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「貴方の存在が、イレギュラーなのです」

 

 中庭に着いても、イブさんの姿はなかった。

 いや、すぐ見える場所にはいないだけかな?


「イブ様? いらっしゃらないのかしら?」


 呼びかけてみるも、返事はない。

 諦めて帰ろうとした時、草陰で何か動いた気がした。


「イブ様?」

「……その、様付はやめてください。セシリア様」

「でも、同じクラスメイトですよ?」

「いつものように庶民、とお呼びください」


 そこでようやく、イブさんはこちらを振り向いた。

 さっきまで隠れていたのだろう。太陽の光で輝く黒髪には、葉っぱが何枚か付着していた。


「フフッ」

「……いくらでも、私の失態を笑ってくださいな。今は、言い返せそうもありません」

「あっ、いえ。そういうわけでは」


 ふと、クロイスが言っていたことを思い出す。

 イブさんは確か、何を言われても強く出ることがないらしい。

 てっきり受け流しているか黙って耐えているのかと思ったけど、きちんと言い返している?


「ちなみに、何て言い返す予定でしたの?」

「え? それは」

「ただの興味本位ですわ。教えてくださいませ?」

「……貴方が約束を破らなければ、こんなことにはならなかったのに、ですかね」

「ごめんなさい」

「え?」


 ボクが素直に謝ったからか、イブさんは怪訝そうな顔を向けてくる。

 時間を放課後だと勘違いしたのはボクの責任だ。

 そのせいでイブさんがあんな行動に出たのだから、ボクを責めるのは正当な権利でもある。


「あ、あの、セシリア様?」

「元はといえば私の勘違いで、貴方を怒らせてしまいましたわ。それについては謝罪します」

「い、いえ! 頭を上げてください! どうしたのですか、いつものセシリア様らしく……いえ、やはり」


 イブさんは何かに気づいたみたいだけど、ボクは気にせず彼女の頭に手を伸ばす。


「きゃっ! な、なにを!」

「ジッとしてくださいな……ほら、取れましたよ?」


 イブさんの頭を軽く撫で、ついていた葉っぱを払い落とす。

 一枚だけはアピールするために掴み取り、イブさんの目の前へ持っていく。


「あ、葉っぱ……ですか?」

「フフッ、お似合いでしたよ?」


 イブさんの黒髪に緑の葉っぱはよく似合っていた。

 葉っぱの髪飾りとか、あとは白いワンピースでも着てもらえばピッタリじゃないかな。

 軽く微笑むと、彼女はコホンと咳払いをして意識を切り替えたらしい。

 ……顔が赤いの、そのままだけどいいのかな。


「まずは、急なお呼び出しすみませんでした」

「いえいえ、私もお話がしたいと思っていましたけど、貴方はすぐに居なくなってしまいますもの。今回の場はありがたいですわ」

「それは……いえ、本題に入りましょう。先日の決闘はありがとうございました」


 イブさんはガイアルの第二夫人にされるところだった。

 ボクの勝利ということで白紙になったけど、あれからガイアルとイブさんは何か話したのかな?


「当然のことをしたまでですわ」

「いえ、普通は殿方に勝てないかと……」

「ま、まあ! あれは勝利の女神が微笑んだだけのことですわ」


 姉さんや先生いわく、ボクの負けだったみたいだし。

 ガイアルが認めなかったらボクの勝利にはならなかった。


「あれからあの方に何か言われましたの?」

「はい。ただ一言……悪かった、と。それはそれで傷つくのですが……」


 後の言葉は尻すぼみになって聞こえなかったけど、イブさんが巻き込まれなかったならボクが頑張った甲斐もあったかな。

 満足気にウンウンうなずいていたけど、次のイブさんの発言にボクは凍りついた。


「ところで、あの場はハヤト様が代わりに出てもよろしかったのでは?」

「……え?」

「どうして正義感が強いと噂のハヤト様ではなく、セシリア様が決闘に? 貴方はなぜ男同士の勝負に名乗り出たのでしょうか」

「それは……イブ様が決闘を申し込まれたので、女性代表として断る強さを証明したかっただけですわ」


 周囲の女子はそう捉えてくれた。

 しかし、イブさんは真剣な眼差しでこちらを見たままだ。

 それこそ、澄み切った瞳の中に吸い込まれそうなくらいに。


 見ようによっては何か思いつめた表情にも見えるけど、彼女がこんな顔をするなんて知らなかった。

 ふと、周囲の雑音が消えた……気がした。




「決闘だ。ボクが彼女に……イブさんに勝利を捧げましょう!」

「!!」

「……セシリア様、ボクなんて言うのですね。淑女らしくもない」

「おほほほほ! どうやらハ、ハヤトの口癖が移ってしまったみたいですわね!」


 彼女は何を言っているのかな?

 まさか、イブさんにバレているなんてことはないはずだ。

 だんだんと胸の鼓動が早くなる。

 しかし、イブさんの追及は止まらない。


「リリア様。彼女は弟のハヤト様に惚れ込んで、セシリア様の傘下に入るはずでした。そう、貴方が派閥を解散、そして決闘をしなければ」

「ちょ、ちょっと……いきなり何を言い出すのかしら?」

「それと小耳に挟んだのですが、クロイス様と船に乗ったそうですね? 本来なら、セシリア様は船に乗って体調が悪くなり、すぐに引き返すはずでした」

「どうして、それを?」


 まるで、見てきたかのように言い当てられる。

 なんだろう、答え合わせをされている気分だ。


「……そして、釣りは後日に持ち越し。代わりにハヤト様が今度の休みに私を誘ってくださるはずでした」

「え、そうなの? そんなことありえ……ないことも、ないか」


 姉さんの船酔いはボクもわかっているので、代わりに誰か誘おうとなってもおかしくはない。

 二人で行っても良いけど、どうせならクロイスとの仲を進展させるためにイブさんを誘うような気もする。


「実際はそうならず、釣りを堪能したみたいですね? 私も参加したかったのに……」

「あっ、では今度は四人で行きましょうか! 大丈夫ですよ、私こうみても得意なのです」

「それは良い考えね! あっ、いえ……ではなく!」


 キッ! と一回睨まれた。


「貴方の存在が、イレギュラーなのです」

「え、それってどういう意味?」

「私は、未来が視える……いえ、視えたのです。そう、貴方が介入する時点までは」


 この時、イブさんからは決闘で対峙した相手と同じ気迫を感じた。


「貴方はまさか、私と同じ……いいえ。何者、ですか?」


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