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「さて、貴方の罪を清算しましょう」

 

 本来は食卓に移動するべきだけど、彼女とはここでオサラバする予定だ。

 だってもし姉さんやイブさんに見られたら、ボクの思惑通りにならない可能性もあるし。


 料理は、いつのまにか横に控えていたサラさんが運んでくれた。


「……これが、残り物ですか?」

「ああ。先程作らせた物もあるが、急にこしらえたものでな。これくらいのものしか用意できなかったことを許してほしい」


 並べられた品の中に、昨日の残りはない。

 でもその事実にオリーブさんが気づくわけがない。

 だって、実際に見た人間にしかわからないのだから。


「あの、副菜として葉が添えられるような品はありませんの?」

「確かにあったが、一人一品だったのでな。余るようなことはなかったぞ」

「よくおわかりで。随分とお詳しいのですね」


 彼女は面白いくらいビクッと震える。

 ……つまり、こちらのスープとは別に添えられた葉っぱが怪しい。


 霊草自体は見たことがあるけど、そのまま使われるとは予想外だった。


「た、ただなんとなく。何となくそんな気がしただけですわ」

「……はぁ。貴方、もういいですわよ」

「え?」

「貴方が霊草を使って何かを企んでいたこと、バレバレですから。その目論見も失敗したようですけど」


 何に入っていたか。

 それさえわかれば、こちらも惚ける必要はない。

 あとはカマをかけて、上手いこと交渉するだけかな。




「な、何のことでしょう?

「大方、私と立場を入れ替えようとでも画策したのでしょう。だってそうなれば、クロイス様と親しくできますものね?」

「……………………」


 返答はない。

 でも、ボクも追求の手を緩める気はない。


「情報は掴んでますのよ? 満月の夜に食せば、お互いの立場が入れ替わるという不思議な葉が存在するようですね」

「どこでそれを……い、いえ。初耳ですわ」

「ちなみに、こちらにいるお二方もご存ですわ」


 ボクが「ね?」と同意を求めるように微笑むと、二人とも黙って首を縦に振る。

 ……圧力をかけたわけじゃないけど、二人が従っている光景は、彼女の目には異様に映ったらしい。


「そんな……ガイアル様までもが言いなりに……!」

「さて、貴方の罪を清算しましょう」

「私に罪なんて……」

「それとも」


 有無を言わせない、強い言葉で宣言する。


「王族に毒物を食べさせようとした悪人として、貴方のことを周知しましょうか? 被害者も揃っていることですし」

「被害者と言いました? だって失敗して影響は…………あっ」


 はい、言質取りました。


 それ以降は、実にスムーズに事が運んだ。

 泣きながらクロイスに許しを請うオリーブさんに、中身のガイアルはオロオロするだけだ。

 しかし、クロイスは違う。


 ガイアルの立場を利用し、無断で屋敷に侵入した罪と、怪しいものを食べさせようとした罪。

 本来は入れ替わりの被害を被ったという処罰も必要だけど……それは秘密事項なので、交換条件を突きつける。


「さて、これらのことを公にすると、どうなるかわかるか?」

「それだけは止めてくださいませ。これは私の独断ですの。お家は関係ないですわ」

「しかし、クロイス……の兄貴まで巻き込んだとなると、何もなしというわけにはいかない。俺も殺されていてもおかしくなかったからな」


 何かを混ぜられる。

 つまり、毒物が混ざっていてもボクらは気が付かなかったということになる。

 この屋敷、警備をもうちょっと強くしたほうが良いんじゃない?


「私にできることなら、何でもいたしますわ! なので、どうかお許しを!」

「フフ。今何でもするって言いましたね?」

「……貴方には言っていません」

「彼女の言葉を聞け。要求も同じだ」

「くっ……」


 いくらボクに反抗的でも、クロイスの言葉にまで逆らう気はないようだ。

 さて、あとは彼女が持っているかどうか。


「こちらからの要求はただ一つ。まだ霊草があればそれを全てこちらにいただきたいのです」

「貴方の勝手な意見、聞ける訳がないじゃない!」

「それはこちら全員の総意である、と言ったら?」

「ガイアル様まで? そ、そうであれば仕方ないのですが」


 彼女が行ったことは、それで全てなかったコトにする。

 最初はそんなことでいいの? と言ったような顔をしていたけど、オリーブさんもしばらくして納得した。

 どうやら彼女も、霊草を手に入れるためそれなりの苦労はしたみたいだ。


 やがて懐から、手のひらほどの大きさで小さく包まれたモノが出てきた。

 きちんと紙にも記載し、昨日のことは『取引』によって、今後話題にしないことを約束した。


「……これだけしか残っておりませんが、一体何に使用するのでしょうか? 噂もデタラメでしたようなので、価値があるとは思えませんが」

「貴方には知る必要のないことです」


 彼女は睨んできたけど、ボクと会話することは諦めたらしい。

 こちらの存在を無視するかのように、わざわざ身体の向きまでクロイスの方向へと向け直した。

 ……それ中身、ガイアルだけどね。


「貴方のおかげで警備の穴にも気づけましたが、二度目はないと思ってください。こちらは……準備はできている」

「わ、わかりました。用も済んだので失礼しますわ!」


 素のガイアルが出ていたようだけど、彼女を脅すには十分だったようだ。

 ボクも周囲に人の気配を感じたけど、それもすぐなくなった。


 そういや、ボクを送り届けてくれる時も『その手』のものが駐在しているから大丈夫とも言われたっけ。

 ……やめよう。これ以上詮索すると、ボクまで被害に遭いそうだ。




 彼女は帰宅した。

 机の上には、オリーブさんが置いていった霊草の残りが少し。

 これさえあれば、元に戻れる?


「血の繋がりについては知らなかったみたいだな」

「そりゃそうだよ。知っていたらこんな愚行に走らないし」

「これは一回分か? ハヤトと俺の量はあるのか?」

「……多分、一組分でしょうね。私が使用した量は、もう少し多めでした」


 料理担当のサラさんが言うのだ。間違いないだろう。


「チャンスは今日を逃すと一ヶ月後だし、後は父さんが予備をくれるかどうかだね」


 ちょうど、玄関のほうが慌ただしくなった頃だった。

 オリーブさんと入れ替わりに、家に戻っていたフローラさんでも帰ってきたのかな?


 そう優雅に構えていたのだけど、屋敷のほうがドタバタと騒がしい。


「何かあったのかな?」

「大方、ハヤトのところのメイドでも帰ってきたのだろうが……ここにいるサラ嬢ならともかく、あの方が慌てるとは珍しいな」

「殿下。そこを詳しくお願いします」


 そしてサラさんが問い詰めるよりも早く、一人のメイドによって扉は勢いよく開かれた。

 そこには予想通りフローラさんがいたけど、普段の優雅さとはかけ離れたような慌て具合だ。


「ど、どうしたの?」

「た、大変です! 旦那様が……霊草の保管庫が襲われたせいで、もう在庫がないと!」

「……え?」


 つまり、一組分しか確保できないってこと?

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