「ちょ! 姉さん。大体、男同士でそんなこと」
休日更新が一本片付いたので、新作開始します。
家族会議が開かれた。
議題は双子の姉、セシリアについてだ。
「ここまでお膳立てしてやったのに、お前はまだ第二王子との仲は進行していないのか」
「お言葉ですが、私も日々精進しております。最近は二人きりで雑談する機会も増えましたので、家にお招きするのは秒読み段階ですわ」
「何をいうか。ハヤトについては既に第二王子と遊びにいく仲だ。全く……お前が居なければ、ハヤトも第二王子を家に招いたというのに」
そこで僕を出さないでほしい。
ただでさえ機嫌の悪い姉さんが、キッ! とこちらを睨み、更に機嫌を悪くした。
「そこまで言うなら、ハヤトがクロイス様を落として見ればいいのですわ!」
「ちょ! 姉さん。大体、男同士でそんなこと」
いきなりの発言に慌てたが、それを上回る爆弾発言も待っていた。
「妙案だな」
「「え?」」
その言葉に、僕だけではなく姉さんも固まる。
「んんっ、冗談だ。明日は最終日になる。もうすぐ連休に入るからと浮かれずに、早めに寝るのだぞ」
明日で高等部に入学して一年目を終える。
今回の家族会議は、一年経っても未だ第二王子との進展が見えない姉さんに、父が痺れを切らしたにすぎない。
「だとしても、なぁ……」
自室に戻り、改めて気になるのは父さんの発言だ。
妙案だな、と言ったからには何か企んでいるに決まっている。
しかし、第二王子が父さんの企みに乗るかは、別の話だ。
気が重くなりながらも、僕はいつの間にか眠りへとついていた。
昨日のことを親友に相談した。
「ということがあったんだよ。僕は何が起こるのか不安で仕方ないや」
「ハハッ! ハヤトは気にしすぎなんだよ。第一、俺がハヤトに惚れなければいいだけだろ? 俺はノーマルだからな」
「でもクロイス、うちの姉さんも何か仕掛けてくるかもよ?」
「それは……遠慮したいな。あの方はグイグイ来られるから苦……いや、君の姉を悪く言うわけではないんだ」
「いいよ、僕もわかっているから」
家族会議の内容は漏らすことではない。
しかし、それに親友が巻き込まれるとなれば話は別だ。
第二王子クロイス。
姉さんが狙っている彼は、何故か僕と仲が良い。
何回もちょっかいを出す姉さんを僕が止めるうちに、いつのまにか友好関係を結べたみたいだ。
そして家族の中で僕だけは、姉さんの恋心が決して届かないことも知っている。
「……あ」
「どうしたのクロイス? あっ、そうか。じゃあ僕はこれで……」
「ま、待ってくれ。傍にいてくれ」
「全くもう。わかったよ」
クロイスが惹かれているのは、目の前を通りかかった少女だからだ。
庶民の身でありながら、数席しか無い推薦枠を勝ち取った彼女。
しかし決して主張せず、周りの貴族令嬢に対しても強く出ることがない。
そのせいで、よく姉さんや他の女性にいびられているのだけど、彼女はそれを気にしたような素振りも見せずに過ごしている。
「……イブさん。今日も素朴で美しい」
「姉さんとは正反対だね。勝てるわけないや」
もちろん、その事実を家族に教える気はない。
あくまで僕は親友の恋を応援したいのだ。
その時までは、そう思っていた。
今日の夕飯は、何故か豪勢だった。
「お前たちもこれで一年を無事に過ごせた。来年からも精進してくれ」
「はい。ありがとうございますお父様」
「えっと、ありがとうございます?」
思い出せば、僕たちが高等部に昇級した際もパーティを開いてくれたので、もしかしたら毎年やるのかもしれない。
しかし、出された料理を父さんは一向に食べようとしない。
「あの、お父様は食べないのですか?」
「生憎とこれからパーティに出席するのでな。お前たちだけで食べなさい」
そうして、見たこともないような葉っぱや色とりどりの山菜を勧められる。
お祝いの料理にしては地味かな? と思いつつも、さすがに失礼へとあたるので全て頂く。
「私はもう大丈夫ですわ」
「僕ももう食べられません」
「そうかそうか。あとは二人共ゆっくりと休むと良い」
そのまま父さんはパーティへと向かっていった。
昨日の疑惑は考えすぎだろうか?
最後に満腹感と、多少の腹痛に襲われながらも僕は眠りについた。
翌朝。
いつもの時間に目が覚める。
「……はれぇ?」
まず感じたのは、違和感だった。
僕のベッドはこんなに柔らかくない。
手を叩きつけてその感触を楽しむ。
「……んんぅ?」
次に上半身を起こしてみると、顔に長い髪が張り付いた。
鬱陶しいので頭を回転させる。
と同時に、僕の胸が揺れた気がした。
「……胸?」
おかしい。
そんなはずはない。
そう思い胸に手を当ててみると、確かに膨らみが存在していた。
「え?」
ようやく意識が覚醒する。
真下を見る。自分の手が盛り上がった胸に置かれている。
同時に、頭から髪が垂れ下がる。
「え……え?」
髪を手で掬ってみると、何やら見覚えのある金髪だった。
今いる部屋も、どこかで見たことのあるような部屋だ。
そして、姿見が置いてあるのを発見した。
「これって……もしかして、もしかして!」
想像はつく。しかし、本能がそれを否定している。
だが、現実は確かめなければならない。
僕は慣れない身体で少しずつ、少しずつ姿見へと近づき、その全身を映し出した。
「僕、姉さんになってるー!」
そこにいたのは、紛うことなき双子の姉、セシリア本人だった。
あさきゆめみしほにゃららに。終わりましたが和風は高等技術、だと