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「ええ、不確定要素満載の、ね」

 


 遂に伝えてしまった。

 もしこの事がボクの家族にバレたら、一生男には戻れないかもしれない。

 けど、そんな不安を抱くボクを知ってか知らずか、イブさんはまた思考の海へと沈んだようだ。


「もしもーし」

「ならこのままいくとまずいから、あれは阻止して……不確定要素が多いからあっちはどうしようかな。そうなると向こうの方は」


 完全に無視をされている。

 イブさんを呼ぶことは諦めて周りを眺めると、さっきは気にならなかった小物や写真立てなどが目に入っていくる。

 ここってイブさんの部屋なんだよね……心なしか、紅茶の香り以外でも落ち着く香りを感じる。

 あ、うさぎのぬいぐるみ? イブさんってこういうのが好きなんだな。


 周囲を眺めていると、イブさんがようやくこちらに気づいたらしい。

 ボクの視線の先を追って、同じくうさぎのぬいぐるみにたどり着く。


「あっ! それはっ!!」

「うふふ。イブさんにも可愛らしいことろがありますのね」

「……あまり人の部屋をジロジロと見ないでください」


 落ち着いたのか、イブさんは再度紅茶を淹れてくれる。

 お互いのカップが空になっていたこともあり、ボクは喜んでおかわりを希望した。


「さて……確認しますが、本当にハヤト様ですか?」

「信じられないとは思いますが。そのとおりですわ」

「……お願いがあります。せめて二人だけのときは普段どおりに話してください」

「あら、そう? わかったわ……じゃなかった。わかったよ」


 正体がバレた以上、男性が女言葉を使っているのは耐えられないのだろう。

 父さんは需要があるとか言っていたけど、これが普通の反応だよね?


「まず、私は未来が視えたといいましたね?」

「うん。ボクが介入してわからなくなったと言っていたけど、どんな未来だったのかは気になるかな」

「それは……いえ、お話します。これからのハヤト様にも関わってきますので」


 そういって、イブさんは顔を俯かせる。

 さっきのイケイケモードとは違い、急にいつものイブさんに戻ってしまった。

 ……さっきまでの態度は、何だったのだろう。


「じゃあ、ボクも口調を気をつけるからさ。イブさんもさっきみたいなフランクでお願い」

「え? ハヤト様にそんな態度で接するわけにはっ」

「あははは、今更だよ? ボクは何とも思わないからさ。普段どおりでお願い。ね?」


 軽くウインクしてみると、イブさんは少しの間固まった。

 他の人もそんな反応だったけど、そんなにボクのウインクって下手なのかな。今度鏡で練習しなきゃ。


「……わかりました。いえ、わかったわ。今更取り繕っても遅いわよね。距離が近づいただけ、ヨシとしますか……」

「? 何か言った」

「いえ、まず私が知る未来ですが」




 イブさんが言うには、ボクがノートを頼んだときに違和感を感じたらしい。


「あのセシリア様が一人で話しかけてくるなんて、そんな未来は考えもしなかったわ」

「ボクもイブさんとは仲良くなりたかったからね」

「え?」

「今度は、ノート見せてくれる?」

「は、はい……何なら、今からお貸ししますので、どうぞ持ち帰ってください」

「うーん。この前の分はなんとかなったし、今度お願いね」

「は、はいっ!」


 リリアさんや姉さんの協力でなんとかなったけど、個人的にはイブさんに貸してもらいたかったしちょうどいいや。

 握手して言質もとったし、今度は大丈夫だよね。


「決定的だったのが、ガイアルのときね。あのときは第一夫人にされそうな私をハヤト様が助けてくれるはずだったのだけど」

「第一? でも第二夫人って言われていたような」

「そこも違和感があるの。本来なら第二夫人として欲しがられる、貴方の姉だったのよ」

「あー……」


 そういやボクも、イブさんより下の第三夫人ということもあってカチンときたんだっけな。


「そうして姉を守ろうとする姿は、私の脳裏に焼き付いているわ。あの時のセリフだって『決闘だ。ボクが彼女に……』」

「ちょ、ちょっと待って! ストップッ!!」


 あわててイブさんの口を手で塞ぐ。

 あの時は必死だったので、そう何度も連呼されると照れるよ!


 勢い余ってベッドに押し倒してしまったけど、イブさんはウンウンと頭を振って肯定するので、こちらの意図は伝わったみたいだ。

 ボクもイブさんの口を解放し、イスに座り直す。


「……焦ったわ。結構大胆、いえ。事故だとわかっていても、その」

「ごめんごめん。落ち着いたから続きを教えて?」

「………………はぁ」


 イブさんは起き上がり姿勢を正すと、こちらの顔を見てあきらかにため息をついた。

 後で教えてあげないと。姉さんの顔、不評だよ?


「そして歯車は狂ったわ。リリア様がセシリア様の代わりになることなんてなかったし、三人で釣りを楽しむこともなかった」

「えと……ごめん、なさい?」


 それについては、ボクは普通の行動をとったまでだ。

 イブさんはそんなにも釣りへ行きたかったのかな。


「でもこうして……ハヤト様と近づけたことで、別の可能性が視えてきたわ」

「それって、新しい未来のこと?」

「ええ、不確定要素満載の、ね」


 今度はイブさんはジワリ、ジワリとこちらに迫ってきた。

 逃げようにもイスごと壁にぶつかる。これ以上後ろには下がれ、ない。


「ハヤト様とセシリア様のことは秘密なんですよね? 元に戻れるという条件はあるのですか?」

「えっと、バレたら元には戻してもらえないかも。こうなった原因はボクにもわからないや」


 眼の前で舌なめずりをされる。

 ボクは今、本能的な恐怖を感じた。

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