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「だからこそセシリアの身体だ。問題なかろう」

 

 僕が叫ぶと同時に、何者かがノックもせずに飛び込んできた。


「ちょ! 誰よアンタ! 私の身体返しなさいよ!」

「キャ! ちょ、落ち着いて! ボクだよ、ボク!」


 思わず女の子のような悲鳴を出してしまったが、今はそれどころではない、

 目の前にいたのは自分自身だ。

 今は乱暴に扱われたため、ボクは姉さんの身体で服をはだけさせている状態だ。

 こんな場面、使用人の誰かにでも見られようものなら、ボクの立場が……。


「……あ」

「え?」

「す、すみません! ごごご、ごゆっくり!!」


 既に遅かった。

 扉が開いていたので、大声に何事かと様子を見に来たメイドさんに見られてしまったらしい。

 ああ、ボクの立場が……。


「ちょ、ちょっと! 私の身体で泣かないでよ! それよりも返しなさいよ、身体!」

「うぅ……知らないよ。ボクにもわからないんだから」

「たく、思い当たる原因は……あっ、お父様!」


 そのまま姉さんはボクを放置し、部屋の外へと駆け出していった。

 残されたのは、服が乱れたまま床に寝そべるボク。

 こんなところ見られたら、侵入者がいたかのように……。


「おおお、お嬢様ぁ! 大丈夫ですかぁ!」

「だよねー……」


 時既に遅しだ。

 ボクはそれから、使用人への誤解と、姉さんへの誤解を解くのに数十分の時間を要した。




 その日の朝食は、使用人全員を集めての食事となった。


「ハッハッハ、無事に上手く終わったようだな」

「どういうことか説明してくださいませ」

「そ、そうだよ!」

「まあ待ちたまえ。その前に、ハヤト……で良いんだな? その服装はどうにかならなかったのか?」

「え?」


 さすがに肌着のままではまずいと思い、上から羽織ものをしている。

 しかし、寝間着のままで朝食というのは姉さんですらしていなかった。

 この格好は何かまずいのだろうか。


「ちょ! アンタ! なんで付けてないのよ!」

「え、なんのこと? もしかして……」

「もうっ! 行くわよ。そんな格好で人前に出られると、私が恥ずかしいわ!」

「お、お待ち下さい! いくら双子で仲が良いからといって、さすがに着替えまでは……」

「すまない。配慮が足りなかったな。そこのメイド、一緒に行ってやれ」


 父さんの指示で、子供の頃からお世話になっているメイドさんがついてくる。

 多分皆も事情は察しているのだろうけど、父さんが指示するまでは何も言わないみたいだ。


 そのまま姉さんの部屋に着き、メイドさんに適当に見繕ってもらう。


「さて、じっとしていてくださいね」

「うん……ひゃわっ!」

「動かないでください!」

「うっ、うん……っっん!」


 未知なる遭遇だった。

 服を着るのには数分しか経っていないだろうけど、ボクにとっては何十分とも思えるほど長い時間だ。

 でもこれで、見えるようにはなったと思う。


「整いましたよ」

「うん。ありがとね!」

「…………ぐは」


 何故かお付きのメイドさんが鼻を抑えていたけど、ハウスダストかな?

 父さんにもう少し仕事を減らすように言っておかないと。




 そして再び食卓の席へと戻る。

 どうやら皆ボクを待っていてくれたみたいだ。


「さて諸君。気づいているとは思うが……ハヤト」

「はい、なんでしょうか」


 姉さんの身体のボクが返事をする。


「そしてセシリア」

「何でしょうか、お父様」


 ボクの身体の姉さんが返事をする。


「このように、二人は中身が入れ替わった。これからそう接してくれ」

「納得がいきませんわ! きちんと説明してくださいませ!」


 もっともな意見だけど、ボクの身体で女言葉はやめてほしいかなー。


「セシリアでは第二王子を陥落できない。その点ハヤトなら仲も良いので簡単だろう」

「いや何言っているんですか! 男同士ですよ!」

「だからこそセシリアの身体だ。問題なかろう」


 大アリである。

 第一、巻き込まれるこっちとしてはいい迷惑だ。

 それに、ただでさえ姉さんに苦手意識があるクロイスに、どう説明しよう。


「幸運なことに、今日から新学期までは連休だ。この連休中に、それぞれ紳士淑女の嗜みを叩き込むぞ」

「「!!」」


 その言葉に、ボクと姉さんは猛反対した。

 確かに女言葉をボクが使うのは気持ち悪いが、そこまでして教育してほしくもない。

 同時に、ボクも女らしさなんて身につけたくもないんだ!


「言っておくが、これは命令だ。もし、ここにいる人間以外に正体がバレたなら……」

「バレたなら……?」

「私の後継者にはさせん。秘密を隠し通せた方に後は継がせる」

「「!!」」


 本来は男であるボクの役目だったが、こうなってからはどっちが継いでもおかしくはない。

 つまり、ボクの正体がバレたら一生このままってこと?

 そして、ボクが嫁入り……嫁……嫁、そして跡継ぎ。


 冗談じゃない!


「その為にも、二人とも地獄の特訓に耐えるように。ではな」

「ちょ、ちょっと待ってください!」

「……何だ?」

「その、ハヤトは第二王子を落とすとして、私はどうしたら?」

「あー……ライバルでも手篭めにしたらどうだ? 結果としてハヤトの為になるし、好きにするが良い」

「え、やった! これで遊び放題よ!」

「そ、そんなぁ……」


 こうしてボクらの地獄の特訓は始まった。

 女らしさを身に着けて……ボクは本当に、元に戻れるのだろうか。

 いや、クロイスの為にも戻ってみせるんだ!

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