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勇者もどきの異世界探検記  作者: ぽんこつ
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第六話

 魔物の襲撃から避難していた村人たちが全員集会場からいなくなる頃には、既に朝日が昇りきっていた。

 あの後、集会場で魔物を全て俺が退治したことをミゲルさんに聞いた村人たちは、皆俺に感謝の言葉をかけてきた。

 しかし、死傷者が出てしまった以上、俺には感謝される資格なんてないのではないだろうか。

 件の魔物との戦闘で死亡したガノさんという方の遺体は、夜明け前にすでに墓地に埋葬されている。

 怪我を負った人たちのうち一人(ギルさんというらしい)は魔物に吹き飛ばされ強く頭を打ってしまったらしく、いまだ意識が戻っていないが、幸い命に別状はなかったらしい。

 じきに目を覚ますそうだ。

 もう一人(レーンさんというらしい)は足を噛まれたらしいのだが、既に支えられながらだが歩いていた。

 畑では、帰る前に作物に水やりをしているらしい人もちらほらと見える。


「では、我々も休みましょうか。

 ハヤト殿、ミナ殿、トリナ殿。

 あなた方もお疲れでしょう。

 私の家で、また休んでいってくだされ」

「いえ、でも…」


 正直、休む気になれない。

 休んだとしても、こんな気分では心も体も休まらないと思う。


「あの、私もそうした方がいいと思います。

 ハヤトさん、あまり顔色が良くないですよ?」

「いやこれは……。

 ……助けられたかもしれない人がいるのに助けられないでいて、休む資格なんて無いんじゃないかな…」

「ご主人さま…」


 顔色が悪いのは多分、罪悪感からだ。

 俺が寝る前に瘴気レーダーを使っていれば、魔物が近づいていることがわかっただろうし、もし最初から魔物と戦っていれば、死傷者を出さずに済んだかもしれない。


「……そんなことを言ってしまっては、ワシらにも休む資格なんてありませんわい。

 年寄りも多く、遠くまで逃げることができないとは言え、男共が戦っている間、ただ建物の中で縮こまっていることしかできませんでしたからのぅ」

「……」

「そんな中、あなたはこの村を十分に守ってくださったのですよ。

 ガノが死んだことを気にするなとは申しません。

 ただ、あまり気にしすぎることもないのではないですかの?」

「……それでも、ガノさんを含めて全員助けることができた可能性もあるじゃないですか」

「……差し出がましいようですがの、あなたは自分の力を過大評価しておられませんかの?」

「そ、そんなことは…」

「それにあなたのその考えは、村を守るために死んでいったガノに対する侮辱にもなり得るのではないですかな?」

「……そう、ですね」


 たしかに、魔物を早期に探知していたとしても村人が素直に信じてくれたかはわからないし、最初に戦ったとしても撃ち漏らして抜けられたかもしれない。

 それに全員助けられたかも、というのは、ガノさんの死が無意味だった、と言っているようなものだ。


「あなたはあの時点での最善と全力を尽くしたのです。

 そのおかげで我々は助かったのですよ。

 確かに、ガノが犠牲になってしまったのは本当に残念ですわい。

 しかし、もっと助けることのできた人たちのことを見ても良いのではありませんかの?」

「…そうですね」

「そうです。

 ガノの死の責任は、あなたにはありませんわい。

 そもそも休むことに資格も何も関係ないと思いますしの。

 さて、改めて私の家で休みましょう。

 実際、ハヤト殿の顔色があまりよくありませんしの」

「…わかりました。

 お言葉に甘えさせてもらいます」

「考えが後ろ向きになっちゃうのも、きっと疲れてるからですよ。

 早く休みましょう!」

「…そうかもな」


 たしかに、トリナの言う通りかもしれない。

 とりあえず、休んでみよう。


 ========


「本当に、お世話になりました」

「いやいや、お互い様ですからの」


 今俺たちがいるのは、森の反対側にある門だ。

 あれから二日後の今日、これから俺たちは村を離れる。

 魔物が襲撃してきた翌日(つまり昨日)は、夜明け頃に寝たためか起きたのが皆遅かったため、出発を見送った。

 ちなみに、俺は眠れないかと思っていたが、疲れがたまっていたからか夢も見ずに眠ることができた。

 昨日はその空いた時間を利用してけが人のお見舞いに行った。

 意識を失っていたギルさんはすでに目を覚ましており、魔物を退治したことについてお礼を言われた。

 レーンさんは「足のケガなど何程のことではない」と明るく笑い飛ばしていた。

 まぁ、その足で立とうとしたらかなり痛がっていたし、奥さんにも怒られていたが。

 それと、例のクレーターもその日のうちに処理しておいた。

 土魔法でなんとか修復できた。


「ミナ殿も、無事故郷に帰ることができるよう、祈っております」

「ありがとうございます。

 あの、お世話になりました」

「お世話になりました!」

「では、俺たちはそろそろ…」

「お待ちくだされハヤト殿。

 こちらを」


 そう言ってミゲルさんは懐から袋を取り出す。


「それは?」

「村の皆から集めたお金です。

 村の危機を救っていただいたのですから。

 何もしないわけにはいきますまいて」

「え、いや、俺はお金のためにやったわけではないですし、さんざん泊めていただいてますし、そんな。

 それにガノさんのことも…」

「前にも言いましたが、ガノのことはあなたの責任ではありませんわい。

 それに、こちらとしても村に2,3日泊めただけ、というのは受けた恩に少々見合っておりませんのでな。

 どうか、受け取ってくだされ」

「……わかりました。

 大切に使わせていただきます」


 ミゲルさんから袋を受け取ると、硬貨のジャラッとした感覚が手のひらに伝わってくる。


「ありがとうございます。ミゲルさん、お元気で」

「あの、ありがとうございます。

 本当に、お世話になりました」

「お元気でー!」


 それぞれ挨拶をしつつ、歩き出す。


「良い旅を!」


 ミゲルさんの声に会釈しつつ俺たちは村から離れた。


 目指すはここから西、カラレだ。

前回の宣言通り(?)、短めです。


ようやっと森から離れられる……

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