「え? クロイス。急にどうしたの?」
他の二人は自然と受け入れているようだ。
「なんでイブさんもメイド服なの?」
「だって私だけ仲間はずれは嫌じゃない」
どうやら本当にそれだけらしく、自然と溶け込んでいる。
サイズは? とも疑問に思ったけど、ここのメイドさんにでも頼んだのだろうな。
「……どうでしたか? 私の料理、きちんと食べてもらえました?」
「どれかわからなかったけど、姉さんが食べたものは食べるようにしたよ」
「そうですね。スープ、それも山菜を使ったスープに混ぜました」
それってあのキノコの?
隣を見ると、イブさんも驚いている。
……あの行動は、予想しての行動じゃなかったんだね。
「ほんと? よしっ! イブさんのおかげだよ、ありがとう!」
「そ、そうね。おめでとう」
彼女の腕をブンブンと振るも、イブさんは困惑気味だ。
イブさんは反対だったかもしれないけど、ボクにとっては大勝利だね。
「その反応。見事に当たりを引いたみたいですね」
「うん。けどよく全部に混ぜることができたね? 量がなかったんじゃない?」
「その事ですが……」
言い淀んだサラさんの話では、昼にいなかったメイドが出入りしていたとのこと。
料理をするわけでもなく、かといって邪魔するわけでもなく。
そのメイドはサポートに徹していたので気にしなかったのだけど、今考えると調味料などを足されていた可能性もあるとか。
「それってガイアルのメイドじゃなくて?」
「昼は総員で対応していたのとことでしたので、間違いありません。厨房では、誰でも手伝ってくれるなら良いとのことでしたので」
「それかなり危ないよね」
毒とか盛られたらどうするつもりだったんだろ?
仮にも王族のクロイスもいたのに、危ないなー。
「なので、油断はなさらぬよう……明日は何が起こるかわかりませんもの」
「フフン。これでようやく、ボクが戻れるんだね」
「いや、わからないって言われたでしょ」
そうは言われても、既に条件は満たしている。
これで姉さんの驚く顔が見られると思うと、既にニマニマが止まらないや。
「じゃああとは寝るだけだね! おやすみ!」
「そんな興奮して、無事に寝られるのでしょうか?」
「いざとなったら私が意識を刈り取るわ」
「……そのときはお願いしますね」
ボクが着替えを探している横で物騒な会話が聞こえたけど、冗談だよね?
そう三人に問いかけると、彼女たちはクスクスと笑うだけだった。
……怖い。
二人を部屋に帰し、イブさんと二人っきりになる。
既に消灯も済ませてあるので後は寝るだけだ。
「……ねえ」
「なあに? イブさん」
「貴方、元に戻ったらどうするのかしら?」
「どうするって、そりゃあ」
「今の関係、どうなるの?」
ボクが答えるよりも早く、イブさんの追加がくる。
どうなるも何も、ボクの周りは。
「どうなるんだろうね?」
「何よソレ」
「だって、わかんないもん」
ボクが男に戻ったら、クロイスは親友のままでいてくれるのだろうか?
イブさんは同じような話し相手に? それとも恋人に?
いまの関係のままでは、いられないんだろうな……でも、これ以上発展することも考えられない。
第一、姉さんはどうなるのだろう?
「いろいろ思いつくけど、なってみないとわかんないね」
「……ま、そうね。本当に貴方が戻れるかも疑わしいもの」
「もうっ、すぐそうやって言うんだから。もう寝よ?」
「ええ。おやすみ」
「おやすみなさい」
それ以降会話はなかったけど、ボクはしばらく眠れない時間を過ごしていた。
やがてイブさんの寝息が聞こえた頃、ボクもいつしか眠ってしまったらしい。
目が覚めた。
すぐに手のひらを確認する。
「……戻って、ない」
その手は、相変わらず小さくて頼りなさそうな……姉さんの、手だった。
横を見ると、既にイブさんは起きていたようだ。
「その反応、ハヤトなの?」
「うん……どうして。条件は揃っていたはずなのに」
いくら考えても、これは現実だ。
鏡を見ても、姉さんが同じように動く姿が映し出されるのみ。
つまり。
「失敗、した?」
「どうやらそのようね」
昨日使い切ったと言われたので、霊草は既に品切れだろう。
もう一回手に入れられるとは……簡単には考えにくい。
「ということは……っ!」
「待って、落ち着きなさい。ね?」
今にも泣き出しそうだったけど、イブさんが必死に肩を叩いて止めてくれる。
しかし、込み上げる涙は止められなかった。
「うぅ……うぅ!!」
「よしよし。ね、大丈夫だから」
そのまま彼女にしがみつき、ボクはサラさんやフローラさんが着たのにも気づかないまま泣き続けていた。
そうして落ち着くこと数十分。
見苦しい姿を見せたと三人に謝り、目元を化粧で隠してもらって食卓へといく。
既に食事は終わっていたらしいけど、どうやらボクらの分はキープしてくれたみたいだ。
そして、食卓にはガイアルとクロイスも座っていた。
「ごめん。遅くなって」
「いや、こちらでも問題が発生したからな。ちょうどよかった」
そういうガイアルは、何故か昨日とは違う席に座っている。
……あれ、そこって昨日クロイスが座っていた席だけど。
「そうだ。お前の見解を聞きたい……お前らが何もないってことは、やはりお前の仕業だよな?」
「え? クロイス。急にどうしたの?」
ツカツカとこちらへ歩み寄り、ボクの目の前へ。
そんな迫力に、いつの間にか壁を背にしてしまっていた。
……助けを求めようとしたけど、一緒に来た三人は既に席へ着いていた。
どうやらこちらのことは我関せずといった感じらしい。
「良いから、言え」
「ちょ、近いって。それに何をっ!」
逃げ場はない。
こんなにクロイスにせめられたことなんて、あの時以来だろうか。
にしても、彼らしくない。まるで別人のような……・
「どうして俺と兄貴が入れ替わっているんだ!」
「え?」
その言葉に、席に座ったままのガイアルに視線が集中する。
彼……クロイスは困ったように、肩を竦めただけだった。




