表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/110

「お前ではありません。セシリア……それが、私の名前です」

 

 ボクの覚悟は決まった。

 舞台に向けられる視線は、本当に決闘をするのかという疑惑や、ガイアルの勇姿を見たい女子、そして……ボクに対する悪意の三つに別れている気がする。


 姉さんの悪行は噂に聞いていたけど、まさか視線で感じるまでとはね。

 ……こりゃ、悪評を払うためにも、ますます負けられないな。


「お嬢さん。俺様も鬼ではない。ハンデとして、この場から一歩も動かずにお相手しよう」

「要りません」


 キッパリと断る。

 そんなの、決闘に対する冒涜だ。


「ハハッ! どうやら実力差も分からぬようだな。よろしい、一撃で……」

「その代わり」

「ん?」

「私は制服ですのよ? 気づきませんの?」


 アピールするように、ドレスの裾を少しだけ摘み上げる。

 自分の身体じゃないとしても、生足を晒すような真似は恥ずかしい。

 けど、これは必要なことだ。


「ほう、いいだろう。なら俺様も制服で相手だ」


 むしろ何故そうしなかったのかと問いたい。

 渡されたのは木刀だ。

 防具無しで一撃を受ければ、鍛えていない姉さんの身体はすぐに倒れてしまうだろう。

 それなのに男のガイアルだけ防具? 冗談じゃない。


 お互いに対峙し、再度条件を確認する。


「俺様が勝てば、お前は第三夫人になれ。あと、あの女も貰う」

「セシリアです」

「ん?」

「お前ではありません。セシリア……それが、私の名前です」

「失礼した。セシリア嬢は第三夫人にする」


 立会人に先生方もいるので、こちらから婚約破棄はできないだろう。


「なら、私が勝利した暁には……」

「そのような条件、設定するだけ無駄だろう?」


 核心めいた発言にイラッとしたけど、それを利用させてもらう。


「……ええ。なら、貴方を負かせた後に宣言しますわ」


 その言葉に会場が沸くも、本当にボクが勝つと思っている人は何割いるのだろうか。

 大丈夫。

 いつものようにやればできる。


「では、勝利条件を提示する! 両者ともに胴、手、足のいずれかに三本入れられた時点で敗北とする! 扱うのは木刀で……本当に良いのか?」

「勿論構いません」

「フッ、俺様が手加減しないとでも?」

「両者納得しているなら問題はない……くれぐれも、女性を相手にしていることを忘れないようにな」

「その細腕に三回触れてやるよ」

「……気持ち悪い」

「なんだと?」


 しまった。

 つい男に対する嫌悪感が出てしまった。


 しかし、いい感じに彼もやる気になってくれたらしい。

 相手をやる気にさせなきゃ、勝ったという実感もないからちょうどいいや。


 お互いに木刀を構える。

 ……腕に挟まれた胸が違和感を主張するけど、体型から言うとボクと姉さんはそこまで変わらない。

 逆に言えば、ボクの身体が男らしい体型でもなかったと言えるけど、重心の違いやリーチの違いを気にしなくて良いなら安心だ。


 つまり、目の前のコイツを倒すのには十分。


 決闘に開始の合図はない。

 お互いに構えて、どちらが動くか。

 動いたときが、勝負の開始!


「フッ、貴族の女性にしてはサマになっているな」

「ええ。剣技も淑女の嗜みですわ」


 講堂に集まった女性から否定の視線を感じるけど、ボクは目の前から視線を逸らすことは出来ない。


「先手は譲ろう。何、初手くらい譲らないと盛り上がら……ッ!」


 カン! カン!


 まずは二撃。

 不意打ちで腕と胴を狙ったけど、二回とも防がれる。

 懐に潜り込んだけど浅かったかな。


「……チッ、喰らえ!」

「ハッ!」


 彼は宣言どおりに腕を狙ってくるけど、予め狙いがわかっている攻撃ほど避けるのが簡単なものはない。

 地獄の二週間で仕込まれた華麗なステップを踏んで躱す。


「……ほう、どうやら舐めていたのはこちらのようだ」

「最初に入らなかったのは痛いですわ」


 時間差でフワリとスカートの裾が下がる。これで木刀を持っていなければ裾を摘んで挨拶でもするのだけど。


「俺様は今から……野獣になるぞ!」

「え! それって、キャ!」


 衝撃の発言から一撃。

 こちらの動揺をついてか、腕に一本入れられた。

 それなりに力の籠もった一撃だったようで、受けた左腕はジンジンと痺れ、少し力を入れただけで痛みが襲ってくる。

 あーこれ、後で腫れるやつだ。


「悪いとは思うが、勝敗は最初から決まっている。今なら降参を……」

「戯言ですわ!」


 勝負の最中に思考を乱すのが悪い。

 ボクは一瞬の隙きに胴を狙う……と見せかけて、彼の足に飛び込み振り落とす。

 彼は胴の横に構えていたせいで対応できなかったようだ。

 まずは一本。

 飛び込んだおかげで、彼の木刀はボクの頭上を通過した。


 すぐさま転がり、姿勢を崩している彼の足元を狙ってもう一撃!


「ぐっ!」

「これで二本ですわ!」


 ボクがここまでやるとは思っていなかったのだろう。

 さっき攻撃を受けた左腕は痛むけど、あくまで左腕は添えるだけだ。

 右腕を基準に、彼の足だけに振り下ろすなら問題はない!


「うぉぉぉおおお!!」

「えっ、あっ、うう!」


 その連撃、まさに野獣のごとく。

 さらに我を忘れたような突進に、思わず押し倒れそうになる。

 しかし、それは地獄の二週間の成果。以前のボクなら押し倒されていたけど、今は男性をあしらうために仕込まれた動きで躱すことができる。

 これでダンスパーティもバッチリだね!


 すかさずガラ空きの背中……胴に入れようとして、身体が一瞬硬直した。

 ……ダメだ、反撃される!


 サイドステップにて彼の進行方向から外れ、その動作を観察。

 ……うん。ボクは間違っていなかった。


「ほう。カウンターを見抜くか」

「嫌ですわ。野蛮なお方」

「今の俺様は獰猛な野獣だ。一気に決めさせてもらうぞ!」


 猪突猛進とはこのことだろうか。

 彼は一直線に突き進んでくる。

 狙いは……腕と胴の同時なぎ払いか!


「……ふぅ」


 一瞬だけ目を閉じる。

 一振りでくるなら、こちらも一撃で決める。

 彼の位置、そして足運び、それを踏まえて反撃するタイミングは……今!


「ハァ!!」

「何っ!」


 確かにボクの一撃が決まった。

 しかし、彼の勢い……振り下ろした動作は止まらない。


「あぐっ……きゅぅぅ」


 再度左腕に入れられた痛みと、思いっきり腹に入れられた打撃は、ボクが意識を手放すのに十分すぎるほどの痛みだった。

 捨て身の反撃だったけど、これで三本。

 先に入れた、ボクの勝ち……だよね?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ