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「だが断る」

 

 ボクに戻らないで欲しい。

 つまり、クロイスが元に戻るということだろう。


「予め伝えておくが、俺はガイアルの意見に賛成だ」

「え、どういうこと?」

「俺よりもガイアルのほうが相応しい。兄上はわからないが、両親も説得すればわかってくれるだろう」


 あまり家族と仲がよいとは言えないクロイスだ。

 両親もそんな息子より、立場にこだわるガイアルのほうがまだ使える(・・・)と思うのかもしれない。

 ……けど、そんなことって。


「クロイスも、戻らないってこと?」

「ああ。ちょうど在庫も切れたんだ。このままストックとして置いてあっても良いとは思わないか?」


 皆を見渡す。

 反論は、ない。


「では、この場は現状維持として各自の生活に戻るものとしよう。わかっているとは思うが、既に知られている者以外にこのことは秘密だ」

「そうだけど……」


 ボクと姉さんも、クロイスとガイアルも元に戻らない。

 ただ、保管庫に侵入を許した父さんと、その主犯であるオリーブさんは何らかの罪に問われるだろう。


 ……それだけで済めばいいけど、最悪処刑される。

 もちろん、ボクらまで巻き沿いになる可能性もだ。


「安心しろ。今の俺では無理だが、ハヤトの家は軽い罪に押さえるように説得してもらおう。任せたぞ、ガイアル」


 今のクロイスにはガイアルと同等の権力しかない。

 陛下、もとい王族に直談判できるような立場にいるのは、クロイスの身体にいるガイアルだ。


 ただ、肝心の本人は……その提案に首を振った。


「だが断る」

「は?」

「それは俺ではなく、兄貴の役目だろ」


 その発言は、皆の視線を再度注目させるには十分だった。

 彼はさっき戻りたくないと言ったはずだけど、何を言っているのかな?


「どういう意味だ?」

「確かに俺は、この機会を逃すわけにはいかない。だが、良いのか?」

「……何をだ」


 周りを見渡し、たっぷりと溜めを作ってからガイアルは発言した。


「俺は両陛下を説得しない。ハヤトとセシリア、二人にも罪を償ってもらう予定だ」

「そんなこと!」

「……まあ、そうよね」


 姉さんもイブさんも、それを聞いて「やっぱり」と納得顔だ。

 ……ボクも、その通りだと納得した。


 今回の件で一番の罪はオリーブさんにあるだろう。

 しかし、それを管理者という重要な役割にいながら許した父さんにも問題はある。

 そしてこの件を突き詰めれば、父さんが無断で霊草をボクらに使用したことはすぐにわかるだろう。


 私用で重要管理案件を持ち出し、管理を怠る人物。

 これのどこが信用できるだろうか。


「両陛下がどのような判断を下すかは知らないが、俺は兄貴に成りきってその成り行きを見守ろう」

「貴様ッ!!」


 その判断にこの場で唯一、クロイスだけが納得できていない。

 ボクもイブさんもある程度覚悟していたし、姉さんもリリアさんも寄り添って決定には異議がないようだ。


 ……まだ、クロイスに成りきってというだけマシなのかな?


「おいハヤト。お前はそれでいいのか? これだと元に戻るどころか、お前の人生も終わりだぞ」

「クロイスたちまでそうなっちゃった以上仕方ないよね。それに、父さんが来たときからそんな予感はしていたから」


 ボクらは父さんとともにする。

 なので元に戻るどころか、霊草を使う必要もない。

 だから……元から一組しか残されていなかった時点で、選択肢なんてなかったようなものだ。


 ……もっとも、ただ一つの選択肢を除いて、だけど。


「そんなの……ハヤトが居なくなったら、意味がないだろ!」

「貴方には関係のないことよ。ね? クロイス様」


 相変わらずボクの隣にはイブさんがいる。

 彼に見せつけるように腕を絡ませてくるあたり、彼女も気づいているのだろう。


「……しかし」

「僕はいなくなってもいいのかな? ま、クロイス様が動いてくれるならこっちも助かるのだけど」

「私、どこまでもお供しますわ。例え別の土地へ向かうことになろうとも」

「俺は兄貴になりきることにする。多少の擁護はするが、親友(・・)のハヤトは守れても、兄貴が避けて(・・・)いたセシリアは守れないだろうな」


 ここ最近、クロイスは城へと帰っていない。

 つまり最近の動向は両陛下もあまり知らないわけだ。


 彼らも人の親なわけで、残すなら男友達だと思っているハヤト(姉さん)で、ボクの父さんと一緒に排除するなら煩わしく思われている姉さん(ボク)になることだろう。

 もちろん、ガイアルが何も言わなければ。


 そのことを伝えると、クロイスは悔しそうに拳を握り込んだ。


「俺の親友はハヤトだけども、ハヤト(セシリア)じゃない……ッ!」

「クロイス……」

「わかってはいたけど、ハッキリ言われると傷つくものね」


 そんな姉さんを慰めるように、リリアさんは指を絡ませている。

 ……もうあっちは無視しよう。何を言っても盛り上がるだけだろう。


「なら、どうするつもり?」

「イブ嬢、俺はどうすればいい?」


 大柄なガイアルの身体で、華奢なイブさんに縋る。

 そんな状況でも、イブさんはクールに突き放つだけだ。


「そんなの、私が知るわけないじゃない」

「ハヤトには助言をして、俺にはくれないのか!」

「……そんな、情けない姿見せないでよ。こんなのが人気一位とか呆れるわ」


 もう話は終わった、というようにイブさんは部屋に帰ろうと席を立つ。

 それにならって、姉さんとリリアさんも退室しようとする。


「え、皆帰っちゃうの?」

「だって、もう結論は出たじゃないの」


 ガイアルもウンと頷いているあたり、クロイスだけが……いや、ボクとクロイスだけが状況についていけていない。

 もっとも、ボクとクロイスでは悩んでいる内容が別物だろうけど。


 姉さんたちは退室し、イブさんが去り際に言葉を放つ。


「貴方の最愛の人を守りたいなら……どうするべきかわかるわよね?」


 そして、扉はパタンと閉められた。


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