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「失礼な! 身体は姉さんそのものだし、これも本物だよ!」

 二人の間に静寂が訪れる。

 沈黙を破ったのは、ため息をついたクロイスだった。


「……はぁ。沈黙は肯定ってことだろ」

「ク、クロイス様? どうしてそのようなことを」

「取り繕わなくてもいいぞ、確信したからな。といっても、続けたいなら構わないが」

「……やっぱり敵わないや」


 ダメ元だったとはいえ、クロイスが姉さんを泊めるなんておかしいと思ったんだ。

 思えば前々から疑問は持たれていたのだろう。


「やっぱりハヤト、なんだな」

「そうだよ。ちなみにいつから気づいたの?」

「ハヤトが俺を避けるようになってからだな。このひと月の間に観察してようやく結論が出たところだ」

「え? ということは、それまで気づかなかったの? ちょっとショック」

「いや! 疑問は抱いていたぞ! 最近のハヤト……あれはセシリア嬢か。彼女はやけに接触したがったし、俺の言うことは妄信的にうなずいているだけだったからな」


 姉さんが何をしていたかも気になるけど、恐怖症になるまではボクの女性の仕草が板についていたってことだよね。

 ……もしボクだってバレた上で、あんな行動を取っていたと知られたら恥ずかしすぎる。


「確信を持てたのは最近だが、思えばこの学年になってからセシリア嬢の行動はおかしかったような」

「わーっ! そ、そんなことないですわよ? ききき、気のせいじゃないかしら? オホホホホ」


 頬に手を当てて、首をかしげる。

 ボクのそんな仕草を見て、クロイスはまた大きなため息をついた。


「……いつの間にか、俺の親友は大きく変わってしまったようだな」

「え、姉さんの身体になっただけだよ?」

「…………はぁー」


 クロイスにバレたとはいえ、ボクはまだ男に戻るのを諦めていない。

 そのために必要なのは……口封じだ。


「気になっているだろうから、事情を話すね」

「だな。俺としてもこれからの対応を悩んでいる。悩みも抱えているようだから相手になるぞ」

「クロイス……ッ!」

「あ、すまん。そんな真っ直ぐな視線を向けられると困る。まずは話だけ聞かせてくれ」


 まるで神様にするような祈りを捧げたのだけど、親友には過剰だったらしい。

 迷惑だったのか、すぐに顔を反らされた。心なしか赤くなっていたような?


 そうだよね。

 ボクとクロイスの関係なら、こんなことをしなくても充分だ。


「えーと、ボク……姉さんが襲われたときがあったでしょ? その時、姉さんが引きこもりになっちゃいそうだったから、ボクが代役にされたの」

「それはもし襲われても、ハヤトなら対応できるからか?」

「よ、よくわかったね。ボクなら襲われても冷静に撃退できるだろうって、父さんに無理やり」


 本当は何もできなかったのだけど、ここは見栄を張らさせてもらう。

 だって包み隠さずに言うと、いつから入れ替わっていたのかバレそうだもん。


「にしても、人格交換の方法か……検討もつかん。ハヤトの女装じゃないのか?」

「失礼な! 身体は姉さんそのものだし、これも本物だよ!」


 机に置かれていたクロイスの手を取り、ボクの胸に強く押し当てる。

 直接見せるわけにもいかないし、これで納得してほしいんだけど。


 クロイスは何をされたかわからないようだったけど、視線はボクの胸と顔を交互に移動していた。

 やがて視線が胸で固定されると、ボクの身体ごと勢いよく引っ張られた。


「きゃっ!」

「うわっと! すみません、大丈夫ですか? あ、いや。大……丈夫か?」


 クロイスの腕をガッシリ掴んでいたせいで、引っ張られた反動で机の上に乗り上げてしまった。

 ……そして、まだ片付け終わっていなかった食器やカップがジャラジャラと散乱する。

 もちろん、ボクの服は汚れる。

 顔に何か飛んできたけど、それでも腕は離さずにクロイスを睨む。


「………………」

「すまん。ローレンスに頼んで綺麗にしてもらおう」

「まったくもうっ! 勘弁してよ」

「そ、そう……だな」


 いつまでもその状態ではいられない。

 お互いにゆっくりと下がって、今度は自由になった両腕を組んでクロイスを睨む。


「……何だ?」

「むぅ~!」

「そんなふくれっ面じゃわからんぞ」

「あ・や・ま・っ・て?」

「申し訳ない。お詫びにまた船で釣りに行こう」

「ほんとっ! 約束だからね」

「ちょろ……ああ、約束だ」


 姉さんの身体とサヨナラできれば、船酔いなんて関係ない。

 今度こそ目一杯楽しみたいな。


「服は、その。俺のせいで悪いのだが、ここには見ての通り俺とローレンスしか住んでいない。なので、あのだな」

「着替えはあるし、お風呂のこと? ボク一人でも大丈夫だよ」

「まさか姉弟で……」

「違うから! 慣れ……無理やりだよ、無理やり!」


 慣れるほどその身体でいるのか、と聞かれることは回避した。

 ま、多少時間はかかるけど、お付きのメイドがいなくても一通りはできる。

 ……出来るように、叩き込まれた。


「あ、ローレンスさんには話すの?」

「そうだな。安全のためにも話したほうが良い。それとも、何かまずいか?」

「ううん。ほんとは誰かにバレたら嫁に行けって言われているけど、父さんと姉さんにはウンザリしてるから無視する」

「嫁だと! ということは、一生セシリアとして過ごすってことか!」


 肩をいきなり掴まれて、クロイスと至近距離で見つめ合う。

 やばい。

 恐怖症の影響か、また鼓動が早くなってきた。


「そ、そうみたいだけど。でもクロイスが黙っていてくれるなら問題ないよ?」

「……………………極力、努力しよう」


 やけに長い溜めが気になったけど、クロイスはボクの味方だよね?

 まさかこのままでいてほしいなんてことは…………まさか、ね。

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