「サラもどう? 今から皆でお風呂へ行くのよ」
その後はフローラさんの指示で、メイドさんの賄いに携わったりもした。
調理はできないけど、こうやってメイドさんたちと和気あいあいするもの楽しいな。
……学園の女子とも、これくらい話せたら良いんだけど。
「ではハヤト様。お風呂に向かいましょう」
「はい……って、ボクはダメだよ!」
「あらあら。今のハヤト様なら問題ないのでは? 私達も可愛い妹に慕われて嬉しいのよ」
そういや姉さん、フローラさん以外の使用人とは話さなかったっけ。
鬼メイド……じゃなかった。先生は特別にしても、そのせいで好感度もあまりよくなかった気がする。
「セシリア様のことは旦那様が過保護だったこともあり、近くから見守るだけでした。しかし、まさかこんな機会に恵まれようとは」
「しかも中身がハヤト様だなんて! ほらほら、私のこともお姉ちゃんって呼んでいいのよー?」
「あっ、ずるいわよ! ねね、私にもお願い!」
屋敷の管理を担当してくれているメイドさんたちに迫られるも、ボクの顔は別の意味でだんだんと青くなっていく。
「あ、あの……それってまさか」
「あら? サラがすごく自慢してたわよ。それこそ、何日も言うものだから飽きちゃったけど」
「気になるなら本人に聞いてみたらどうですか? ハ・ヤ・ト様」
バサッ……。
扉のほうから、何かが落ちた音がした。
数人のメイドさんと共にそちらを見ると、そこにはサラと呼ばれた人物……ボクの専属であるお姉さんが立っていた。
「え? セシリア様……いえ、ハヤト様? その格好はいったい」
「もうっ、遅いわよ。さっき旦那様から、ハヤト様にメイドとして過ごすようにって命令があったの」
「とはいっても、多分形だけじゃないかしら? でもま、それで妹が手に入るなら文句なしよねー」
「ちょ! ボクにひっつかないでください!」
「サラもどう? 今から皆でお風呂へ行くのよ」
サラさんは明日の買い出しとボクの誘拐の件を伝達しに外出していたらしい。
道理でさっきは姿が見えなかったわけだ。
しかし、ボクには彼女がこの場の唯一の救いに見えた。
「サ、サラお姉さんからも何か言ってぇ……」
「私はいつも、ハヤト様のお身体を洗っているので問題ないですが」
「おっ……お姉ちゃん!」
「皆、やめなさい。ハヤト様はいつも通りに私がお世話します」
サラさんがすばやく動き、ボクを彼女たちの手から救ってくれる。
気がつくと、メイド服が既に半分脱がされていた。いつの間に?
「そうね。女性恐怖症にまでなったら大変だもの。サラに任せるわ」
「お仕事は終わりですので、ハヤト様もプライベートをお過ごしください」
「う、うん」
彼女たちはオンオフもしっかりしているようで、すぐに解放された。
これって、無事にメイドとしての仕事を終えれた……のかな。
入浴もすませて、お姉さんと共に自室へ向かう。
そして枕だけを持つと、この部屋に用はなくなった。
「まだおやすみにならないのですか?」
「うん。今日は姉さんの部屋で寝るから」
「わたっ……ではなく、セシリア様のお部屋、ですか」
「何年ぶりだろうね。というか、寝させてもらえるのかな……」
「それは。ご愁傷様です?」
姉さんが何を考えているのかはわからない。
ただ、近づくだけでも震えが止まらないボクは寝れるのだろうか?
普通なら安心させるため、一緒に寝てくれるはずなんだけど……嫌がらせにしか思えないのは何故だろう。
ボクはまるで戦場に向かうかのように見送られ、その扉を開けた。
「……姉さん?」
「ようやく来たの。遅いわよ、こっちへ来なさい」
部屋の中は既に真っ暗だった。
ボクは窓の月明かりだけを頼りに、姉さんのいるベッドまで歩く。
「し、失礼します」
「……アンタすごいわ。私のベッドに振動機能を追加するなんて」
「ごごご、ごめんなさい!」
「落ち着きなさい」
先に寝ていた姉さんも、起き上がってボクを強く抱きしめてくれる。
それでもベッド全体がガタガタと揺れたままので、ボクの震えはおさまっていないのだろう。
「……私が怖い?」
「うん。あっ、違っ……」
「自分の身体でも、かな」
「ひゃぁ!」
今後は顔を両手で包まれた。
息がかかる距離で見つめ合い、月明かりだけが、姉さんの……ボクだった顔を薄く照らす。
血を分けた、双子の半身を。
「姉さん?」
「……ふっ、ようやく落ち着いたようね。じゃあおやすみ」
「えっ……え?」
気づくと、身体の震えはおさまっていた。
こんなにも男性、といっても自分の身体だけど。それが真横にいるのに、不思議と怯えはなかった。
代わりに心臓がうるさいくらいに主張するけど、そんなボクを知ってか知らずか、姉さんはボクに背を向けて丸まっていた。
「そこは、昔みたいにしてくれないの?」
「あら、そんなに甘えたいの。男の胸に抱かれて寝たいっていうなら、私は構わないけど」
相変わらず背中を向けたままだけど、ニヤニヤしているということは簡単に想像できた。
でも、ボクを安心させるための行動だったことも伝わった。
「ごめん姉さん。てっきりボクに対する嫌がらせで、一晩中寝かせてくれないのかと……」
「ならお望み通り、別の意味で寝かせないであげようか?」
「ヒィ!」
姉さんの身体がごろんと反転する。至近距離で目が合った。
顔が近い! 手が触れそう!
「冗談、だよね?」
「……フフッ」
目の前のボクって、こんな顔もできたんだ……月明かりで歯だけが怪しく光っている。
やっぱり姉さんは怖いや。
サクっと行くつもりでしたが続きます。




