第二話
3/8追記
今回までの投稿分の「・・・」を「…」に修正、今回の話の言語に関する設定を修正、その他軽微な部分を修正しました。
さて、俺は魔法が使えるようになった。
最初に覚えた『ファイヤーボール(仮称)』でコツをつかんだ俺はこれと言って苦労することもなくほかの属性の基本的な魔法を習得していった。
水属性は水の球を作り出し、風属性は前方に風を起こし、土属性は足元の土からこぶし大の石を作りだす。
とりあえずこんな感じのことができるようになった。
あと、それぞれを前方に打ち出せるようになった。
これで攻撃に使える。
それから光属性の魔法は某SF映画のように指先に光を灯す、それだけだ。
光源にはなるが、特に攻撃には使えない。
まあ、夜なんかには特に重宝しそうな魔法である。
これらの魔法は、全てトリナが持っていたあのヘンなのの知識から得たものだ。
ちなみにそのヘンなのの知識によると、魔法の階級は使用される魔力量に応じて下級、中級、上級、最上級、超級に分かれており、更に超級以外それぞれが低位、中位、高位に分けられる。
俺が習得した魔法は全て下級の低位。
つまりは基礎の基礎、ということだ。
残念ながら、ヘンなのの知識にはこれら以外の魔法については特に何もなかった。
あと、無属性の魔法についても特に言及されていなかった。
どうせならもっときちんと書いておいてほしいものである。
それともう一つ。
この世界は『コモス・エルデ』と呼ばれているらしい。
意味は『地の世界』だそうだ。
情報源はもちろん、ヘンなのの知識だ。
「さて、次はどうしようか」
あのヘンなのは別れ際に『自殺したら輪廻転生から外す』とか言っていた。
しかし、言われずともそんな苦しそうなことはしたくはないし、する気もない。
だが、だからと言って、あのヘンなのの言いなりになるのはなんとも釈然としないものがある。
そもそも俺がこんなところに送られたのは、言ってしまえばあいつの尻拭いのためだ。
あんな奴のために動くのは正直癪に障る。
うーん、なんだかまただんだん腹が立ってきた。
ただ、いつまでもこんな森の中にいるわけにもいくまい。
よし。
「とりあえずこの森を抜けよう。
トリナ、いいよな?」
「はい。
まずは人里とかに行かないと何もできないですからね」
同感だ。
というわけでこの森を抜けることになった。
~2時間後~
「ご主人さまぁ、ここ、いつになったら抜けられるんですかぁ?」
「いや、俺に聞かれても…」
俺たちは今、絶賛迷子中である。
とりあえず森を抜けようとしたものの、そもそもここがどこなのかもわからないため、森の中をさまよう羽目になった。
ったく、あのヘンなの、ここがどこかも教えねえでほっぽりだすだけかよあんにゃろう。
とか思っても仕方がないのでひたすら歩き続ける。
ただ歩き続けるのも暇だったので、途中から魔法の訓練もおこなっていた。
とりあえず純粋に威力の在りそうな火属性の魔法をアレンジして、手のひらの前で爆発を起こす魔法(衝撃や熱は前のみに飛ぶようにしている)と、土魔法をアレンジして離れた場所に下から石の壁を作り出す魔法、岩の棘を出現させる魔法なんかを編み出した。
やはり中学の思い出は、いやだめだ、やめよう。
ちなみに、それらは大きさが大きいためか、消費魔力も多めだ。
「ところで、ちょっと息上がってきてませんか?
そろそろどこかで休憩とか」
「いや、誰のせいだと、いやお前は悪くはないな。すまん」
森から出られるか不安で思わずトリナに当たってしまった。
現在、トリナは俺の左肩に座っている。
身長が40センチ程度しかないため、歩くスピードが俺に比べて極端に遅い。
なので、現在は俺の左肩に乗ってもらっている。
それは、俺が言い出したことだ。
それに、歩きながら魔法の練習もしたし、そもそも森を出ようと言い出したのは俺だ。
迷子になってるのも体力を消耗してるのも自分の責任。
トリナに当たるのは筋違いも甚だしい。
「しかし、ホントにどこかで休憩時間を取りたいな」
服は元の世界で最後に着ていた服そのままだった。
あっちではまだまだ寒い季節だったので、厚手の服に上着を羽織っていた。
今のここの気温だと、この格好は上着を脱いでも少々暑すぎる。
そのせいで体力を余計に消耗しているのだろう。
と、そんなことを考えながら歩いていると、何やら開けた場所に出た。
そこにはきれいな湖があり、そのせいかどことなく涼しい感じがする。
湖の近くには草むらもある。
何らかの理由で木が無くなったところが草むらになっているのだろう。
なんとも『ゆっくりしていってね!!』って感じのところだ。
…まぁ、言葉の使い方は間違っているような気がするが。
ともかく、休憩にはもってこいの場所だ。
「よし、ちょっとここで休憩しようか!」
「わーい休けーい!」
これ幸いと俺たちは休憩することにした。
トリナを下ろし湖に近づいてみると、とてもきれいな水であることがわかる。
こういう所だと普通、藻とかそういうのが浮いてたり濁ってたりするイメージがあるが、この湖はとても澄んでいる。
まあ、しょせん生水なので飲用には適さないだろうが。
俺は靴と靴下を脱ぎ、裾を上げると、湖の中へ入っていった。
「あ゛~~~」
2時間歩きっぱなしだったせいで火照った足に、水の冷たさが心地よい。
こんな声が出てしまうのも仕方あるまい。
十分足の火照りをとった後、湖から上がる。
湖のほとりの草むらに座ると、ポケットに入れていたハンカチである程度水気を取ると、風魔法で風を送り足を乾かす。
湿ってると靴下履きにくいもんね。
しかしこれ、温風を出すことはできないだろうか。
いくら火照っていたとはいえ、少々冷たい。
まぁ、それは後でいいか。
再度靴などを履いて、草むらに寝転ぶ。
あぁ、こんな気持ちのいいところで寝転ぶのは初めてかもしれない。
というか草むらに寝転んだこと自体初めてのことだ。
元の世界のアスファルトに覆われた地面ではこうはいくまい。
草や木がざわざわと揺れる音もする。
ちょうど太陽が上にきており、森の中に日差しが注ぎ込んでいた。
ぽかぽかして気持ちがいい。
隣を見ると、トリナも隣に来て寝ころんでいる。
あぁ、寝そう…ん?
静かな状況だったから聞き取れたが、どこかから『ドドドッドドドッ』という足音が聞こえてくる。
音の感じ的にかなり重そうな足音だ。
しかもだんだん大きくなって、これは、近づいてきているのか?
「ご、ご主人さま?」
トリナも気づいたのか、不安げな顔でこちらを見ている。
立ち上がるとトリナを後ろに隠すようにし、警戒を強める。
よく考えてみたら今までよく野生の獣に襲われなかったものだ。
少々油断をしすぎていたかもしれない。
そんなことを考えている間にも、足音は近づいてきている。
そして、
がさがさがさっ、ざっ!
茂みの奥から、その音の主が姿を現わす。
……って
「……えぇぇ」
女の子だった。
大体12歳くらいで、髪の毛が栗色の女の子だった。
なんというか、一瞬毒気を抜かれかけた。
と思ったのもつかの間。
なにやらその子は必至な様子で何かから逃げるように走っている。
あまりにも必死なようで進行方向にいる俺たちにも気が付いていないようだ。
それと、あの足音は女の子のものではないようで、茂みの向こうからまだ足音が聞こえてきている。
そもそもあの女の子があんな重そうな足音を出せるわけがない。
と、女の子を追いかけて後ろから大きなイノシシが出てきた。
あの足音の主はこいつか!
女の子はこいつに追いかけられていたようだ。
女の子の方はかなり体力を消耗しているらしく、もうすぐすぐ追いつかれてしまいそうだ。
俺は先ほど練習していた魔法でイノシシを倒すことにする。
目の前で困っている女の子を見捨てたとあっては寝覚めが悪い。
勝てるかわからないがやれるだけやってみよう。
……それにイノシシこっちに来てるからどっちにしろやり合うだろうし。
「っ!」
俺はさっき練習していた石の壁をイノシシの目の前に作り出してみた。
地面に手を当てて魔力を流し込む感じだ。
先ほど毒気を抜かれたのが幸いしてか冷静に対処できている。
それにこういう場合を想定して中学の時に、っていやだからもういいってば。
件のイノシシが勢いを殺しきれずにそのまま壁に激突する。
しかし厚みが足りなかったのか、『ドカーン』という音とともに壁は粉々に砕け散ってしまった。
「まじかよ……」
思わずそうつぶやいてしまっても仕方ないだろう。
普通石の壁なんて壊れるとは思うまい。
「っ!?」
突然の大きな音に女の子は走りつつも、後ろを振り返る。
が、ちょうど俺の前で転びかける。
「きゃ!」
「おっと」
とっさに受け止める。
「大丈夫か?」
「……」
女の子は突然のことに理解が追い付いていないのかやや呆然としているようだ。
俺は女の子を後ろへ下がらせイノシシを見やる。
イノシシはノーダメージとはいかなかったようで、壁の残骸の中から立ち上がろうともがいていた。
俺はソイツが立ち上がる前に例の岩の棘をイノシシの足元に作る。
ずしゃぁっ、と派手な音がして、イノシシの体は俺の出した岩に串刺しにされた。
「……」
また動き出しはしないかと少しの間警戒してみる。
しかし、最初の内に痙攣していただけで、すぐに動かなくなってしまった。
「ふぅぅぅぅぅ」
いつの間にやら止めていた息を吐き出す。
女の子は無事か、と振り返って見てみるが、やはり呆然とした様子でイノシシを見つめている。
よかった、とりあえずは無事のようだ。
それがわかると同時に体から一気に力が抜ける。
なんだかんだ言ってかなり緊張していたようだ。
足に力が入らなくなり、俺はしゃがみ込んだ。
そうすると女の子と大体同じ目線の高さになった。
「えっと」
女の子に声をかけようとする。
しかし彼女は緊張の糸が緩んだのか、こちらを見るとすぐに気絶してしまった。
……なんだか俺の顔のせいで気絶したみたいでフクザツな気分になるな…
「あ、ご主人さま、起きたみたいです」
「あ、起きた?」
たき火の近くに寝かせていた女の子が起きた。
俺はあの後、トリナに木の枝なんかをを集めさせて、湖のほとりで火を起こしていた。
ちなみに火種は火の魔法を使った。
こすって火種作るのもだるいしね。
で、件のイノシシはトリナが枝を集めている間に、俺が土魔法で作り出した石製のナイフで適当に解体した。
ナイフとはとはいっても、肉を引きちぎる補助程度にしか使えない代物だったが。
イノシシの解体は、当たり前だが初めてだった。
最初はその光景と匂い、手に伝わる感触に少々吐き気を催していたが、すぐに慣れた。
で、今たき火で焼いているところだ。
たき火の仕方や肉の解体の仕方は例のごとく、あの黒い歴史による知識だ。
ほんと、思い出したくないんだけどな、うぅ…
「……」
状況がよく分かっていないようで、起き上がってあたりを見回している。
改めてこの少女を観察してみると、やはり見た目は12歳程度であり、俺の胸あたりまでしか身長がなかった。
正直これでよくあのイノシシから逃げていられたものだと思う。
が、一つ人間と大きな違いがある。
この少女には獣の耳としっぽが備わっていた。
見たところ犬のものに似ているような気がする。
ここらに何か逃げ続けられた理由があるのだろうか?
また、白い布を適当に服のようににしただけのような服装をしており、しかもイノシシから逃げる時になったのだろうが、ところどころ切れたりしている。
はっきり言ってかなりみすぼらしい。
きちんとしたカッコをすればかなりかわいくなるのではないだろうか。
「あの、あなたは?
それに、ここは…?」
「ああ、俺は颯人。
ここがどこかは、ぶっちゃけ俺も聞きたい。
ところで、なんかイノシシに追いかけられてたみたいだけど、大丈夫?
けがはない?」
「あ、そうだ!
私イノシシに追いかけられて…」
また女の子がきょろきょろし始める。
「大丈夫だよ。
イノシシは退治して今はこうだから」
そういって俺の手元にある香ばしい香りを放つ肉を指す。
そろそろ食べ頃か。
女の子がその肉を見た瞬間
ぐぐうぅぅぅ
いわゆる腹の虫が盛大な鳴き声を上げる。
「あっ…」
「…これ、食うか?」
「え、あの、でも」
ぐぅぅぅ
「……あ、ありがとうございます」
彼女は顔を赤らめながら受け取った。
「はっ、はふっ、むぐむぐ、ごくっ。はむっ」
やはり相当おなかが空いていたのか、とてもいい食べっぷりだ。
まあ、あんなイノシシに追いかけられて全力疾走してたら腹も減るわな。
…ていうか今食ってるのがそのイノシシなんだけどさ。
そう思いつつ、俺は一緒に焼いていた別の肉を食べる。
うん、うまい。
あと、今更気づいたのだが、異世界に来ているのに言葉がお互いちゃんと通じている。
あのヘンなのが何か俺にしたのかと思って例のヘンなのの知識を探してみたら、どうもそのヘンなのの知識が俺に影響を与えているらしい。
ヘンなのの知識にあった言語に関する情報が俺の頭に定着して理解できるようになっているようだ。
ありがたいが、事前に説明くらいしておいてほしいものである。
「もぐもぐ、ごくっ。
はぁ、ごちそうさまでした」
「はい、お粗末さまでした」
肉はきれいに平らげられ、骨を残すのみとなっていた。
てかもう食ったのか、早いな。
「おなかも膨れたところで改めてご挨拶。
俺は颯人だ。
で、そっちのちっこいのがトリナだ。
改めて、よろしく」
「よろしくです!」
「よ、妖精?
あ、すみません申し遅れました。
わたしミナって言います。
助けてもらった上にこんな、ごちそうまでしていただいて…」
ミナと名乗った少女はそう言ってしゅんとしてしまう。
耳や尻尾も元気なく垂れてしまった。
「いや、助けたのはこっちにイノシシが迫ってたのもあるし、肉もそのイノシシのだから、全然気にする 必要は無いよ。
ところで、こんなところでイノシシに追いかけられてた理由を聞いても?」
「あ、はい、実は……」
かくかくしかじか。
要約すると、人さらいの集団に誘拐されてしまって、その人さらいが輸送のためにこの森を抜けようとしたところで野生の動物に襲われて、逃げ出したはいいもののイノシシに追っかけられることになったと、そういうことらしい。
「両親も心配してるでしょうし早く家に帰りたいんですが、ここがどこかもわからなくて…
あの、ハヤトさんはここがどこかわかりませんか?」
「…すまん、さっきも言ったがここがどこかはわからない。
はっきり言って俺も絶賛迷子中なんだ」
出られるものなら俺も早くここを出たい。
「あ、そうだったんですか…」
あ、またしゅんとしちゃった。
「……なあ、一つ提案があるんだが」
「はい、何でしょう?」
「実は俺、この世界についてまるで何も知らない田舎モンなんだ。
山奥の村から出てきたんだけど、なんもわからなくてさ」
もちろん嘘だ。
物語でこういう境遇に陥ったやつがよく使う言い訳を参考にさせてもらった。
すぐにバレる事はないとは思うが…
「で、行く当てもないし、この世界のことをよく知るためっていうののついでに、家まで送って行ってあげようかなー、って思ったんだけど、どう?」
正直断られるんじゃないかと思う。
普通、こんな怪しさ満点な奴に送ってもらおうだなんて思わないだろう。
しかし、こんな子を放って行くわけにもいかないのではないかと思った。
実際、俺は行く当てもないし、この世界を知る必要がある。
この世界に飛ばされてしまった以上、ここで食っていけるようにしなくては。
…べっ、別にあのヘンなのの言いなりになるわけじゃないんだからねっ!
「あ、あの、ご迷惑じゃないんですか?」
およ?
「いや、別に迷惑じゃないよ。
この世界の『常識』もわからないような奴だけど、それでもいいなら」
「え、えと、あの、お願いしても、いいですか?」
…OKしてくれた。
言ってみるもんだな。
実は前回投稿分に入れ忘れてた内容も入ってたり・・・
3/8追記
書き貯めをせずに、書いた傍から上げてしまったため、投稿が遅れています。
気長に待っていていただけると幸いです。