表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/110

「あ。ガイアルにメイドとして奉仕したっけ」

 

 倒れたままの爺やは放置して、父さんの元へと連行される。

 ……メイドさんたちも無視しているけど、あのままでいいのかな?


「よく来たなハヤト。セシリアもご苦労だった」

「はい。昨日のエニフ家の伝言は本物だったみたいです。あと、予想通り何もなかったみたいですよ?」

「ふむ。だから言っただろ、賭けにもならんと」

「まあハヤトなので……それと一つ」

「いや、ちょっと待って! 賭けって何さ」


 ボクの行動がいつの間にか、賭けの対象にされていた。

 逆に言えば、何もないと信頼されている証ともいえるけど、何か複雑だ。


「ん? セシリアとな。ハヤトの身に何かあるかを賭けようとな」

「僕もお父様……父さんも、ハヤトが逃げるから何もないだろうと予想してね。結果はその通りでしょ?」

「……それって、何かしてたならボクの一人勝ちってこと?」

「ん? ああ。それでもいいぞ。で、何かあったのか?」

「ない、けど」

「父さん、だから言ったでしょ? ハヤトにそんな甲斐性が……」

「あ。ガイアルにメイドとして奉仕したっけ」


 ガタッ!!

 何気なく発言した言葉に、父さんと姉さんが立ち上がる。

 そして控えていたメイドさん達までもが、手に持っていた道具を床に落とした。


「っ!」

「どどど、どういうこと! ガイアルは何もしなかったって聞いたわよ!」

「おいハヤト。詳しいことを説明しろ」

「えっ、ちょ……」


 二人に追求され、姉さんに至っては身体をガタガタと揺らしてくる。


「はなっ、れて!」

「ダメ。気絶しても逃さないわ。いい機会だから、男性恐怖症はいま克服しなさい」

「そん、なぁ!」

「おいセシリア。そろそろ揺らすのを止めたらどうだ。男性恐怖症というのも説明しろ」


 父さんが制止してくれたおかげで助かったけど、力が抜けて床にペタンと座り込んでしまう。

 立とうと思っても力が入らないや。


「あれ?」

「何だ。腰でも抜けたのか? そこのメイド。椅子に座らせてやれ」


 メイドさん二人がかりで立たせてもらい、何とか椅子にもたれ掛かる。

 しかしそれ以上は動けず、メイドさんの一人にしなだれかかる結果となってしまった。


「ごめんなさい」

「いえいえ。役得……んんっ、お気になさらずに」

「悪いが、そのまま支えていてくれるか?」

「はい。喜んで!」

「えぇ……」


 いつものお姉さんならともかく、彼女って屋敷の管理をしてくれているメイドさんだったよね?

 ボク、重くないのかな。


「……ハヤト? 私の身体に文句あるのかしら」

「いや! 何でもないよ!」

「全く。アンタが何考えているか予想がつくから厄介なのよ」

「おいセシリア。また教育されたいのか?」

「!! す、すみませんでした。男らしく……振る、舞います」


 ギロッと姉さんに睨まれるも、それはボクのせいではない。

 うん。

 確かにボクだけ口調が許されるのは、不公平だとも思うけど。




「さて、聞きたいことはいくつかある。まずエニフ家の伝令が本当なら、お前は襲われたのか?」

「エニフ家? ああ……ガイアルのことね。女子寮からの帰りに、男性に襲われました」

「女子寮? そうか。見直したぞ、ハヤト」

「ハヤト。アンタって人は……」

「え? ……ち、ちがっ! 友達の部屋で話していただけだよ!」

「まあ真偽は良い。襲われたのは本当なんだな。そして、エニフ家に助けられたと」

「そう、だけど……そうっ! なんだけど!」


 ボクが女の子の立場を利用したって、勘違いされたままですけど?

 ボクにとっては、そっちのほうが重要案件ですけど?


「で。ハヤトは男性恐怖症になったと。僕が近づいても怯えるみたい」

「ほう。ますます女性らしさを身に着けたではないか」

「止めてよ父さん! 姉さんはともかく、クロイスすら怖いんだからね!」

「ちょっとそれ、どういう意味?」

「それはまずいな。なら、元に戻るか?」


「「え?」」


 姉さんとボクの声が重なる。

 もしかして、今なら元の身体に戻れる?




「でもお父様。そう簡単に戻れるものなのです?」

「多少の手間はかかるが、できないことはない」

「なら今すぐお願いします! もうボクは懲り懲りなんです!」

「……僕の目からは、ハヤトも楽しんでいるように見えるけど」


 必死に懇願するも、姉さんを含めて周りは暖かい目線を向けてくる。

 ……メイドさんに抱きつきながらだと、説得力もないよね。


「第二王子に近づけないなら仕方ない……しかしハヤトよ。お前は自分の身体に戻って耐えられるのか?」

「どういう意味ですか?」

「今のセシリアに怯えるってことは、鏡を見る度に怯えるのか? それと、男性なら男同士の接触も多い。大丈夫か?」


 確かにノリで肩を組まれたり、行動するにしても男性のみでグループを作ることが多い。

 父さんが言いたいのは、我慢できるかってこと?


「中身が姉さんの男性でなければ大丈夫です」

「アンタねぇ……クロイス様も爺やもダメだったでしょ」

「よし。なら、俺の手を握ってみろ。流石に父親は恐怖の対象には入らんだろ」

「………………」

「おい、どうした?」


 差し出された手は、何故かとても大きく、そして恐ろしく思えた。

 勝手に身体を入れ替えられた時にも感じたけど、父さんは尊敬する対象とともに、畏怖する対象でもある。


 そして、一瞬でもそう意識してしまうとダメだった。


「……できません」

「そうか。なら、さっきの話はナシだ」

「え、どうして! 元に戻してくれるはずじゃ……」

「まずはその男性恐怖症とやらを治せ。そうだな……メイドでもやるか?」

「それは妙案です。流石はお父様です」

「……え? ちょ、ちょっと待って!」


 周りを見ても、メイドさん達はパァァア! と顔を輝かせているし、姉さんに至ってはニヤニヤするだけで頼りにならない。

 味方をしてくれそうな爺やは庭に放置したままだ。


「じゃ、今日から頼むぞ」


 どうして……。

 どうして、こうなった!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ