婚約者さえいればいい。
リリア視点
◇◇◇◇
最近のお姉様は、体調を崩されることが多いです。
私達は相談し、身内のハヤト様も交えてどうサポートするべきかを連日話し合っていました。
「お身体が弱いのであれば、栄養面でも気を使ってみてはどうでしょうか? お家ではきちんと管理されていますか?」
「え? そうね……んんっ、そうだね。バランスの良い食事だよ」
「なら、それ以外の観点ですか。そういえば、今年に入ってから急に崩しやすくなっていませんか?」
この学年になってから、お姉様の周りでは様々な出来事が起こっています。
そのこともあってか、精神を摩耗しすぎているのでしょう。
「そうですわ! 今までの熱が冷めたようになってしまって……あんなの、セシリア様ではありませんわ!」
「でもそこがまた、私達の知るセシリア様とは違って、その」
「わかりますわ。そこが良いのですよね」
「……分かりたくないけど、分かってしまう自分が嫌だわ」
「? どうかなさいましたハヤト様」
「いや、なんでもないよ!」
本日のお茶会も、有力な案件は出てきません。
しかし、彼女たちと好きなことについて語り合う日常は、平和で楽しいものでした。
それなりに充実した日々を過ごしていた頃、お父様に呼び出されました。
「学園はどうだ?」
「おかげさまで、充実した日々を過ごさせていただいています」
「そうか。エニフ家から婚約解消をされたときはどうなるかと思ったが、大丈夫そうだな」
公爵家のエニフ家に対して、こちらは伯爵家のフォーハウトです。
向こうが言い出したことなので断れないとはいえ、婚約解消されるのは実に不名誉なことです。
ただ、こちらの落ち度ではないのであまり話題になりませんでした。
それに生徒なら、ガイアル様の性格から決闘のことまで、皆知っていることでしょう。
「あんな縁に恵まれることはないが、そろそろ新しい婚約者を決めたいと思う」
「はい?」
「せめて子爵家以上の縁が欲しいが……中々難しいな」
ちょっと待ってください。
せっかく自由の身になれたのに、またすぐにですか?
そう言いたいのを我慢して、恐る恐る聞いてみます。
「あの、学園を卒業するまで待つことは……」
「ん? 学園で相手を見つけるとでもいうのか? そういうことは言いたいことを口に出せるようにしてからにしろ」
そう指摘された時、心を見透かされたようでした。
さすが父親……というべきでしょうか。それなら、私の本心さえも。
「ま、お前に婚約者がいればこの家の体裁が良くなる。なにせ領民には細部まで伝わっていないからな」
「つまり、どういったことでしょう?」
「婚約解消のせいで、ウチが何かやらかしたと思われている。ここの領民は不安がっているわけだ」
「そんな! きちんと説明したなら、伝わるはずでは」
「ダメだったからこうなっている。少しでもマシにするため、税は減らしたがな」
どうやらお父様的には、今すぐ婚約しなくても問題はないようです。
しかし、領民の不信感は積もるだけなので、なんとかしたいと。
婚約者さえいればいい。
それが貴族なら、どんな人間でも。
そうすると領民が安心でき、この家に関する悪評もなくなる。
このフォーハウト家に属するものとして、それを解決するのは使命のようなものでしょう。
「……時にお父様。相談なのですが」
「珍しいな、どうした」
「誰かにその役を頼んで、落ち着いた頃に解消する。ということでも良いのでしょうか?」
「そうだな。相手の家の了承と本人の許可が貰えるならな。両家が了承済みなら、建前だけでも十分だ」
「なら、私の知り合いに頼んでみましょう」
「そいつは貴族なのか?」
「ええ。たしか……子爵の爵位をお持ちだったかと」
「それならこちらの要望も聞かせられるな。しかし、お前に男の知り合いなんているのか? まあ、任せるが……」
お父様の許可はいただきました。
あとはあの方に確認を取るだけです。
後日、二人きりになれる場所に彼を呼び出しました。
「急にどうしたの、リリアさん」
「実は、ご相談がありまして」
同じ親衛隊、唯一の男性であるハヤト様。
その正体は我らが姉、セシリア様の双子で弟様です。
彼を密かに狙っている女性も多いですが、私の周囲にはフリだけという真実を伝えれば問題ないでしょう。
もし、了解してもらえるなら……お姉様とも家族になれます。
「へぇ……あの子の反応が面白そうね。あとは父様の説得かしら。昨年はリリアも鬱陶しかったけど、こうなると良い駒だわぁ」
「何か言いまして?」
「いや、なんでもないよ。フリで良いんだよね? なら……僕としては問題ないよ」
「では、早速!」
「ただ! 父様の許可を貰わないと。お互いに許可を取らないとダメでしょ?」
「私のお父様には許可をいただいていますわ。子爵以上のモノなら良い、と」
ハヤト様のことなら、この数日間で良く知ることができました。
お姉様に関する細々なことから、どうしたらお姉様を喜ばせることができるか実に積極的です。
たまに見かける悪魔のような笑みが印象的ですが、そこも女性達には人気の一つです。
次の日、ハヤト様のお父様は許可を出したと聞きました。
何でもお姉様がエニフ家に借りを作っていたので、これまたフォーハウト家に借りがあるエニフ家が圧力をかけたとかなんとか。
でも、これでお姉様とも仮の家族ですね!
私の周囲には、ハヤト様とは何もないこと。事態が落ち着くまでのことだと話しています。
肝心のお姉さまへは、ハヤト様に一任していますが……きちんと伝わりますよね?
お姉様が好きなハヤト様ですもの。きっと大丈夫ですね。




