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「ちなみに俺の船だ。貸し切りだぞ?」

 


 考えている内に鐘が鳴ってしまった。

 ……まあ、姉さんと相談してなんとか断ろう。


 そうして授業も終わり帰宅準備をしていると、目の前にクロイスが来た。


「では、早速ハヤトの元へ行きましょう」

「?」


 どうやら三人で帰ろうとしてくれるみたいだ。

 手を差し出されるけど、本当に姉さんにもやっていたの?

 ボクが疑わしい視線で手を見ていると、クロイスは手を引っ込めた。


「……貴方は俺から触れられるのが嫌でしたね。失礼」

「いえ、そのような事は……」

「ほら、ハヤトが帰ってしまいますよ。行きましょう」


 それだけ言い残し、クロイスは先に移動してしまう。

 周囲からは「どうして手を取らなかったの?」という心の声が聞こえてくるようだ。


 今朝はともかく、そんなエスコートされるような真似、出来るわけないじゃないか!

 そう叫びたいけど、叫んだらボクが終わる。男としての人生が。

 集められた周囲の視線から逃げるように、ボクもクロイスの後をトトトと追いかけた。




「だとすると、あのお茶菓子と合わせてみては……」

「おーい、ハヤトはいるか」

「あ! クロイス……だ。どうかしたの?」


 クロイスとは一定の距離を保って隣のクラスにいくと、姉さんは女子数名に囲まれていた。

 え、それなんてハーレム? と疑問に思ったくらいだ。


「今日は一緒に帰らないか?」

「まあ! クロイス様と二人っきりで……じゃ、ないか」


 姉さんの瞳がボクの姿を捉える。

 あからさまに落胆しないでほしいかなー。


「あらあら、ハヤト様。私達の口調まで真似なさらずとも」

「セシリア様も待っていらっしゃるのですね。どうぞ、お姉様を優先してくださいませ」

「そうですわ。続きはまた後日に」


 ……随分と慕われているようで。

 姉さんはこちらでも上手くやっているらしい。ボクとは大違いだ。


「じゃあ、悪いけど、また明日ね」

「では、お気をつけて」

「ごきげんよう」


 そういって彼女たちと分かれ、姉さんが合流する。

 姉さんは何かを伝えるようにジッと見つめてくるけど、アイコンタクトで後ろに下がれって言っているのかな?

 言われなくてもそうするよ。


「クロイス……! なんだか久々だね。こうして帰るのって!」

「新学期からは初めてか? 連休中は遊べなかったからな」

「久々だから、腕でも組む?」

「ハハッ、セシリア嬢じゃあるまいし、どうしてお前と腕なんか組まなきゃいけないんだよ」

「……そ、そうだね」

「そういや、連休はつまらなかったぞ。一体何していたんだよ」

「えっと、それは……ね、姉さんと特訓を」

「ああ。通りでな。セシリア嬢の剣技や、釣りのコツもお前が仕込んだんだろ? おかげで随分と魅力的に……いや、何でも無い」

「は?」


 前で二人が話しているけど、ボクは会話に入り込む気はない。

 だって三人で帰ることはあったけど、姉さんに会話の邪魔をされてクロイスとの話が弾まなかったのだ。

 例え姉さんの身体だとしても、ボクとクロイスが嫌だってわかっている行為をなぞることはしない。


 しかし、話を振られるなら別だ。


「セシリア嬢は、船に乗ったことはありますか?」

「え、船ですか? 何年か前に一度」

「それでは、今度の休みは船で釣りに行きましょう! ハヤトもそれでいいよな?」

「え……船? 僕、船は苦手なのだけど」


 そういや、姉さんは家族で船に乗ったときも気持ち悪そうにしていたっけ。

 風もあんなに気持ちいいのに、もったいないなー。


「ん? ハヤトは船が好きとか言っていなかったか? 今度船で釣りをしたいとも言っていたじゃないか」

「そうだっけ。でも……遠慮したいです」

「ちなみに俺の船だ。貸し切りだぞ?」

「行きます! ぜひ行かせてください!」


 姉さんのテンションが面白いくらいに上がった。

 でもそうか。この連休中にクロイスも奮発したらしい。

話ではお古をもらったみたいだけど、それでもすごいや。


「念願の船を手に入れたんだね。おめでとう」

「おう、ありがとな……て、どうしてセシリア嬢が?」

「あっ、えっと……ハヤトから聞きましたの!」

「そうでしたか。では、休日は楽しみにしてください」

「うん! じゃなくて……はいっ!」


 久々の釣りだ! 楽しみだな。

 家に帰ったら早速道具のメンテナンスをしなきゃ!






 ボクは今、最悪な気分だ。

 道具をいじりすぎてメイドさんに怒られたり、ガイアルにちょっかいをかけられたりもしたけど、休みの事を考えると気にならなかった。

 姉さんに釣りのコツを教えたり、船酔いを軽減する準備もしたけど……これは、盲点だった。


「うぉぇぇぇぇぇええ……」

「あの、セシリア嬢。あまり無理をしないほうが」

「姉さん。大丈夫? 横になって休んだら?」

「だい……じょぶ」

「いけません。奥に部屋がありますのでお休みになってください」


 クロイスの言葉で、操縦士も兼ねている執事さんがベッドまで運んでくれる。

 さすが王族の船というべきか、ベッドもふかふかだ。


 そう。

 ボクは船が楽しみだったけど、今は姉さんの身体ということを忘れていた。

 姉さんの身体は船酔いしやすく、何も対策をしていなかったボクはすぐにダウンすることになった。


「いますぐ引き返しますので、もうしばらくの辛抱を」

「いえ、昨日は楽しみで眠れませんでしたの。少し休めば良くなりますわ」

「しかし……」

「ハヤトも楽しみにしていましたの。お願いします」

「わかり、ました」


 今回ばかりは、珍しく姉さんも申し訳なさそうにしている。

 けど、ボクだって今日は楽しみにしていたんだ。

 船酔いなんかに、負けるもんか!

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