「あはは。ただの遊びで本気を出さなくてもいいのに」
皆に反論されてふてくされていたけど、ローレンスさんの提案でサラさんも一緒なら、と許可が出た。
なんでも彼にとっては客人であるので、肩の力を抜いてほしいそうだ。
「そんな。私はハヤト様のお世話をするために来ています。仕事を放棄するわけには……」
「ね? お願い……いっしょにあそぼ?」
サラさんの手を取り、ボクは少し上を向いて頼み込む。
こういう機会じゃないと遊べないから、姉さんよりも仲が良いサラさんと遊べるなら必死にもなる。
「ぐっ……わかり、ました」
「ほんと? やった!」
「……おいローレンス。俺の目がおかしいわけじゃないよな?」
「私めも驚いております」
ボクたちのやり取りを見て、ここの家主が何か言っている。
そういやサラさんに会うのは初めてだっけ?
「さっき紹介した通り、サラさんとは家族よりも仲良しなんだ。それこそ、ボクの本当の姉さんみたい」
「いや……しかしな」
「ねー?」
「……お言葉ですが、ハヤト様。今の言葉をセシリア様に伝えてもよろしいでしょうか?」
「あ、ごめん。それはやめて」
ただでさえ頭が上がらないのに、そんなことを知られたら何をされるかわからない。
今ならボクの身体を人質にして脅迫でもしてきそうだ。
「そうですか、残念ですね。せっかくあの小娘に……」
「え? いま何て……」
「せっかく遊ぶなら、ハヤト様のやりたい遊びを教えてください」
「うん、そうだね!」
やっぱりサラさんは姉さんと違って優しいや。
今なら遠慮なく抱きつくことができるので、彼女の胸に飛び込む。
……その光景を見ていた男性二人が、何か恐ろしいモノを見るような目で見ていたので、咳払いをしてから離れた。
「コホン。サラさんとはこんな感じで仲が良いってわかったかな?」
「あ、ああ。それよりもお前の姉と、そこのメイドの関係が……」
「私はハヤト様の専属メイドですので、セシリア様の担当は別の人物ですわ」
「いや、さっきの言葉……」
「あら? 殿下とは共通の敵を持つ仲間かと思いましたが?」
「……ああ。貴方のようなメイドがいるなら、ハヤトの家に招かれても良い気がした」
「歓迎しますよ。事前に教えて頂けるなら、その日だけセシリア様の専属を勤めたいほどです」
いつの間にか二人は仲良くなったみたいだけど、そこで交わされる言葉は不穏なものだ。
お互いに笑い合っているはずだけど、背後に黒いオーラが視えるのは何でだろう。
唯一の味方であるローレンスさんは、いつのまにか消えていた。
そうして、昨日よりも一人増えたお泊り会は過ぎていく。
今は三人でトランプをしているところだけど、さっきからクロイスの視線が気になる。
ボクではなく、サラさんに向ける視線が。
メイドさんに免疫がないのかな?
それとも、今の彼女は寝間着だから、単純に目を奪われているだけかもしれないけど……どこに目を奪われる要素が?
「……どうかしましたか? 私の一部を凝視されて」
「い、いや! 何でもないよ!」
「そ、そうだな! 何でもありません!」
「殿下もですか。いえ、今の私はハヤト様のお姉ちゃ……姉代わりです。殿下はお気になさらず」
その後、ボクだけギロリと睨まれた。
……どこを見ていたのか、気づかれましたか。
いくら姉さんの身体とはいえ、同じ女性に勝っている部分があると優越感に浸りたくなるものだね。
それが異性の前だと尚更だ。
ちょっと待って。異性?
目線を動かすと、ちょうどクロイスと目が合う。
「ん? どうした。ハヤトの番だぞ」
「う、うん」
心の動揺がバレないように取り繕うも、ボクの手は震えていた。
ボクは男で、クロイスも男だ。
でもそうやって意識してしまうということは……まさか、感情まで姉さんの身体に引っ張られている?
「ははっ、そんなに緊張しなくてもいいだろ」
「そうですよ。罰ゲームがあるわけでもないので気楽にいきましょう」
「そっ、そうだね! じゃあ次から罰ゲームでもつけようか」
何気なく言った言葉だったけど、その場の空気が一瞬で変わった。
「……ようやく肩慣らしも終わったので、そろそろ本気を出そうとしていたところです」
「奇遇だな。俺もウォーミングアップは終了した。遊びはここまでだ」
「あれ? 二人ともどうしたの。冗談だよ?」
罰ゲームなんかつけて殺伐とするのは良くない。
そんなのは姉さんに強制されるだけで充分だ。
「チッ、折角の機会でしたのに」
「合法的に……の、チャンスが」
「あはは。ただの遊びで本気を出さなくてもいいのに」
「……次の勝負、共同作戦といきましょうか」
「ああ。俺もそう思っていた」
「えっ、ちょ!」
二人ともホント、仲良くなりすぎじゃない?
そうして何戦かフルボッコされた後、ボクが投げ出したことでお開きとなった。
クロイスは部屋に戻ったけど、ボクはサラさんと同室で寝ることになる。
「あの時以来だね。一緒に寝るなんて」
「ハヤト様が寝込んだときですか……」
風邪でダウンしたときは手だけ繋いでもらったけど、今日はベッドこそ別とはいえ同じ部屋で横になる。
清掃の関係もあるので、使用人ならではの視点から同室が良いとの希望だ。
クロイスは何か言いたそうだったけど、結局何も言わず去っていった。
「今日も手を繋いじゃう? なんちゃって」
「……お望みなら、ハヤト様のお側に参りますよ」
「あはは。冗談だって。おやすみー」
「……おやすみなさいませ」
意識を手放す前、何かが手に触れた気がしたけど……睡魔には勝てず、ボクはそのまま深い眠りへと落ちていった。




