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「……もしボクが戻っても、そんな目で見ないでね?」


あれから何度か姉さんに突撃するも、返ってくるのは決まった定型文だ。


「もう少し身体を借りるよ」

「明後日には満月になるっていうのに、まだそんなこと言っているの?」


その日を逃すとまた一ヶ月は延期されてしまう。

イブさんいわく「まだ大丈夫」とのことだけど、ボクとしては早く戻りたい。

……何のカウントダウンかは非常に気になるところだけど。


いつものように姉さんに振られ、イブさんに慰めてもらう。

ここまでが最近のワンセットだ。




「イブさーん……」

「よしよし。今日もダメだったのね。ほら、クッキー食べる?」

「……食べる」

「……このまま飼えないかしら」

「何か言った?」

「いえ、何も。お茶もあるから慌てずにね」


そのままモグモグと咀嚼し、落ち着くまで待ってもらう。

ニコニコとこちらを見てくるイブさんに、ふと疑問が出てきた。


「んくっ、そういえばボクと姉さんのことって、イレギュラーって言っていたよね」

「そうね。少なくとも私は知らないわ」

「メイドさんたち以外に、イレギュラーっているのかな?」


彼女はモブと呼んでいるけど、その人たち以外にもボクのような存在がいるかもしれない。

もしいるなら姉さんを説得する切り札にもなるかもと思ったんだけど。


「いるにはいるけど……それこそ、下町の人間ほとんどといっても過言ではないわ。クラスの半数以上もそうよ」


視える未来というのはイブさん周辺に限定されている。

なので基本的に関わってこない人間は、名前どころか顔すら知らなかったようだ。


「そっか。ごめんね変なこと聞いて」

「そういえばオリーブという人はいたけど、リリアって人は名前しか聞いたことがなかったわ。まさかあんな美人だとは予想外ね」

「え? リリアさんはいなかったの?」

「……少なくとも、私には関わりのない人物だったわ」


隣のクラスだからか、とある家に嫁いだとしか伝わってこなかったらしい。

ボクの家じゃないなら安心には安心なんだけど……。


「万が一だけど、彼女はそのまま貴方のお嫁さんになる可能性もあるわ」

「ボクはリリアさんをよく知らないのに、そんなの困るよ!」

「私も困るわ。だから、一応伝えておくけど」


何でも彼女は、ガイアルの元婚約者だったらしい。

それがイブさんが現れたことによって、ガイアルが暴走。

リリアさんの家に婚約解消を認めさせ、代わりにイブさんへとしつこく付きまとうようになったという。


「何か既視感があるね」

「……私の立ち位置を、貴方が取ったからじゃないかしら?」

「でも別に付きまとわれてないよ? 普段から邪険にしているし」

「それは彼も不憫だけど……ま、私と貴方は違うわけだし」

「ちなみにイブさんのときはどうだったの? 邪険にしなかった?」

「相手にもしなかったわね」


ボクと彼女は似たもの同士らしい。

ふふ、だからイブさんとは気が合うのかな。


「ま、それから私が…………と、結ばれた頃、ガイアルが落ち着いたって噂を聞いたの。リリアという人物と婚約してね」

「うーん。リリアさんにガイアルを好きになるように説得する? 何か違うなー」

「彼女も好きってわけではなさそうだもの。ただ、私もガイアルのことはよく知らないから……これ以上はあれこれ言っても仕方ないわ」

「ありがとう。参考になったよ」


リリアさんが姉さんを説得するための鍵になりそうだけど、そのための材料を持ち合わせていない。

何とか元に戻れたら、彼女にいままでのハヤトは姉さんだったと伝えるんだけどな。




また姉さんの交渉を失敗したボクは、クロイスに送ってもらいながら帰宅する。

最初はクロイスから誘ってきたので、周りの女子がよく騒いだっけ。

今では姉さんがクロイスをハメ(・・)たように振る舞ったおかげか、周囲の目はクロイスに同情するような視線に変わった。


「今日も腕を組みましょうか、セシリア嬢」

「もう、冗談はやめてよ」

「はは。学園にいる間は、都合が良いだろ?」


そうしてクロイスの腕を取ったわけだけど、学園を出てからもタイミングが掴めなくて、腕は組まれたままになっている。


「おいおい、もう時間がないが大丈夫なのか」

「あー……今夜父さんにも相談してみるよ」

「しかし、あのセシリア嬢がな。あちらも随分と楽しんでいるようだ」


クロイスは隣のクラスについて、早い段階から気づいていたようだ。

まさかハヤトがハーレムなんて! と思っていたこともあってか、ボクの正体にもたどり着いたらしい。

……非常に不本意だけど、ボクの女性免疫の低さが役に立った瞬間である。


「他人事だと思って」

「実際他人事だしな。今のハヤトは近寄りがたいし」

「えっ?」

「あ、いや……セシリア嬢にはなんというか、ハヤトの身体だというのに特有のオーラが視えるようでな」


姉さんの好き好き攻撃は、ボクの身体でもおかまいなしらしい。

クロイスもそんな感情を敏感に察知するも、男同士で……しかもハヤトに限ってそんなことはありえない。

なら自分がおかしいのか? まさか……と自己嫌悪に陥っていた時期があったそうだ。


「今は俺が正常だったとわかって嬉しい限りだ」

「……もしボクが戻っても、そんな目で見ないでね?」


いくら中身が違うとわかっているとはいえ、ハヤトの状態でクロイスに避けられるのは辛い。

……そう考えると、クロイスに怯えていた時は悪いことをしたかな。


「それはわから……いや、当たり前だろ。お前こそ、その……そんな目で見てくるな」

「え、どんな目か教えて? ねぇ」


その場で立ち止まり、少し上にあるクロイスの顔を覗き込む。

ボクの目ってそんなにおかしいのかな?

もしクマでも出来ていたら、姉さんに叱られそうだ。


「っ! もうすぐ家に着くだろ? 俺はここで帰るぞ。じゃあな!」

「あっ、待ってよ! ありがとう……ね」


背中を向けて歩く彼は、片手を軽く上げて答えた。


うん。

クロイスからエールは受けたし、あとは父さんに相談して説得するだけか。

リリアさんのことを出せば、姉さんも嫌とはいえないはずだけど……どうなるかな。


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