同性だからこそ、その姿に憧れてしまいました。
リリア視点
◇◇◇◇
今年が勝負の年でしたが、神は私を見放したようです。
まさか、クロイス様と別のクラスになってしまうなんて。
今年から、私の婚約者が同じ学園の生徒となります。
あのような野蛮な男、私は好きではないのだけど……お家のためですもの。
身分も申し分ないので、私さえ我慢したら全ては丸く収まります。
けど、もし……上の身分であるクロイス様を振り向かせることができたら?
もしかすると、あの男の第一夫人という肩書も消えるかもしれません。
その日の夜、食事中に言われました。
「今年からエニフ家のご子息が通うそうだな。フォーハウト家のためにも、今のうちに仲の良さを見せつけておけ」
「しかしお父様。本日の彼は色んな女性に声をかけておりましたわ。挙げ句には、私にも他の女性と同じように声をかけてきましたのよ?」
「何? それはお前の存在感が薄いからだろ。しかしちょうど良い。そのまま交流に持ち込め」
「簡単に言われますけど……」
「なあに。第一夫人は婚約者であるお前だ。交流を育んでからカミングアウトしろ」
お父様は、私の気持ちなど考えてくださらないのですね。
その言葉を飲み込み、休日は花嫁修業に打ち込みました。
唯一の希望は、クロイス様に気に入られることです。
そのため、私は今日も女性らしくあるため、エニフ家のためではなく、いつかクロイス様に振り向いてもらうために努力します。
転機は唐突に訪れました。
私と同じくクロイス様を狙っていた令嬢、セシリア様があの御方……ガイアル・エニフ氏と決闘をなさるという噂が流れてきました。
何でも求婚の申込みではなく、本当に決闘をするとのこと。
それを聞いた時、思わず伝達してくださった女性を問い詰めたくらいです。
そんな、ありえない!
女性の身で、ガイアル様に勝てるわけがありません。
案の定、決闘の舞台にはセシリア様に恨みを抱く人々が多くいました。
彼女は私たちと派閥を争っていたせいか、過激な報復もいくつかしていました。
かく言う私も被害者の一人です。
もっとも、第三者からではなく当事者から見ると、正義はセシリア様にある場合が多かったのですが。
しかし、これとそれとは別です。
皆がセシリア様の敗北を期待する中、その決闘は開始されました。
一言で言うと、美しい。
それほどまでに、彼女……セシリア様の美は完成されていました。
時に優雅に、時に鋭く、そして時に妖艶に。
生命の輝きとでも言うのでしょうか。
まるで負けるなんて思っていない、力強い攻撃。
相手を不意を付き食らいつく獰猛さ。
そして、最後の一瞬まで諦めないその心意気。
彼女が私と同性でなければ、一目惚れしていたところでしょう。
いいえ。
同性だからこそ、その姿に憧れてしまいました。
先程の決闘を脳裏に焼き付けながら、フワフワとした気持ちで帰宅すると、家ではちょっとした大事件が起きていました。
私にとってはちょっとしたことでも、家族に関しては大事件です。
「おい、エニフ家から婚約解消したいと言われたぞ! 勝手な都合ですまないと膨大な謝罪金も一緒にだ!」
「え?」
「お前……ではなく、エニフ家のご子息が夢中になるほどの女性が現れたらしい。残念だが、婚約の話はナシだ」
その言葉に、悲しみより喜びが大きく勝りました。
これもセシリア様のおかげでしょう!
是非ともあの方にはお礼を申し上げなければ!
後日、教室で見かけたセシリア様は疲れ切っている様子でした。
しかし、私はなんとしてもセシリア様に恩を返したいのです。
まずはその、第一歩です!
「あ、あの! 私と……お昼をご一緒してくださいな!」
「え?」
困惑しながらもセシリア様は、静かにするという条件で認めてくださいました。
フフ……私、音を立てない動作は得意なのですよ。
「そういえば、あなたのお名前を聞いておりませんわ」
「……まさか、お忘れになられたのですか!」
衝撃の発言に慌てました。
これでも私は、昨年クロイス様を巡って牽制し合った仲。
敵同士だったとはいえ、顔も覚えられていないなんてショックです。
「私の心に、深く刻み込みたいだけですわ」
「お姉様……ッ!」
ああ、彼女は私のお姉様です!
まずは、今までの謝罪を。
しかし、お姉様は気にしないどころか、弟であるハヤト様をフォローしてほしいとのこと。
私の記憶では使用人のように扱っていた気がしましたが、いつのまに家族思いになられたのでしょうか?
考えながらも食事をしていると、私の耳に衝撃発言が飛び込んできました。
「綺麗だ」
「……ッッ!」
それはお姉様のほうです!
そう言いたい言葉を飲み込み、苦しげな私をお姉様は介抱してくださいます。
ふと、ティーカップが手元に二つあることに気が付きました。
「あ、それは私のティーカップですわ。慌てていたものだから、つい」
「それは、お姉様と…………ッ!」
不意打ちすぎます。
これって、間接……間接、のアレですよね
私が呆けている間に、お姉様は更に素晴らしい提案をなさってくださいました。
「……ではリリア。私の代わりに派閥を引っ張ってくれないかしら?」
「お姉様の親衛隊ですわね! お任せください!」
「え? 違いますけど……」
「代表はお姉様、補佐が私。元お姉様の勢力だった女子も加えましょう」
これでようやくお姉様のお役に立てます!
こうしてはいられません。
食事は優雅にがモットーでしたが、ここは淑女の技で一瞬のうちに片付けます。
フフ……驚いていますが、パーティなどでは必須技能ですよ、お姉様。
「では、私は急用を思い出しましたのでこれで失礼します!」
こうしてはいられません!
私はすぐに周囲の女性と自身のクラスに向かい、お姉様親衛隊についての計画を練り始めます。
その様子を、弟のハヤト様は興味深そうに眺めていましたが……えっ、参加されるので?
まあいいでしょう。
弟様や彼女たちも私の同志。
きっと、これから。
私達はお姉さまに、人生を変えられてしまうことでしょう……ああ、楽しみで仕方がありません!
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