ハヤト様みたいな行動を、どうしてセシリア様が?
イブ視点
◇◇◇◇
私は未来が視える。
目の前の人は、そんなことを信じてくれる人物ではなかったはずだけど。
それがハヤト様だというなら納得よね。
人もなりも、性格もよく知っている。
ここが、あの世界なら。
この世界を経験したとき、私は一番人気の第二王子よりその親友であるハヤト様を選んだ。
何って? もちろん攻略対象に。
クロイス様は人気だけど、ルートの途中でハヤト様が身を引いた時点でやる気がなくなり、最初からやり直したのは良い思い出だ。
その時点でハヤト様に惹かれていた故の行動だけど、中断したまま結局進めなかった気がした。
ガイアル? 一定の層には人気があるけど、私としてはお断りだ。
どちらかというと、姉のように慕ってくれる後輩のほうが好みなので。
なので私は、この学園に入って一年間は誰とも関わりを持たなかった。
二年生になった頃からの出来事しか知らないし、下手に動くと未来を変える可能性もある。
だから私……イブの過去を知っても、こういう出来事があったのね。ここはあれに繋がってくるのかな? といった感想しか出ない。
そうして無事に二年生の春を迎えたと思ったけど、一体どこで間違えてしまったの?
「もし、すみません」
「……私に何か用ですか?」
眼の前に一人の女性がいた。
極力存在を消すようにしていたけど、このセシリア様は何かと突っかかってくる。
弟であるハヤト様に関わってくるから、あまり無碍にはしたくないのだけど。
「恥ずかしながら、本日のノートを見せてもらえない、かしら? あまり内容が頭に入ってこなかったの」
そのときあれ? と思った。
彼女はクロイス様を慕う女性たちのリーダーでもあったはずだ。
三つの派閥に分かれて、何やら画策してたり、それがイベントの要にもなっていたはずだけど。
さっき聞いた派閥の解散というのは本当だったの?
「……すみません。他をあたってください」
あまりにも訳がわからない。
こんなイベントなかったはずだけど。
違和感はまだ続く。
「おい、そこの女。お前がイブという名前の女性だろ」
「え? そうですけど」
「光栄に思え。お前を俺の……第二夫人にしてやろう」
「第二?」
このイベントも経験済みだけど、第一夫人じゃなかったかしら?
この子はクロイスを見返すため、彼の好いている私を手に入れたかったらしい。
そのために第一夫人という立場に置きたかったはずだけど。
「第一夫人だというならいいですよ」
「フン。何を言っているんだ。お前なんかは第二夫人で十分だ」
カチン。
勝手に言いだして、この子は何を言い出すのかしら?
しかし、ここで事を起こせば、ハヤト様に関する重要なイベントが起こらない可能性もある。
ここは我慢よ。
「ああ。この女は、俺様が第二夫人にしてやるといったのに靡かないのだ」
「第、二……?」
黙っていると、待ち望んできた人がやってきた。
けどあれ? 立ち位置が微妙に違うような。
そして、遂にあの瞬間がやってきた。
「決闘だ。ボクが彼女に……イブさんに勝利を捧げましょう!」
私でも覚えている名セリフ。
共通の時点で、ハヤト様に惚れたキッカケになった言葉が聞こえてきた。
……女性の声で。
「ちょ、それ! 弟さんのっ」
思わずツッコミを入れるほど、そのセリフは予想外の人、セシリア様から放たれていた。
それから私は、何かとこちらを気にしてくるセシリア様から逃げるように行動した。
ハヤト様みたいな行動を、どうしてセシリア様が?
といっても、私の知るイベントは継続中のようだ。
決闘ではハヤト様の代わりにセシリア様が勝つし、リリア様はセシリア様の派閥に……派閥がないから親衛隊?
ま、まあ、些細な違いよね。
あとは釣りに三人で行こうというのも同じ。
セシリア様の体調が悪くて、途中で引き返して後日に私が誘われる。
はず、だったのに。
「今日姉さんは休みなんだ」
「そうか。それは悪いことをしたな」
「いや! クロイスは何も悪くないよ! はしゃぎすぎた姉さんが悪いんだから、ね!」
「そういってもらえると助かる……おいハヤト、ちょっとくっつきすぎじゃないか?」
「え、いつもこんな感じだよね? ほらクロイス、もっとわた……僕の話を聞いてよ」
「お、おう……」
セシリア様が休み?
というか、あの日は船でそのまま釣りを続けたの?
本来なら私が代わりに行って、ハヤト様とイベントが起きるはずだったのに、それじゃ何も起こらないじゃない!
慌てた私は、クロイス様と別れたばかりのハヤト様に声をかける。
「あの、セシリア様のお見舞いに行ってもよろしいですか?」
「え? 何で……ごめん。近づかないで」
「はい?」
「あっ、いや、何でもないよ! とにかく大丈夫だから。じゃ」
何かがおかしい。
それこそ、歯車が何かの原因で決定的にズレている。
そこでふと、今のハヤト様の行動が気になった。
近づかないでなんて言われたことがないし、むしろ大歓迎だったはず。
しかも、何かに怯えるように拒絶された。
私とハヤト様は関わりがなかったはずだけど、何を怯えているの?
セシリア様には色々と嫌がらせ……お世話になって仕返ししてやりたいところだけど、それは私の役目じゃない。
攻略対象の彼らは、この先セシリア様にお灸を据えてくれる。
だとするとあの怯えよう……まるでセシリア様みたい。
――セシリア様?
一度浮かんだ疑惑は消えない。
疑わしい目で何度も観察していると、向こうから……セシリア様からやってきた。
「先程からこちらを見つめていましたが、何か用があるのかしら?」
「……気のせいではないでしょうか。私からは何も」
「あら、そう?」
いや、ここは本人に問いただす。
既に未来と違うなんて言ってられない。
それほどまでに、歯車は狂ってしまったのだから。
お昼休みは中庭で。
彼女は来なかった。
どうやら放課後のことだと勘違いしていたようだけど、セシリア様がそんな失態をするわけがない。
あり得るとしたら、それはどこか抜けている弟の……。
「だ・れ・が! 放課後だと言いましたか?」
間違いない。
周りの目を気にせずに問い詰めてしまったけど、彼女は彼だ。
でも、こんな大勢が見ている中で核心はつけない。
中庭に誘導し、安全な場所として私の部屋まで誘導する。
フフッ……ハヤト様と、私の部屋で二人っきり。
こんな展開、あの時はなかったわね。
なら。
行動に縛られないこの世界では、どこまでいけるのかしら?




