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「だんせい、きょうふしょう?」

 


 気が付くとベッドの上だった。

 ……姉さんの身体になってから気を失ってばかりだな。

 軽く身体を起こして見渡すと、カーテン越しに先生の姿が見えた。


「あら、おはよう。よく眠れたかしら?」

「あの……ありがとうございます。お恥ずかしいところをお見せしました」

「もうお昼も過ぎているわ。さっき弟さんがお見舞いに来たけど……今は授業中だから」

「そう、ですか」


 なんかボク、まともに授業うけていないや。

 それでも勉強に遅れないのは、親衛隊と名乗る人のノートがあるからだね。

 今度お礼をしなくちゃ。


「少し聞きたいのだけど、ここに来る前は誰かと会った?」

「あの……担任の、先生と」

「ああ、アレなら仕方ないわね。他には、同じ症状に心当たりは?」

「弟と話しているときも……同じようなことが……」

「それは重症ね。どうしましょう」


 先生はそれっきり何も言わなくなってしまった。

 そういえば、ガイアルといたときは平気だった。どうして?


「まず貴方は、軽度だけど……男性恐怖症を発症しているわ」

「だんせい、きょうふしょう?」

「襲われたことによるショックが大きいのでしょう。一時的なモノだと思うけど、しばらく男性と近づかないほうがいいわ」

「それって、弟もですか?」

「……さっき、弟さんとも話したのよ。そのときに相談されたわ。男性に乱暴されたせいで、僕にも怯えているようだった、と」


 姉さんがそんなことを……。

 ボクの心配をしてくれたのは嬉しいけど、それよりも症状が気になる。

 男性恐怖症? 男のボクが、まさかね。


「担任のアレには伝えておくわ。できれば、悪化させないためにも休んでもらいたいのだけど」

「ご心配には及びませんわ。男性を近づけなければ良いのでしょう?」


 そもそも、ボクに話しかけてくる男性なんて数えるほどしかいない。

 クロイスと姉さんと、名前も知らない男子くらい?

 そう考えると、ボクの友達ってクロイスしかいなかったんじゃ……。


「貴方が納得しているならいいけど……今日はこのまま、休んで行きなさい」

「授業には……あ、はい。わかりました」


 鏡を見るように指摘され、そこに映っていたのは泣き腫らした目をした女子だった。

 ……うん。いくらボクでも、この顔のまま人前に出るのは恥ずかしいや。




 眠気もないので、本を貸し出してもらい時間を潰す。

 そうしているうちに授業も終わったようだ。


「先生。姉さんは……大丈夫そうだね」

「心配かけたね。もう大丈夫だよ、ハヤト」


 そういって手を差し出すも、姉さんはボクの手を見たまま動こうとしなかった。


「……やはり先生、姉さんは」

「ええ。どうやら貴方にも怯えているわ。ご家族の関係に口を出す気はなかったのだけど……心当たり、あるんでしょ?」

「はい。不本意ですが」

「え、どういうこと? 私には心当たりなんて」

「じゃあ、姉さんはどうして震えているの?」


 指摘されて気づいたけど、ボクが姉さんに伸ばした手は小刻みに震えていた。

 おかしいな、今朝と同じ現象だ。


「あれ、どうして……」

「ま、彼女に心当たりがないなら、無意識なんでしょうね。あとは弟くんに任せるわよ?」

「はい。最終手段は用意できますので」

「それってまさか」

「セシリア嬢は目が覚め……セシリア嬢! 昨日はガイアルの奴に乱暴されませんでしたか! 彼を問い詰めても、何もしていないの一点張りで」


 浮かんだ疑問は、乱入者によって遮られる。

 クロイスの疑惑は最もだけど、本当に何もされていないもん。


「ええ。私は何もされていませんわ……彼には」

「彼には? それはどういった」


 クロイスが徐々に迫ってきたので、シーツを握りしめたままビクッとしてしまう。

 同時に、クロイスの身体も硬直する。


「……クロイス。姉さんは僕が近づくのも怖いらしいんだ。今日は二人で帰ろうか?」

「しかし、セシリア嬢を一人にさせるわけには」

「仕方ないか。なら、僕が引っ張って帰るよ」


 その言葉に、ニヤァとした笑みが向けられる。

 姉さんは離れた位置にいるのに、ボクの身体は今までにないくらいガタガタと震え始めた。




 姉さんは文字通りボクを引っ張って帰った。


「嫌ぁ! 放して!」

「何よ。あともう少しじゃない」


 喉が枯れそうになるくらいに叫ぶも、姉さんはボクの腕をホールドしたまま放そうとしない。

 いくら身体の震えが収まらなくてもお構いなしだ。


 周りは仲の良い姉弟をみる目で見守っている。

 ……そうだよね。クロイスに固執する姉さんを、こんな風に連行していた時もあったから。


「だって、まともに立てないくらいに震えが!」

「だから引きずっているのよ。それとも放置されたいわけ?」

「……嫌」

「なら我慢しなさい」


 本当は一人でも帰れると強がってみたのだけど、自覚してからは知らない男性とすれ違っただけで足が動かなくなった。

 そうすると、皆こちらに声をかけてくれるわけで、頑張って話そうとしても何故か足は逃げ出してしまう。


 そして、一部始終を見ていた姉さんに捕獲された結果がコレである。


「はぁ……重症ね。お父様になんて説明しようかしら?」

「これを気に元の身体へ戻してもらえないかな?」

「そうなったら、アンタ鏡を見る度に失神しそうね」

「はは、いくらなんでもそこまで……ちょ、姉さん顔が近いよ!」

「……はぁ」


 さすがに男に戻ってからも、男性恐怖症ってことはないよね?

 ……もしそうなったら、男性に襲われた経験があるとアピールするようなものだけど。


「ようやく着いたわ」

「セシリア様! 昨晩は……いえ。ハヤト様! 昨晩はいきなり外泊をなされて! 私はっ、私はぁ!」

「えっ、近づかないで!!」


 老人とはいえ、ガッチリとした体格の男性が駆け寄ってくる。

 その勢いに、ボクも姉さんにギュッとしがみつきながら拒絶する。


「グボァ!」

「……せめて、顔くらいは見てあげなさいよ」

「あれ、爺や? 爺や、大丈夫!」


 目の前にいるのが爺やだと気づいて、倒れたままの爺やに近づく。

 そして、爺やから一本の手が伸ばされる。


「ハヤト様……ご無事で、何より」

「爺や……ごめん。やっぱり無理!!」

「ぐはっ……」

「オーバーキルね。やるじゃない」


 だって姉さんやクロイスよりも、爺やの見た目は厳しいんだもん。

 いくら相手が爺やでも、ボクが怯えるのも無理ないよね?

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