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「どんな結果なら、イブさんのハッピーエンド?」

 

 その場が沈黙に包まれる。

 最初に口を開いたのは、父さんだった。


「まとめて保管しておいたのが仇となった。私の管理ミスだ、すまない」

「いや、貴重な霊草とやらを誰にも悟られず、三十数枚保管していただけでもありがたい。貴方は立派に役目を果たしていた」

「……ありがたきお言葉」

「でも父さん。それを勝手にボクらへと使ったよね?」


 皆が『今ここで言う?』みたいな視線を向けてきたけど、ボクとしてはそんな重要なものを気まぐれで使わないで、と言いたい。

 だって姉さんと入れ替える、なんて行動をしたせいで、結果的には盗まれてこんな事態になっているんだから。


「そうだな。軽い気持ちで行動した結果がコレだ。俺が私利私欲に動いた結果でもあるので、どんな処分でも受けよう」

「それは、命をもって責任を取るということか?」

「はい。今すぐにでもその用意は出来ています」


 父さんの懐から、一振りのダガーナイフが出てくる。

 それがゴトン、と机に置かれた。

 あれはいつも父さんが護身用として持ち歩いているダガーナイフだ。


「霊草は殿下がお使いください。私のミスは、我が家のミス。一家全体でその後の人生を受け入れましょう」

「ちょ、勝手に……」

「お前は黙っていろ!!」


 その怒声に、思わずビクッと反応してしまう。

 父さんの覚悟は本物だ。

 クロイスが死ねと命じるなら、すぐにでも行動に移すだろう。

 そして同じく、ボクと姉さんの命運もクロイスの判断に託された。


 そんなボクの心情を察してか、クロイスが心配そうにこちらを見てくる。

 ……ガイアルの身体で、そんな顔しないでくれるかな。


 クロイスをそんな目で見たことはなかったけど、ガイアルはこれまでボクにストレートな感情をぶつけてきた。

 こちらが恥ずかしくなるような、告白の言葉も。

 だから違うとわかっていても……その身体で発せられる言葉に、ボクは無意識に反応してしまうだろう。


「……わかりました。この霊草は、貰い受けても?」

「ええ。何なら、うちの娘も差し出しましょう。貴方の人生を奪ってしまった代わりにはなりませんが」


 一瞬「えっ!」と声に出そうとしたもの、よく考えたら娘って姉さんのことだよね?

 ボクは関係ないからいっか。


「……………………それは、本人次第ですね」

「左様ですか。おいハヤト、お前はどうなんだ?」

「え? ボクは関係ないよね?」

「何を聞いていたんだ」

「だって姉さんのことでは?」


 ボクは姉さんのほうを見るけど、ここに集まった皆は『何いっているのこの子?』みたいな目でボクを見てくる。

 味方のはずのイブさんも、フローラさんも、サラさん……は味方なのかわからないけど、そのメンバーもだ。


 やがて誰かがため息をついた。


「はぁ……この状況で娘って言ったらアンタでしょ。だって、最後の霊草はクロイス様とガイアル様が使用するのだから」

「それじゃ……」

「ハヤトにとっては残念だけど、この身体は僕のモノだ」


 ふふん、と姉さんが勝ち誇った顔をした。

 状況を考えればそうかもしれない。

 父さんはそれで納得しているし、姉さんも願ったり叶ったりだ。

 ……かといって、巻き込まれただけのクロイスとガイアルに戻るなとは言えないし、そうなると仕方がないことかも――。


「まだ決めるのは早急だぞ」


 その言葉は、ガイアル……クロイスの身体の、ガイアルから出てきた。


「俺はできれば、兄貴の身体のままが良い。兄貴も、そのほうが良いだろ?」

「まさかそんなこと……」


 クロイスから否定の言葉は、出ない。

 王族の立場が煩わしいとか言っていたけど、あれは冗談ではなくって本当に……?

 ガイアルも王族という立場に未練があるらしい。

 二人が入れ替わったことからも明らかなように、同じ血を引く人間だ。

 家の都合で継承権はないとのことだけど、もしクロイスの身体になれば……その問題も解決する。


「どちらにせよ、残された霊草はこれだけです。一組分の量しかありませんので後悔しない選択を」

「ご忠告感謝する」

「……私はこれから戻り、他に手がないか探してみますが、ほぼ期待出来ないことを先に伝えておきます」

「わかった。わざわざ済まなかったな」

「こちらこそ、これからの人生を捧げて罪を償いましょう」


 父さんの罪は、勝手に霊草を使ったこと。

 管理者の職務を怠ったこと。

 どちらも国にバレるとまずいことなので、もしクロイス達が入れ替わっているのが発覚したら自ずと父さんが注目されることだろう。


 これでもボクらをここまで育ててくれた恩がある。

 できればクロイス達に戻って欲しい。

 でもそうなるとボクはこのまま……。




 父さんが帰ったことによって、この場もお開きになった。

 同じタイミングでフローラさんも帰ったけど、サラさんはボクの側にいてくれるらしい。

 他の皆は一旦時間を置き、夕飯までに各々で答えをまとめるようにするとのことだ。


 ボクの考えは変わらず、男に戻りたいということ。

 けどそうするとクロイスは? 

 ガイアルの意思は聞いたけど、クロイスの本音はまだ聞けていない。


 ボクらが聞いたのは、ガイアルの想像に過ぎない。

 クロイスは、どう思っているんだろう?


「ボクとしては、考えは変わらないのだけど」

「やはり貴方はそのままなのね。そんな貴方が愛おしいわ」

「きゅ、急に何かな。こそばゆいのだけど」

「私は貴方が決めたことなら、文句は言わないわ」


 同室の彼女はボクが男に戻るために協力してくれた。

 ……具体的な成果はなかったけど、それでも相談相手として何でも話せる友達というのは貴重だった。

 そんな彼女は、ボクの選択を尊重してくれるらしい。


「ちなみに、未来の結果を聞いても良いかな?」

「あのね。前にも伝えたけど、そんな結末私は知らな――」

「どんな結果なら、イブさんのハッピーエンド?」


 彼女は一瞬驚いた顔をして、すぐに微笑んでくれた。


「そんなの、私とハヤト……貴方と寄り添う結果以外、ありえないわ」

「ふふ、ありがと」


 ボクが変わらないように、イブさんの意見も変わらないようだ。

 その言葉に安心し、ボクとイブさんは夕飯までの僅かな時間を雑談で過ごした。

 ……どんな結果になろうとも、今の時間を大切に思えるように。




 コンコン。

 誰かがノックをする音が聞こえた。

 サラさんが食堂まで呼びに来たのかな?


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