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最近、親友のようすがちょっとおかしいんだが。

 クロイス視点


 ◇◇◇◇



 休日に無理をさせたせいか、セシリア嬢は欠席だった。

 さすがに悪いと思い、見舞いに行こうかとも思ったが、ハヤトがどうしてもやめてほしいと言うので断念する。

 何でも、部屋に招くのは準備がいるとのことだが……ハヤトの部屋は、普段どうなっているのだろう。


 次の日には、ハヤトと二人で歩くセシリア嬢を見かけた。

 その後姿を見て、いつも通りの風景に安心する。


「セシリア嬢。もう体調は大丈夫なのですか?」

「ご心配をかけました。この通り、体調は万全ですわ」


 彼女はその白くて細い腕を真横に伸ばすと、フンッ! と掛け声を上げて肘を曲げた。


 ……セシリア嬢はまだ、頭が朦朧としているらしい。

 こちらを見て、ドヤ! と言わんばかりの表情だ。

 彼女は一体、何をアピールしているのだ?


「…………そうですね。お元気そうで何よりです。ただ、冷静な判断が出来ないようなので、教室までご一緒しましょう」

「え? ええっ!」


 とりあえず相づちで流し、頭が働いていないセシリア嬢を連行する。

 前みたいに嫌がらないところを見ると、まだ本調子とは言えなさそうだ。


「……今日は腕を組まないのですね」


 分かれる手前、彼女はそんなことを言ってくる。

 あのときはセシリア嬢のセリフをアレンジしただけだったが、彼女はどうも本気にしていたらしい。

 悲しそうに問いかけてくる姿は、まるで過去の事を忘れてしまったかのようだ。


「勝手に腕を掴んでしまい、すみませんでした。セシリア嬢と腕を組むのは、またの機会ということで」

「本当はいつも、腕なんて……いえ、なんでもありませんわ」

「? そうですか。ではまた」


 ……危なかった。

 顔に貼り付けた笑顔がなければ、そのまま彼女に聞いてしまうところだった。

 そして、俺の中での疑惑がさらに大きくなる。

 彼女は本当に……俺の知るセシリア嬢なのだろうか?




 最後に見たのは、密かに好いているイブ嬢が揉めている姿だった。

 あまりにも衝撃的な光景に見入っていたが、イブ嬢を追いかけるように彼女が出ていったことは覚えている。


 そして、事件が起きた。


 セシリア嬢が何者かに襲われたらしい。

 発覚したのは、何故か二人でやってきたガイアルからだ。

 ……同じ馬車で来るとは、随分と仲がよろしいのだな。


 問い詰めても、ガイアルの奴は何もしていないの一点張りだ。

 こいつの一度決めたらやり通すという、頑固な性格は変わらないらしい。

 標的をセシリア嬢に変えたが、彼女はまた倒れて医務室で休んでいる、と。




 その日の授業は、何があったか気になって集中できなかった。

 もやもやを解消するためにも、医務室へと向かう足が自然と早くなる。


「セシリア嬢は目が覚め……セシリア嬢! 昨日はガイアルの奴に乱暴されませんでしたか! 彼を問い詰めても、何もしていないの一点張りで」

「ええ。私は何もされていませんわ……彼には」

「彼には? それはどういった」


 意味で。誰に何をされたのか? と聞く前に、セシリア嬢の身体がビクッと動いた。

 目には怯えが感じられ、まるで俺が近付くことを拒否しているようだ。

 その事実に再度失望したが、彼女は男性恐怖症になってしまったようでハヤトにも同じ反応らしい。

 ……しかしそうか。休日はあんなに和気あいあいと楽しめたのに、な。


「……クロイス。姉さんは僕が近づくのも怖いらしいんだ。今日は二人で帰ろうか?」

「しかし、セシリア嬢を一人にさせるわけには」

「仕方ないか。なら、僕が引っ張って帰るよ」


 ハヤトはこんな顔も出来るのだな、と親友の新たな一面を発見する。

 しかし、その悪い笑顔はどこかで見覚えもあった。




 文字通り引っ張られて行くセシリア嬢を見送る。

 ハハ。いつもなら二人の立場が逆だが、珍しいこともあるものだ。


 その成果もあってか、翌日は姉弟で手を繋ぎながら登校してきた。

 後ろ姿に声をかけようとして――。


「一緒に寝た人間への恐怖はなくなるってこと」

「ちょ! そんな言い方して、もし誰かに…………あっ」


 音もなく近づいた。

 おかしい。

 俺の知るハヤトは、いつからそんな事を言うようになったのか?

 思えば、何度もそういった場面には遭遇した。


 最近、親友のようすがちょっとおかしいんだが。


 いつもなら軽く済ませるやりとりも、今のハヤトは完全に怯えている。

 セシリア嬢もそうだったが、親友までもが別人に思えてきた。


「セシリア嬢。さっきはハヤトと手を繋いでいましたが、もう大丈夫なのですか?」

「……いえ、ハヤト限定ですわ。弟なので」

「そうですか。残念です」

「えっ?」


 それは本心だ。

 もしも今、手を繋げたのなら……いつも通りのセシリア嬢だったはずだから。

 いくら人が変わったように変化しようとも、限度は存在する。


 しかし彼女の行動は、限度なんて存在しないと主張するかのように、俺の知る人物とは乖離していた。

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