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「わ、私は……クロイス、様。一筋……です、わ」

 


 その日は午前が終わるまで医務室で過ごした。


 何度か姉さんの知り合いらしき女子が訪ねてきたけど、今のボクに対応している余裕はない。

 寝たフリをしてしまったけど、おかげで誰が来てくれたのかわからないや。


 休んだおかげか、体調も随分と回復した。

 これから毎月この痛みに苦しめられると考えると……やっぱり無理ぃ。


 先生に御礼を言い教室に戻ろうとした時、ふと隣のベッドにも誰かいることに気づく。

 あれ、朝はいなかったはずだけど。


「あの、失礼ですがお隣は……」

「ああ、あれね。ただのサボリだから気にしないで頂戴」

「はぁ……?」


 気にするなといっても、ボクが寝たフリをしている間、気づかれずにベッドへ入ったってことだよね?

 いつの間にか本当に寝ていた時間があったかもしれないけど、よかった……ボクのほうに来なくて。


 そう安堵していると、目の前のカーテンが勢いよく開いた。


「何を言う。俺様はマドモアゼルを口説きに来たに過ぎん。それをお前は、頭が大丈夫かなどと言い無理やり寝かせたのであろう」

「あら、貴方の頭がおかしいのは本当のことじゃない」

「うわぁ……」


 目の前には、見たことがない男子生徒がいた。

 一学年下の色を付けているってことは、今年入学した新入生だよね?


「おや、そちらは先程可愛らしい寝顔を晒していたお嬢さんではないか」

「なっ! 失礼です! 勝手に人の寝顔を盗み見るなど!」


 貴族の常識では、女性の寝顔を覗き見るのは失礼に当たると教えてもらったのに、どうやらこの人、教育が足りないのかな?


「光栄に思え。俺様はお前の寝顔が気に入った」

「え、それってもしかして……」


 まさかプロポーズ?

 確かに姉さんはボクから見ても綺麗だ。

 入れ替わった初日なんか、鏡の前で姉さんが絶対にしてくれないような表情をこれでもかというほど試した。

 上目遣いや、目をウルウルさせてこちらを見つめる姉さんは……ボクの名前を呼んで、存分に頼ってくれたなあ。

 ……ダメだ。これ以上はボクにもダメージがある。


「そうだ。いずれは俺のモノになれ」

「そんな、困ります!」

「何だと? 王族に連なる俺様の誘いを断るか。まさかお前も、クロイスの奴に誑かされているわけではあるまい」

「わ、私は……クロイス、様。一筋……です、わ」


 自分で声に出して、改めて思った。

 どうしよう、死にたい。


「なら、仕方あるまい。お前は特別に……」

「特別に?」

「俺様の第三夫人、にしてやろう」

「助けてクロイス!!」


 先生が言っていたように、この人は頭がおかしい!

 しかし、助けを呼んでもクロイスが来るはずもない。

 その場は先生が叱ってくれたけど、どうせならクロイスに守って欲しかったな。




 頭のおかしい後輩は先生に任せて、ボクは教室へと戻った。

 何だろう、あれだけ重かった身体は、今は別の意味で重いや。


 教室に入ると姉さんの派閥やいつも遠巻きに見ている女子に囲まれたけど、それらを全部、本調子じゃないということであしらう。

 しかしそれでも、ボクに近づいてくる女子がいた。


「ご機嫌麗しゅう、セシリア様。随分とお体が悪そうですね」

「ええ……この時期は苦労しますわ」


 姉さんいわく、この言葉で女性は察してくれるらしい。

 彼女もこれで立ち去ってくれるかと思いきや、その顔はニヤリと笑っていた。


「フフ、無様なことですね。そのまま貴方の派閥が地に落ちるのを見ていなさい」

「え?」

「驚きすぎて言葉も出ませんか? 近いうち、貴方の派閥は消滅するでしょう。私の派閥に引き入れる準備も進めていますのよ?」

「よかった」

「え?」


 今度は彼女が困惑する番だった。

 確かに驚いたけど、ボクとしてはそのほうがありがたいや。

 姉さんの許可ももらったし。


「ど、どうやら未練はないようですね。何なら、貴方もこの私、オリーブ一味に入れて差し上げてもよろしいのですよ?」

「結構ですー」


 人が弱っているところにこの仕打ち。

 こんな女性、ボクなら絶対にイヤだな。

 この人もクロイスを狙っているみたいだし、今度クロイスに告げ口しちゃおうっと。


「ふん! 去年のようにはいきませんわよ!」


 それはボクが一番わかっている。

 だって、中身が違うんだもの。


 そんなことを思っていると、こちらのやり取りを驚いたような顔で見ている人物がいた。

 あれってイブさんだよね?


 彼女は目が合うと逃げるように何処かへ行ってしまったけど、そんなにボクの対応はおかしかったかな?

 周りを見ると、男子はともかく、女子には全員に注目されていたらしい。


「……あ、派閥の関係か」


 彼女たちには重要かもしれないけど、ボクには派閥というものの重要性がわからない。

 だって、興味のない男子連中と同じ、男なんだもの。


 その後は気にせず放課後までの時間を過ごした。

 しかしまあ、ボクに話しかけてくる女子がいなくなった点では、派閥というものの存在はありがたかったかもしれない。


 これでボッチだよ! やったね!

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