」

「はいッ!!」


 いつか三人で、ということは言ってありましたが、まさか今日叶うなんて!

 思えば、ハヤト様はそのことでいつ切り出すかを悩んでいたのかもしれません。

 現に、同じ親衛隊の仲間である彼女たちが騒いでいますが、ハヤト様もどこ吹く風といったように聞き流しています。

 ふふっ……皆様、私は三人でお出かけしてきますね!


 それだけ言うとハヤト様はすぐに逃げ出してしまいました。

 一応追いかけたのですが……私達からの追及を避けるように逃げる姿は、まるで小動物のようでした。

 ま、私は放課後のお出かけが約束されていますからね!




 その期待は、すぐに裏切られました。

 そこにいたのは私だけではなく、クロイス様やお姉様、そしてガイアル様までもが集まっていました。

 そしてイブさん……でしたか。彼女も呼ばれていたようで、全員でハヤト様が来るのを待っている様子です。


 それにしてもガイアルですか……彼は婚約関係で色々とあったせいか、苦手でもあります。

 あのギラついた視線や、黙って俺についてこいとでもいいそうな背中は、ハヤト様とは正反対。

 私があんな男に惹かれるなんて、それこそありえないですね。


 しばらくしてハヤト様がやってきました。

 彼は一人で何をしていたのでしょう?


 そして、私には理解できない内容が広がり……お姉様がこちらを振り向きました。


「というわけなの。今まで私とハヤトはお互いに入れ替わっていたのよ。貴方達が慕うお姉さまは、私ではなく……ハヤトなの」

「え……ど、どういうことでしょうか?」


 話の内容は、到底理解できないような代物です。

 でも、まさかそんなことって。


「つまり、婚約者候補なのは私で、今アレの中身は別物よ」


 ……聞き間違いでは、ないのですよね?

 ということは、私が好意を持っていたお姉様というのは今までのハヤト様で……私は今まで。


 でも、私の慕うお姉様はハヤト様で、なら問題ないのでは?

 頭の中はグルグル回りますが、いまだってお姉さまの話を半分も理解できていない。いえ、理解するのを……拒否しているのでしょうか。


 だって私も、婚約者だったハヤト様……つまり、目の前にいるお姉様に惹かれていたのですから。


予想以上に長くなったので一人だけです。

次でサイドは終わる予定です。

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