表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
109/110

「なら、このまま私と逃げちゃう?」

 

 翌日。

 メイドのサラさんに起こされると、身だしなみも整えないまま部屋を飛び出した。


「ハ、ハヤト様! 落ち着いて!」

「だって早くクロイス達が戻っているか確かめないと!」


 宿泊している部屋はわかっている。

 ここからだとクロイスの部屋よりガイアルの部屋のほうが近い。


 それに、ガイアルはクロイスの身体でも自分の部屋に戻っていたので、もしクロイスがいるとしたらそこだ。

 他所の家で廊下を走っていたからだろうか。

 曲がり角から出てきた人物と頭をぶつけてしまう。


「きゃっ!」

「ぐはっ!」


 お互いに角越しに吹き飛び、後から駆けてきたサラさんが「大丈夫ですか!」と介抱してくれる。


「う、うん……なんとか。ごめんなさい」

「あちらの方に謝ってください」

「そ、そうだね。すみませんでした」


 ボクが突き飛ばした人物は、既に起き上がっていた。

 足元から判断すると男性らしい。

 そのまま上に顔をあげていき……そこにいたのはよく知った顔だった。


「全く、また入れ替わりでもしたらどうするつもりだったんだ」

「……クロイス? え、本物?」

「残念だが…………ちょ! 違う! 泣くな! 俺が本物だ!!」


 クロイスが言葉を発すると同時に涙が溢れてきたらしい。

 気づいたら泣いていた。


 サラさんに慰められながらも、クロイスを警戒するのは忘れない。


「悪かった! ちょっとした冗談だったんだ!」

「ぐすっ……ぐすっ……ほんと? 本当にクロイスなの?」

「ああ。だからその……泣くなよ」


 おそるおそる伸ばした手は、クロイスに掴まれた。

 そのまま、倒れたままのボクは引っ張り立たされる。


「よかった。元に、戻ったんだね」

「あ、ああ。だから、その……」


 何か言い淀んでいるところを見ると、昨日の続きかな?

 まだ朝も早い時間帯だけど、もう?

 サラさんがいるんだけど……。


「ちょ、ちょっと待って。もっとこう、落ち着いた場所で」

「まずハヤト様が落ち着いてください」

「そうだな、まずお前が落ち着け」


 二人に言われ、キョトンと首をかしげる。

 たしかにさっきまで泣いてはいたけど、そんな言われることなんて――。


「服、着替えましょうね」


 サラさんの言葉に、いま自分がどんな格好をしているか自覚した。

 寝る時はゆったり目の服を来て、尚且その肌着のまま走ってきたんだ。

 さっきからなんか冷えるなぁとは思っていたけど、まさか。


 バッ! と身体を隠すように両手で押さえるも、隠せる範囲なんてたかが知れている。

 それに反論するように、ボクの胸にあるモノがむぎゅう、と潰れた。


「……ほら、この上着を貸してやるから着ていけ」

「あ、ありがとう……見た?」

「…………何をだ」

「そっか。ならいいや」

「この状況で見るなと言う方が無理かと」

「ちょ、馬鹿!」

「ばかーっ!!」


 ……二人が元に戻った朝は、いろんな意味で騒がしかったという。






 その日は学園もあるので、大勢でぞろぞろと通学した。

 決闘のことは知れ渡っていたので、皆の興味津々な視線が気になるけど……それよりもクロイスのことだ。


 ガイアルもクロイスも元に戻ったけど、昨日の話というのはまだ聞いていない。

 そのまま他愛のない話しかせず、姉さんたちともクラスで別れた。

 イブさんだけは荷物を寮に置きたいとかで、今日は珍しく朝早くから通学していたけど。


 なので、教室に入るときにはボクとクロイスの二人だけだ。

 切り出すなら今しかない。


「クロイス。あの話なんだけどさ」

「……放課後、中庭で」

「え?」


 それだけ伝え、彼は先に入ってしまった。

 ……ボクは時間まで、どんな顔で過ごせば良いのだろう。




「イブさーん……助けて」

「今日は朝からひどいと思っていたけど、今はいつにも増してひどいわね」

「だって放課後が気になって……」

「はぁ……じゃあ今から聞きに行けばいいじゃないの」

「できるわけないよ!」


 今日はクロイスとチラチラ視線が合うわけだけど。

 お互いにサッとそらし、また同じタイミングでチラッと見ることを繰り返している。

 タイミングが一緒なので、合うタイミングも一緒。

 以下無限ループだ。


「全く、付き合い始める前から初々しいカップルじゃないの」

「ボクとクロイスが? 冗談じゃない!」

「あらそう。でも、向こうはそうでもないみたいよ?」

「え?」


 ボクとイブさんの会話が聞こえたのだろう。

 さっきの「冗談じゃない!」が大声だったからか、頭を抱えて落ち込んでいる。

 急に頭を抱えたものだから、周りの友人が大げさに心配しているようだ。


「……どうしたらいいか、わかんないや」

「なら、このまま私と逃げちゃう?」


 イタズラを思いついたというかのように、頬杖をつきながらイブさんは提案してきた。

 ……彼女が本気かどうかわからないけど、一つだけわかることはある。


「いや、やめておくよ。少なくとも、クロイスは本気だから」

「あらそう。じゃ、それでいいじゃない」


 授業が始まるから、と去り際「……わかってるじゃない」という呟きが聞こえたけど、彼女はこちらを振り向かなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ