それぞれの思惑 男性side
クロイス視点。
今日はハヤトが教室に来なかった。
いや、来たには来たが、あの中身はセシリアのはずだ。
昨日父親に相談するとは言っていたが、その際に何か吹き込まれたのだろうか?
周囲のクラスメイトも「何故隣のクラスの人間が?」と口には出さないが困惑していることが伝わってくる。
俺の他に、事情を知っている彼女はまだ来ていない。
これは俺がセシリアに事情を聞くしかなさそうだ。
「そこはハヤトの席じゃないぞ」
「? 私の席ですけど。どうぞお構いなく」
は?
注意したのに、こいつは何を言っているのだろうか。
さも堂々といった姿に、俺だけではなくクラスメイトも呆気に取られている。
多分皆こう言いたいに違いない。
「いや、お前弟のほうだろ」
と。
口に出す人はいないので、俺が代表して口を開こうとした時、入り口の方から誰かが飛び込んできた。
いや、あれはハヤトか?
見た目はセシリアだが、本物のハヤトが飛び込んできた。
……待て、どうして隣のクラスの方角からやってきたんだ?
その後二人は入れ替わるように、ハヤトがセシリアの席へ。
ここにいた弟のほうは、隣のクラスへと向かっていった。
身体的にはそれで合っているんだが……まるで、二人が入れ替わったかのような行動に疑問が残る。
まさか、満月の明日ではなく、このタイミングで元に戻ったのか?
抱いた疑問はすぐに晴れることになった。
それも、最近ではハヤトのほうからやってくることが多かったので、例え見た目が女性でもハヤトなら、と油断していたせいだろう。
普段は呼び出されることもないのに、彼女に手を引かれるまま人気のない場所まで案内された。
「どうした? こんな場所まで連れ出さなくても、いつもみたいに教室でだな……」
「クロイス様、私は誰だと思います?」
その時、彼女の目を正面から見つめた。
敬称をつけるのもそうだが、その瞳の奥に感じる感情は……ハヤトのモノではない。
あいつにこんな感情を向けられたことはないし、その手のことに関してアイツは鈍感にも程がある。
朝から感じた違和感も合わせると……これは。
「セシリア本人、だな」
「ご明察の通りです」
やっぱりな。
その言葉を聞いた時、一番に感じたのは納得だった。
そして彼女がセシリア本人でよかったとの安堵。
もし昨日までと同じで、ハヤトがセシリア身体に入っていたなら……この質問に俺はどう返答しただろう。
この次に続いたであろう、言葉について。
目の前の彼女は予想通りとでもいうように、それだけ確認して立ち去ろうとする。
かつて俺に想いを寄せていたはずの女性は、そこにいなかった。
「待ってくれ。セシリア嬢は……それでいいのか?」
「私にはやりたいことができたのですよ。それに、殿下の幸せもありますしね」
その後、彼女は放課後に学園入口まで来るようにとだけ伝えて去っていった。
そこに本物のハヤト……おそらく今朝クラスを間違えたのがハヤトだ。
アイツも呼んで話し合うのだろう。
しかしだ。
さっきの彼女、あれはいったい誰なんだ?
ハヤトでもなければ、俺の知るセシリア嬢でもない……よなぁ。
――――――――
ガイアル視点。
最近は彼女の姿を見ない。
もしかすると、あの時強く言い過ぎたか?
この前あれほど男らしく俺を負かせた女性が、まるで媚びるように泊めてほしいとねだってきた。
他の女性なら抱いてほしいのかと思うところだが、あれだけ俺に靡かなかった女だ。
急に心変わりするにしても、何か理由があるはずだ。
なので、俺はこう言った
「……本当のお前を見せろ」
「え?」
「今のお前は妙に女々しい。というか、見ていて違和感だらけだ。俺を負かしたセシリアではない、別の誰かだ」
「それってもしかして」
「……不愉快だ。消えろ」
その後、姿を見せなくなったが……本当に消えるとはな。
学園には来ているようだが、俺が近寄る隙もないほどに兄貴へベッタリに見える。
何だアレは。見せつけているのか?
それに対応するように、セシリアの双子だというあの男も女性に囲まれて楽しそうに歩いている。
俺以上のハーレムを作っているだと?
あの姉弟、やはり只者ではないらしい。
近くには人目を引く美人も混ざっていたが、あの女性……どこかで見たことがあるな。
彼女は目が合うとすぐにそらしてしまったが、これは脈アリなのか?
いや、あの男と腕を絡ませているのでそれはないだろう。
雑念を振り払い、今日も剣の鍛錬に勤しむ。
全ては、あの女にリベンジするため。
そしてその暁には……。
しかし、そのチャンスはすぐにやってきた。
前振りもなくセシリアが俺のところへ訪ねてきたのだ。
そして一言。
「放課後、学園前に来なさい」
それだけ伝え去っていった。
強者の余裕なのか? あの女の纏う雰囲気は随分と変化したように思える。
しかも、闘志が全く感じられない。
だが、意思を曲げない。何かを貫き通す信念は伝わってきた。
たまに親父が、技術よりも勝るモノとして語っている……あれがまさか、想いの強さというやつなのか?
その疑問を晴らすためにも、呼び出された場所へと赴いた。
そこには兄貴と、俺が口説いた相手……イブといったか。あとはセシリアとたまに見かける女がいた。
アイツは確か……双子の弟と仲が良い女だったな。
もしかすると親同士で知り合っていたのかもしれないが、学園に入ってからの俺はセシリアに夢中だ。
彼女のことは生憎と眼中にはいっていない。
そして、誰もが無言を貫く中、セシリアの弟がノコノコとやってきた。
あの姿……いや、セシリアはすぐ近くにいるが、あの姿は間違いない。
アイツが本物だ。
その事実に気づいた時、俺は奴に話かけていた。
「セシリア。まさかお前がセシリアだったとはな」
「…………」
「ハヤト。アンタのことよ?」
「え? ボクは違うけど」
いや、俺の目は誤魔化せない。
こいつは素で俺のことを忘れていたようだが、今度こそ正面から戦い、俺のモノにする。
どうしてそうなっているか、あの時は何故二人が入れ替わったのか。
疑問はあるが、全ては俺に勝つためだったのだろう。
なら、こちらとしては全力で迎え撃つのみだ。




