「友情より愛情が勝つって、何か嫌だなぁ」
寝落ちしていました。
イブさんはもしかして、誰かに話す気なの?
「……お願いですから、黙っていてください」
「そうね。私としても不都合だから、黙っててあげる……いくつか条件はあるけど」
「やっぱりぃ」
そこまで突きつけると、ようやくイブさんはボクから離れてくれた。
条件というものに恐怖しか感じないけど。
「まず、貴方は元に戻れるのかしら? 原因は何か思い当たらない?」
原因といわれると姉さんと入れ替わる前日が怪しい。
あの日、普段よりも豪華な食事が出されたっけ。
豪華といっても、盛り付けが豪華なサラダや山菜がメインの食事だったけど。
そのときに見た、ボクでもわからなかった山菜が一番疑わしい。
人の精神を入れ替える山菜とかさすがに聞いたことがないけどね。
「……というわけだから、食べ物が怪しいと思うけど。イブさんは何か知らない?」
「そんな山菜があったら、世界中が大混乱よ」
「だよね。父さんや使用人さんに聞いても、何も教えてくれなかったからなー」
でも、他に思い当たる事はない。
まさか父さんが怪しげな呪術でも? 父さんの場合は本を集めるけど、収集して満足する人種だ。
ボクが読むまでは新品だと豪語されたように、本棚にはきれいな状態の本しか並べていなかったときもある。
……やっぱり父さんが読書はありえないな。
「でもそういえば……隣国と戦争中に、権力者がいきなり人が変わったかように相手国へ有利に動いた、という話があったような」
「え、それってただの裏切りじゃないの?」
「もしかすると、あなた達と同じ方法で……いえ、それこそ推論ね。ま、私の方でも山菜については調べておくわ」
「お願いね」
イブさんがなぜ協力的なのかは謎だけど、手伝ってくれるなら好都合だ。
ボクとしても事情を知っている相談相手ができるのは嬉しい。
「ところで、どうしてあなた達は入れ替わったか聞いてもいい? 何か理由くらいあるでしょ」
「うん。それが、実にくだらないことでね。姉さんとクロイスの仲が進行しないからって、父さんが勝手にやっちゃった」
「……え、どういうことよそれ?」
父さんの突拍子もないは、イブさんにも理解できないみたい。
そりゃそうだよね。全く、どうしたらそんな発想になるのやら。
「父さんはクロイスと姉さんを結びたいらしくてね。ボクはクロイスと仲が良いから、姉さんの姿でモノにしてこいってさ」
「何よソレ。本人たちの意志を完全無視もいいところじゃない」
「そうだよね。クロイスははイブさんが好きなのに……あっ」
慌てて自分の口を塞ぐも、イブさんの耳には無事届いてしまったようだ。
目を見開いて固まっているイブさんとしばし見つめ合う。
「……ごめん。これも秘密でお願い」
「秘密にするまでもないわ。そう、それは未来通りなのね」
今度はこちらが目を見開く番だ。
……でも、クロイスの態度からバレバレだったかもしれない。
ちょうどいいや。
ここは立場を利用して、ガールズトークでもしちゃおうかな。
「イブさんはクロイスのこと、どう思っている?」
「どうって、イケメンな王子だけど、どこか弱さも併せ持っている護ってあげたい系の男子?」
「うわぁ……」
想像以上に的確な表現が返ってきたよ。
何これ、真横で見てきたボクの印象と全く同じ?
「ま、これもアレで……未来でわかった情報だけど」
「でもすごいや。ボクの印象と全く一緒だよ」
「ハヤト様はその……もしクロイス様と対立するようなことがあったら、どうするつもり?」
ボクがクロイスと対立?
喧嘩のことか、決闘のことかまではわからないけど、そうなったときは話し合いで解決だ。
喧嘩が長引いても二週間ほどでお互い元通りだし、考えるだけ無駄だよね。
「どうもこうも、そんなことありえないから考えないよ」
「ありえない、ね。忘れてるようだけど、私の知る未来で――」
「例え、ね?」
「え?」
「未来でそうなったとしても、それは今考えることじゃないよ」
未来が本当にわかるなら、そうならないように行動できる。
でも、ボクがありえないと思うなら、普段通りにしていれば未来は変わるはずだ。
それこそ、対立する未来なんて無くすように。
「そっか。そうよね……このままだと、そうなる可能性はかなり低いし」
「参考までに、理由を聞いてもいいかな?」
「結局、気になるのね」
さっきは格好良く否定したつもりだったけど、ボクの好奇心は抑えきれなかった。
可能性が低いなら、ボクが聞いても影響はない……はずだよね?
「私の知る未来は、クロイス様とハヤト様は女性を巡って対立するわ。同じ人物への恋故の対立といったところかしら」
「友情より愛情が勝つって、何か嫌だなぁ」
「あの時は罪悪感に押しつぶされそうだったわ……」
「え、まさか?」
クロイスはイブさんが好きだ。
ということは、ボクが同じ女性を好きになっちゃうと、ありえない出来事ではなくなるわけで。
「簡単に言うと『私のために争わないで!』といったところね」
「ええ! ボクがイブさんを好きになっちゃうの! あっ、嫌では……ないのだけど、事前にわかると複雑な」
「違うわよ?」
「そ、そうだよね。よかった、これで安心――」
「私が、ハヤト様を好きなの」
彼女の部屋で二人っきり。
部屋の持ち主でもあるイブさんに、姉さんの身体になって二回目の告白をされてしまった。
……二回目、なんだよなぁ。
ボクのときは一回もされなかったのに!




