私のハヤトがこんなに可愛いわけがない。
イブ視点
◇◇◇◇
ついに告白してしまった。
ハヤト様がセシリア様になっているなんて予想外だったけど、これで協力は取り付けたわ。
あとは、これ以上影響が出ないように過ごすのみ。
……まあ、男に戻すという大きな問題はあるけど。
次の日、ハヤト様はガイアルと一緒にやってきたみたい。
私はいつもどおりの時間だったから知らないけど、目撃した人は多いから事実でしょうね。
実を言うと、私にも心当たりはある。
数人の女子から恨みを買っていたセシリア様は、ある日教室に閉じ込められる。
そして本を読んで遅くなった私が偶然助けるのだけど……彼女は一人で帰ってしまう。
その後、男性に連れ去られそうになって、ガイアルに救出される。
でも、そのイベントはもう少し先のはずだけど?
私がクロイス様と仲を深め、それにセシリア様が嫉妬することで発生するイベントだったはず。
まさか、私の部屋で仲良くお茶した後に発生するなんて。
案の定、ハヤト様は男性恐怖症にかかっていたみたい。
男性のハヤト様が、同性に怯えるなんて!
いえ、これは笑い事じゃないわね。
現に今も、セシリア様やクロイス様と揉めている。
「……どうやらガイアルは大丈夫のようですわ」
「やっぱり、お泊りってそういう……」
「違います! 何もなかったですから!」
「セ、セシリア嬢。俺はどうですか?」
「……すみません。無理みたいです」
そういや、セシリア様はそのままガイアルと結ばれたわね。
でもあれ? このままいくと、ハヤト様がガイアルと?
そう考えているうちにも、ハヤト様はガイアルによって高い高いされた。
嘘! 彼って意外と力持ちなの?
「う~~~~!!」
「そんな猫みたいに唸られても」
「可愛いな……」
「へっ? クロイス、今なんて?」
「いや、本当にアイツとは大丈夫そうだな」
そのやり取りを見て、私はその場にしゃがみこんでしまった。
……あれは反則よ。
私のハヤトがこんなに可愛いわけがない。
そう、あれは別物よ。
よく知るハヤトではない。知らないハヤト様なの。
でも!
「一粒で二度美味しいわね……じゅるっ」
私にとって、ご褒美以外の何者でもないわ。
どうしましょう。ハヤト様を男に戻すのがもったいなく思えるわ。
教室では、まるで小動物かのようにハヤト様が駆け寄ってきた。
「イブさん! ここが分からなかったの。教えて?」
「……ちょっと、セシリア様? 距離が近いです」
「え~、いいでしょ? 私達お友達だもんね」
……周囲の視線を感じる。
何これ、こんなイベントなかったわよ。
なんでこの人、ここまで幼児退行しちゃったの?
「私のノートを貸すので。今はあまり目立ちたくないの」
「そう? ごめんね。ノートありがとう!」
……視線は、私から外れないわね。
特にクロイス様が睨みつけているみたい。
え? 私、メインヒロインじゃなかったの?
昼休みになってまた一難。
ハヤト様……やっぱ来ますよねー。
「今日はお昼一緒に、いい……かな?」
「どうぞ」
「ありがとう。えへへ、初めてだね」
私にとっても初めてよ。
なんで貴方は、経験にないイベントばかり起こすのかしら?
誰かとお昼を食べるなんて、クロイス様とセシリア様が二人っきりで食事をするようになってからだ。
そこにハヤト様が加わって、何故か私も誘われ四人になる。
けどこれ、二段階くらい飛び越えていない?
しかも重要なイベントを。
「それって全部手作り?」
「え、ええ……寮の人間に頼むより、自分で作りたいの」
「ふわぁ、ちょっともらっていいかな?」
そんな満面の笑みを向けられたら断れないじゃないの。
私の許可が出ると、早速ハヤト様は料理の一つを口に入れる。
「……美味しい! これ自分で作ったの? ウチのメイドさんの味とはちょっと違うけど、素材の味が良く出てるね」
「そ、そう?」
見た目はセシリア様だけど、私いま……ハヤト様に料理をベタ褒めされているのよね。
本当は四人のときにそうなるはずだったけど、これはこれでアリね。
「うん。イブさんは良いお嫁さんになれるよ」
「なッ!!」
思わず席を立つところだった。
それ、イベント通りのセリフなんだけど。
周囲を見渡すと、注目はされていないみたい。よかった。
ハヤト様がその発言をし、クロイス様の疑惑が発生する。
そして四人で行動していくうちに疑惑は膨れ上がり、私の行動によって二人のどちらかが選ばれるのだ。
でも今のハヤト様はセシリア様で、クロイス様もいなくて。
……ダメだわ、頭が混乱状態ね。
「あ、ありがとう。ところで、口調変わりすぎじゃない?」
「ほぇ?」
「っ!! そ、そういったところよ。なんていうの、いつものキリッとしたセシリア様ではないわ」
「もぐもぐ……そうだね。イブさんには偽らなくていいから、ボクも楽にできるのかな?」
楽にしすぎて、周囲の目に気づいていないようですけど。
近くを通りかかった人なんか、目を見開いてハヤト様を見ているし。
そりゃあ、先日話したばかりの私に、砕けた口調なんですもの。
何かあったと疑ってもおかしくないわ……頭に、ね。
「じゃ、ありがとうね。また今度遊びに行くから」
「え、ええ…………はぁ」
そういえば、男性恐怖症になった彼女は派閥内の誰かにベッタリでしたっけ。
今回は私がその役目なの? リリア様は……別のクラスね。
ああっ、中身がハヤト様とわかっていなければ楽なのに!
私の……私のハヤト様が、こんなに可愛いわけがない!
次回から本編に戻ります。
一人足りない? あっ……。




