「人の部屋を見て、勝手に失望しないでくれる?」
一瞬何を言っているの? と思ったけど、こちらに問いかけるイブさんの瞳は本気だ。
それこそ、全てを射抜くような視線で対峙される。
「私は貴方もご存知のように、セシリアと申し……」
「では、言い方を変えます」
言葉を切られ、思わずビクッとしてしまう。
そうではないことくらいわかっていたけど、イブさんの発言には怒気が込められていた。
「貴方は、私の同類ですか?」
「同類? それってニンゲ……いえ、なんでもありませんわ!」
驚いた。
視線だけで人を殺せる場合もあるんだね。
今のイブさんの視線は、今までで一番殺意が込められていた。
「で、どうなの? ん?」
「ちょ、イブ様? 口調が……ほら、その」
まるでボクがカツアゲされているみたいだ。
あれ、イブさんは姉さんにいびられているって話だったけど、こんな現場誰かに見られでもしたら……。
何気なく周囲を見渡すと、ボクも顔を覚えているクラスメイトと目が合った。
急いで中庭に向かったボクたちが気になったらしい。
他にも野次馬根性なのか、上級生や下級生の何人かに注目されていた。
え、これまずくない? 主にイブさんの評判が!
「あの! まず場所を移動して仕切り直しといきましょう。ね?」
「その様子だと違うみたいね。だとしたらどうして……」
彼女が考え込んでいる間にも、遠巻きに眺める人は増えていく。
ボク、注目されるの苦手なんだけどなぁ……。
「……可能性があるとしたら、裏のアレや追加のアレとか、でもそんなことが可能なのかしら」
「もしもし? イブ様?」
ダメだ。
彼女は思考の海に沈んだまま浮上しそうもない。
でも、先程気になることを言っていた。
そう……未来が視えた、と。
それなら、ボクがこれからどうなるかもわかるのでは?
ついでにイブさんとこれから仲良く出来れば万々歳だけど、上手くいくかな。
「まさか、私の知らない隠された…………それとも、あの情報はデタラメ? ああもう、わからないわ!」
「あのー?」
「何よ!」
「ひぃっ!」
思考していた顔がギロリとこちらを睨んでくる。
イブさんって、こんなおっかない人だったのか……ボクの抱いていた幻想が打ち砕かれた気分だ。
「……イブ様に、私の秘密を一つだけ教えます。貴方が感じている疑問も、それで解決するでしょう」
「あら? セシリア様……のような誰かは、ようやく話す気になってくれたのですね? 嬉しいわぁ」
これ、絶対気づかれているやつだ!
まるでヘビに睨まれたカエルの気分だけど、多分姉さんたちもこうやってイブさんを追い詰めていたのだろう。
悪役が初めてだとは思えないほどに板についているよ。
周りからは日頃の仕返しにでも見えていそうだ。
……姉さんがやった行為、なぜかボクに返ってきたよ?
「そ、それでですわ! ここでは周りの目があって話づらいのです」
「近くに私の暮らしている女子寮があります。すぐ向かいましょう?」
イブさんは周囲の目など気にもしないように、ボクの手をとって早足で進んでいく。
え、女子寮? ボクが踏み入れてもいい……わけあるか!
「あ、あの! やっぱり別の場所で……」
「では、貴方の家に招待してくださる?」
「お断りします」
いや、ボクの部屋だけなら説明も省けて助かるけど、使用人や姉さん、父さんが暮らす家で正体がバレたと知られるわけにはいかない。
でも、そうなると他に場所なんて……。
「ならやっぱり、私の部屋でいいわね」
「えっ! イブさんの部屋に?」
思わず素で返してしまったけど、女子寮。それも女の子の部屋だ。
ボクだって男だ……うん、不可抗力なら足を踏み入れるのも仕方がない。
「……よろしくお願いします」
「さっきから何なのよ」
ボクの混乱っぷりにイブさんも巻き込まれているようだけど、それと同じくらいイブさんの豹変っぷりには困惑している。
それぞれが化学反応でも起こして、お互いの混乱が増幅されていそうだ。
初めて足を踏み入れた女子寮は……ロビーを観察する暇もなく通過した。
そのまま建物の二階へと案内され、一つの部屋へと通される。
普通の部屋だ。それこそ、姉さんの部屋みたい。
「……ボクの期待を返して」
「人の部屋を見て、勝手に失望しないでくれる?」
呆れ顔のイブさんだったけど、一つしか無い椅子に腰掛けるように案内され、しばらく待つと紅茶まで用意してくれた。
良い香りが漂ってくるけど……この香りはボクもよく知っている。
「これ、素朴な香りが落ち着くよね」
「意外と物知りなのね」
「うん。これでも園芸が趣味でね? 栽培しようとしたこともあるんだよ! でも……庭師さんに止められちゃった」
「それはそうね。素人が手を出すものではないわ」
そしてベッドに腰掛けたイブさんと園芸の話で盛り上がった。
彼女は意外とその手の知識にも詳しく、ボクの知らない薬品? や便利そうな道具も提案してくれた。
帰ったら庭師さんと相談しなきゃ!
「……そろそろ、本題に入っていいかしら?」
「うん! まさかイブさんがここまで趣味の合う人だとはねー」
「貴方、さっきから素が出ているわよ?」
「え?」
思えばボクの庭では何を栽培しているとか、姉さんは興味がなくてーとか口走っていた気がする。
……バレバレみたいだし、始めからあの事は伝える気だった。
覚悟を決めよう。
「もう気づいていると思うけど、ボクは」
「ハヤト様、ですね?」
「そう、だよ。今は姉さんの身体だけど、ね」
そう伝えた後のイブさんの反応は。
「ああ……やはりそうなのね。私の今までの努力は一体……でもこのままだとハヤト様はいずれ……私、どうしたら良いの?」
驚くほど、混乱していた。




