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「とりあえず、ね? 周りをみて?」

 

 腕を掴まれた時間は、長く続かない。

 また学園内へ入る手前で腕をパッと放された。


「では、また教室で」

「……今日は腕を組まないのですね」


 ボクの言葉にクロイスは目を見開いたけど、すぐに女性を安心させるための穏やかな表情へと戻った。

 ……ボクはそれが、作り笑顔だと知っているよ?


「勝手に腕を掴んでしまい、すみませんでした。セシリア嬢と腕を組むのは、またの機会ということで」

「本当はいつも、腕なんて……いえ、なんでもありませんわ」

「? そうですか。ではまた」


 確信は持てないけど、姉さんとクロイスは腕なんて組んでなかったのではないかな。

 じゃあどうして、クロイスはあの時あんな嘘を?

 まるで何かをごまかすような感じだったけど、それをボクが聞くということは……何かに踏み込んでしまいそうだ。


 もういっそのことクロイスにはバラしちゃおうかな?

 姉さんと父さんに気づかれないよう、上手く隠し通せる自身はないけど……今の状況は親友の気持ちを弄ぶみたいで辛い。


 せめて、家族以外で相談できる相手がいると良いのだけど。




 考え事をしながらだったので、教室で心配してくれる女子たちや、遠まわしに様子を窺ってくる女子たちには上の空で返事をする。

 彼女たちはまだ体調が万全じゃないと勘違いしてくれたみたいで、昼前には誰も話しかけてはこなくなった。


 てっきりリリアさんでも来るものかと思ったけど、彼女も最初に様子を見にきたきり姿を見なくなった。

 でも、こちらを見つめたままの視線が一人分だけある。


「………………」

「……はぁ」


 姉さんから話は聞いていたけど、イブさんだけは今日に限って目線が合っても逸らそうとしない。

 なんかボクのほうが先に、気まずさに耐えきれず逸してしまう。


 こちらから話しかけられるのを待っているのだろうか?

 そういやイブさん、自分から話しかけにいかないタイプだよね。


 さすがに食事中までは見つめてこないと思いつつも、可能性は否定できない。

 ここはいつものように、ボクから話しかけに行こう。


「先程からこちらを見つめていましたが、何か用があるのかしら?」

「……気のせいではないでしょうか。私からは何も」

「あら、そう?」


 それだけ伝えて立ち去ろうとすると、何か慌てた様子で手を掴まれた。


「? どうし……」

「な、なんでもありません!」


 そういって、話は終わったと言う風にそのままどこかへと立ち去ってしまった。

 お昼は別の場所で食べるのかな?


 イブさんとボクが話すだけで教室の注目を集めていたけど、イブさんがいなくなったことで興味はなくなったみたいだ。

 けど、ボクの手には、先程イブさんに握らされた紙が残っていた。

 席へと戻り、その紙を開く。


「何々――中庭にてお待ちしています。これ、いつ書いたのかな?」


 事前に用意していたとしか思えないけど、ボクのほうも話があったからちょうどいいや。

 とりあえずお昼だけ済まして、放課後にイブさんと何を話すか考えながら残り時間を過ごした。


 お昼の終了を告げる鐘が鳴る前にイブさんは戻ってきたけど、今までに見たことがない鋭い眼光で睨まれた。

 とりあえず微笑むと、視線が更に鋭くなった気がする。


 ま、放課後になればその理由もわかるよね。




 そう楽観視して迎えた放課後だったけど、イブさんが直接こちらへ来た。

 周囲の目も気にせず、一直線で。

 そして、バンッ! と机を急に叩くものだから、教室が静寂につつまれた。


「あの、どうされました?」

「……紙は、見ませんでしたか?」


 さっき手渡されたコレのことだろう。

 イブさんにも見えるように開いた状態で置く。


「ええ。ですので今から向かおうかと……」

「だ・れ・が! 放課後だと言いましたか?」


 おかしいな。

 周囲の喧騒が全くというほど聞こえてこないや。

 メイドのお姉さんが言っていたのだけど、こういうときは天使が通ったと言うみたいだ。

 ……天使、居座り過ぎじゃない?


「確かに何時かは名言していませんでしたが……わかりませんか?」

「えぇ……ちょ、ちょっと! 落ち着いてください!」


 イブさんの豹変っぷりに、どうして! という混乱と、目の前の人って本当にイブさんだよね! という疑惑がごちゃ混ぜになって頭をぐるぐると回っている。

 周りに助けを求めるも、教室にいるのは次に彼女がどう動くのか見守っている人たちだけだ。


 あー……クロイスも、信じられないといった様子でこっちを見ているよ。

 親友の恋が冷める瞬間とでもいうのかな? そろそろ止めないと。


「せっかく私が……あの時も……これ以上外れるわけには……」

「とりあえず、ね? 周りをみて?」

「周り? あっ」


 ようやくイブさんは、自分が何をしでかしたか気づいたらしい。

 隣のクラスの音が聞こえるくらいに周囲は静まり、全員がボクとイブさんに注目している。


「~~~~~っ!!」


 彼女はボクが見てもわかるくらいに顔を真赤にすると、走りながら教室を飛び出してしまった。

 ……必然的に、残されたボクに注目が集まるわけで。


「あっ、私も用事を思い出しましたわ! 皆さんごきげんよう」


 わざとらしい演技で、教室をゆっくりと退室する。

 もし重要な話ならば、中庭でイブさんは待っているはずだ。

 待っていなかったら……そのときは明日謝ろう。


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