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「なんか、貴方のってよりは彼のメイドじゃない?」

釣りです。

タダの釣りですよ……タダの。


船には五人の人物が乗っていた。

そして、いま甲板に出ているのは二人だけだ。


「つまり、全員知っているわけね」

「そ、そうだね。クロイスは誤魔化せなかったよ」

「……はあ。貴方が訪ねてきたときは何かと思ったけど、順序っていうものがあるでしょ」


イブさんはやれやれといったように肩をすくめる。


あれから学園の側まで行き、ボク一人でイブさんを呼びに行った。

クロイスや部外者のサラさんが行くわけにもいかないし、部屋を知っているのはボクだけだからだ。


遊びに誘ったときは驚かれたけど、待っていたクロイス達を見てさらに驚かれた。


「いい? 確かに釣りに行きたかったとはいえ、それはもう過ぎたことよ」

「でも機会ができたんだし、ちょうどいいかと思って」

「それに、いまさらクロイス様の好感度を上げたって別の……」

「ハヤト様、気分はいかがですか? まだ時間がかかるようなので、室内でお休みになってはいかがでしょうか?」


イブさんの言葉は、いつの間にか近づいてきたサラさんに遮られた。

向こうの方でで釣り道具を触っていたはずだけど、ボクを心配して見に来てくれたらしい。


「全然大丈夫だよ。それよりも風に当たっていたいかな」

「そうですか。体調が悪いようなら、すぐに言いつけてくださいね。ハヤト様は自覚が薄いので」

「うん。ありがとね」


それだけ言って、彼女はまた作業に没頭する。

誘ったボクたちが言うのもアレだけど、彼女もドハマリしたなー。


「あの女性とは、随分と仲がよろしいのね」

「うん。ボクと姉さんより仲良しだよ」


サラさんを紹介したとき、彼女の言う未来でも登場しなかった人物らしい。

爺やといいサラさんといい、家の使用人とイブさんは関わらないようだ。


にしては、ローレンスさんのことは知っているとのこと。

彼女の穴あきの未来は気になるけど、知らない人はこれから知ってもらえばいいよね。




「よし。ココらへんにするか」

「待ってたよ。じゃあイブさんにはクロイスが教えてあげて?」

「え?」

「いや、俺が教えるよりはハヤトが適任だろ。任せたぞ」

「え、ボクが?」

「そうね。私としてもそのほうが良いわ」


ボクの目論見は失敗したけど、二人が言うならそうしようかな?

クロイスはそのままサラさんと肩を並べた。

あの二人、まだ出会ってすぐなのに仲良すぎない?


「なんか、貴方のってよりは彼のメイドじゃない?」

「……ボクもそう思ったところだよ」

「ま、まあ! こちらはこちらで楽しみましょう!」


イブさんは話を逸らすようにあれこれと道具の使い方を聞いてくるけど、ボクに気をつかってくれているのがヒシヒシと伝わってくる。


お互いに気まずいまま、一通り教え終わるだけの時間は過ぎた。

あとはかかるのを待つだけだ。


「ようやく始まったか。ときにハヤトよ、昨日の続きといかないか?」

「続き? それって勝負でもするの?」

「そうですね。ペアで釣った魚を競うというのはどうでしょう? 負けた方は……ローレンス様の要望を聞くということで」


なぜローレンスさんが? と思ったけど、お互いに公平を期すためらしい。

これなら勝っても負けても悪いようにはならないし、船を操縦するローレンスさんにもメリットがある。


「ということだ。ローレンスは何か考えておいてくれ」

「承知致しました。どちらが負けても良いように、予め紙に書いて伏せておきましょう」


そうしてサラサラと記入された紙は、重しを乗せて甲板上に置かれた。

……内容は気になるけど、勝負というからには勝つつもりだ。


「フッ、初心者がいるからな。そちらにはハンデをやろう」

「あら? そんなに舐めてしまっていいのですか? こちらはハヤト様とタッグなのですよ」


横にいたイブさんに、グッと肩を抱かれる。二人の頬がピクリと反応したのは気のせいだろうか?

それにしても、イブさんはどうしてこんなに強気なんだろう?


「ああ。五匹分のアドバンテージはもっていけ。その代わり……俺は新調した道具を使わせてもらう」

「あっ、ズルいよ!」


見せつけられたのは、クロイスが以前から悩んでいるといっていた釣り竿だ。

太すぎす細すぎず、操作性も抜群。それでいてよくしなり、バランスのとれた重量だとベタ褒めしていた一品だ。

さすが船をポンと買える人は違う。


「フッ……道具に頼らなければ勝てる自信がないのですね」

「あ?」

「ちょ、イブさん! 二人とも仲良く、ね!」


ちなみにサラさんは、どこ吹く風といった感じで呑気に糸を垂らしていた。

いや、目的は間違っていないんだけどね……。


まだ火花を散らす二人を離して、イブさんをこちらに回収する。

反対側がボクらのスペースだけど、なんだがどっと疲れた。


「さて、私はハンデで五匹いるから。勝負は貴方の腕にかかっているわ」

「それ威張れること?」

「あ、早速かかったわ」


ボクが手を出すまでもなく、彼女は一匹目を釣り上げる。

なんだが妙に慣れていない?


「……あー。身体的には初めてだから、初心者には違いないわ」

「深くは聞かないけど、勝とうね?」

「ええ」


ボクだって趣味でやるくらい好きなんだ。

初めてのイブさんに負けてたまるもんか!




結果、イブさんには勝てなかったよ……。

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