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「おい、お前は本当にハヤトか? 入れ替わっているのではないだろうな?」

 

 突然の事態に呆然としていると、開けっ放しだった扉の向こうに人がやってきた。


「おい兄貴。今イブとかいう女性が……どうしたんだ?」

「いや、俺にも何だかわからない」

「その頬、おい。ちゃんと冷やしておけよ!」


 自分の身体が怪我したからか、初めてガイアルが慌てている。

 テキパキとメイドさんに指示を出して、腫れもすぐ引くように対応するらしい。


「おう。ありがとうな」

「兄貴のためじゃない。俺の身体の為だ。全く、これじゃ人前には出せないな……来客は追い返すか」

「来客?」

「ああ。学園の女性が一人喚いているんだ。俺が出るわけにもいかないから兄貴に対応してもらいたかったが」


 そう言って、ボクも窓の外へ視線を移す。

 従者と揉めている女性はここからでもわかるけど……あれ、どこかで見たことのある女性のような。


 そのまま考え込んでいると、頬を抑えたままのクロイスが肩越しに覗き込んできた。


「あれはオリーブ嬢じゃないか?」

「オリーブさん? あっ……」


 そういや彼女、満月の夜を楽しみにとか言っていたっけ。

 決闘の場にはいなかったけど、今日になってやって来る。

 まさか……と、ある想定はしたけど、今の時点で確証は持てない。


「ごめん。彼女を招いてくれないかな。ボクも話を聞いてみたいんだ」

「彼女をか? 知り合いなら許可しても良いが……対応するのは兄貴だぞ?」


 ガイアルの身体のクロイスを見る。

 まだクロイスとは密着したままだったので、至近距離で目が合った。


「彼女に話を聞いてくれないかな?」

「何か考えがあるのか?」

「うん……もしかしたら、オリーブさんが霊草を持ってるかも」


 その言葉に、二人は正反対の行動をした。

 ガイアルはすぐに来客を招く準備を、クロイスは苦虫を噛み潰したような顔をする。


「ねえ。クロイスは戻りたくないの?」

「…………どうなんだろうな」


 それ以上、彼は何も言わなかった。




 来客の間に、ボクらは集合していた。

 オリーブさんを相手に、ボクとクロイス、ガイアルが同席している。

 最初は『何であなたが?』と怪訝そうなオリーブさんだったけど、クロイス姿のガイアルが来た途端、どうでもよくなったみたいだ。


「本日は突然の押しかけ、失礼しましたわ」

「ああ。事前にアポを取ってくれないと困るな」

「な、なぜクロイス様がそんなことを? 私はエニフ家のほうへ……」

「そ、そうだったな。いや、俺もコイツと予定があったのでな」


 対応にあたふたとするガイアルは、ボクからすると可愛く見える。

 思わずフフ、と笑ってしまったくらいだ。

 その反応を見て、オリーブさんの標的はボクに変わったらしい。


「あら。そういえばどうして貴方がこの場にいるのかしら? それに、昨晩は何があったのか知りたいところですわ」

「私も、どうして泊まった(・・・・)とわかったのか、知りたいですわ」


 普通なら、昨日は家に帰って、朝から来たと考えても良いだろう。

 今はお昼近く。

 昨日の晩に泊まったとの確証はないはずだ。


「そ、それは……たまたまですわ! やはり宿泊していらしたのですね」

「ええ。きちんと夕飯もいただいて、ね」

「そんなわけっ! いえ、そうなのですね……」


 何か考え込んでいるようだけど、オリーブさんは血の繋がりがある同士じゃないとダメって知らないのかな?

 ボクも姉さんと何故入れ替わらなかったのか気になるけど……まずはこの人を問い詰めないといけない。


「そういえば、昨日厨房に見慣れないメイドがいたとの報告がありましたね。まさか毒物でも混ぜられたかと思い、料理は作り直させましたが」

「そ、そうでしたの。その料理は処分してしまったのですか?」

「そりゃあ、クロイス様に食べさすわけには、いかないでしょ?」


 毒物を、という言葉は飲み込んで、彼女に問いかける。

 オリーブさんは口を開こうとして、しかし何か言いたいのを我慢するように口を閉ざした。


 ……もう、バレバレだし確定だよね。

 横にいたクロイスとガイアルに、事前に伝えておいた合図をする。

 あとは打ち合わせしていた通り、クロイスに演技をしてもらうだけだ。


「俺も毒物を混ぜられたとあっちゃ黙っていられないからな。目撃者を元に探しているが、既にこの屋敷にはいないらしい」

「クロイス様とガイアル様を暗殺しようとした罪で、指名手配でもしますか?」

「そ、それは……っ!」

「あら? 貴方は関係ありませんよ。ね? オリーブ様」


 彼女のところのメイドであろうことは確定しているけど、あえてボロを出すまで追い詰める。

 ボクの狙いは、その先にあるのだから。


「た、たしかにそうですわ。では、私はそろそろこれで……」

「ん? もう帰るのか。既に昼時だ。飯くらいはもてなそう」

「いいえ。私は帰宅して準備が」

「昨日の残り物だが、それでもよければ一緒にどうだ?」

「是非いただきますわ!」


 まるでペットのようだ。

 ここまで手のひらで踊ってくれると、姉さんじゃないけどボクも楽しくなってきちゃった。

 フフフ、フフフフフ……と笑みを浮かべていると、心配そうな顔をしたガイアル、クロイスに覗かれた。


「おい、お前は本当にハヤトか? 入れ替わっているのではないだろうな?」

「え? そうだったら良かったけど、ボクはボクだよ」

「なら良いが……」


 二人して意味深な顔を向けてくるけど、どうかしたのかな?

 ま、今はオリーブさんだ。

 彼女は運ばれてきた料理を見て、どんな反応を見せてくれるのかな。


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