第一話
ここから先は主人公の一人称視点で進みます。
「う、うぅ」
目が覚める。
俺は体の中に何かが入ってくるような、得体のしれない気持ち悪さで目が覚めた。
最悪の目覚めだ。
体を起こして周りを見回す。
俺がいるのは森か林か、そんな感じのところだった。
木や草がうっそうと生い茂り、かさかさという葉っぱのこすれる音や鳥のさえずりが聞こえてくる。
俺の生活圏内にはこのような森はなかった。
つまり、俺には見覚えのない土地で。
「…マジで、異世界に送り込まれた?」
そうつぶやいた時、近くの茂みががさがさっと音を立てる。
かなり驚いてそちらに目を向けると、小さな人影が出てくるところだった。
「あ、やっと見つけましたよご主人さま~」
「っ、おまえは!」
そこにいたのは、ラナリスとかいうやつがあの時取り出していた妖精だった。
「いやー、すぐ見つかってよかったです。
はぐれてたら大変なことになるとこでした。
もう、ラナリスさまはアバウトすぎです」
そういいながら妖精が近づいてくる。
送られる直前に見たときは身長が約40センチほどであることくらいしかわからなかったが、近くで見ると見た目は女の子であることがわかる。
薄い菫色の髪をポニーテールにまとめており、かわいらしい顔立ちの少女の姿をしている。
服装は水色を基調とした大変かわいらしいもの。
身長や髪色も相まって人形のような印象だ。
……あのラナリスとかいうやつの趣味なのか?
「はじめまして、ご主人さま。
早速で悪いのですが、私に名前を付けていただけませんか?」
「は?」
「だから名前です。
私にはまだ名前がないのでつけてほしいんです」
これはまた、本当に早速だ。
しかも、いきなりの無茶ぶりだな。
「あのラナリスとかいうヘンなのに名前付けてもらってたりしてないのか?」
「はい。
私たち妖精は契約の時にまずは名前を付けてもらうんです。
ほんとはもっといろいろあるんですけど。
あと、今回はご主人さまにラナリスさまからの情報を伝えるのに契約をしないといけないんです。
なので、名前を付けてください、って感じです」
ふむ。
あのヘンなのからの情報か。
そういえば、詳しいことはこいつに聞けとか言ってたな。
正直信用ならないが、無いよりはましか。
しかし、いきなり名前を付けろと言われてもなぁ。
名前とか考えるの苦手なんだよなぁ。
う――ん
う―――ん
う――――ん
あっ、そういえばあのヘンなの、別れ際にばっははーいとかほざいていたな。
うん、よし。
「トリナ。
お前の名前はトリナにしよう」
「トリナですね、わかりました。
私の名前は今日からトリナです!
よろしくお願いしますご主人さま!」
満面の笑みでそう言うトリナ。
その瞬間に俺の中の何か、目覚めたときに感じていた『入ってきている何か』と同じ何かが、別の何かとつながった感覚を覚えた。
しかし、この何かって何なのだろうか。
「というわけでご主人さまが正式にご主人さまになったので、まずラナリスさまからの伝言をお伝えしますね。
こほん
『無理やりそちらへ送ってしまい、本当に申し訳ありません。しかしこうでもしないとそこの世界、或いはこのエリア全体が本当に滅んでしまう可能性がありますので、無理やり送らせていただきました。大まかな事情とその世界の情報はその妖精に与えてありますので、よろしくお願いします』
以上です」
とても棒読みだ。しかも短い。
もっと何か言うべきこととかあるんじゃなかろうか。
まぁそれはいいや。
とりあえず気になったことから聞いていこう。
「世界が滅ぶってどういうことだ?
あっちでは魔王がどうのって言ってたけど」
「はい。
じゃあまずは魂の仕組みから説明していきますね。
まず、人や動物には『魂』と呼ばれるものがあります。
魂は輪廻転生を繰り返しています。ご主人さまの世界で言う『りゆーす』というものですね。
それでその魂なんですが、脳が発達して感情を持った生物、特に社会を形成する生物に宿ると瘴気を生むようになるんです。
瘴気については後で詳しく説明しますね。
瘴気は一定量たまると凝結して、魂と同じような性質を持った『瘴気塊』になるんです。
この瘴気塊というものが野に放たれると、生物の肉体を乗っ取って瘴気を周りにまき散らしてしまうんです。
まあこの瘴気塊っていうのは、ラナリスさまの担当エリアすべてから集めて数千年に一度できる、ってくらいの量なんですけどね。
基本的に、瘴気はラナリスさまのところに集めて処理されています。
ラナリスさまはいつも油を固めて捨てるみたいに瘴気塊にしてから処理してるそうなんですけど、今回はその瘴気塊を誰かに持ってかれちゃったんだそうです。
その持ってかれた瘴気塊がこの世界にある可能性が高いということで、ご主人さまと私が送り込まれたんですね。
で、その瘴気の性質なんですけど、魂が大量の瘴気に触れるとその魂を傷つけてそこから新たな瘴気を生み出すようになってしまうんです。
その新たな瘴気が別の魂を傷つけてさらに瘴気が、という悪循環に陥ってしまうんですけど、この『傷つけられた魂』っていうのがくせ者で、傷つけられた魂は元に戻せないんです。
傷つけられた魂は二度と輪廻転生の輪に戻すことができないので、傷つけられた魂が多ければ多いほど輪廻転生の輪から魂が少なくなっていってしまうんです。
昔々に瘴気のせいで輪廻転生する魂が少なくなりすぎて消滅したエリアもあったそうですよ。
ここまでで何か質問はありますか?」
うーん、ややこしい。
とりあえず瘴気が悪さをする、その瘴気の塊がこの世界にあるかもしれない、この二点を覚えておけばいいだろう。
っていいのかそれで。
……まいいや
「ところで、瘴気ってそもそも何なんだ?
あと、何回か出てる『エリア』ってのも」
「順を追ってお答えしますね。
まず瘴気ですが、瘴気とはいわば魂から発生している『ココロ』そのものです。
普通瘴気は欲求として、何もせずとも発生しています。
例えば食欲ですね。
その欲求を満たせば瘴気は放出されず消え去ります。
ただ、感情を持った生物だとその『欲求』が簡単に叶える事のできないもの、例えばお金や名声その他諸々を求める、いわゆる『欲望』になってしまうんです。
そうなると満たされることが少なくなってくるので、瘴気の発生量が格段に増えてしまうんです。
その放出された瘴気が先ほど言ったようにエリア全体でラナリスさまのところに集められるんですね。
で、そのエリアについてですが、ついでに世界の構造も説明しちゃいますね。
まず、世界はたくさん存在しています。
で、そのたくさんある世界をひとまとまりにしてエリアとし、複数人の天使で管理しているんです。
この天使の所属しているのが『世界維持機構≪神≫』というところです。
その≪神≫所属の天使として、ラナリスさまがこの世界やご主人さまの世界が存在するエリアの輪廻転生を担当している、というわけです。
大まかにはこんな感じです。
理解できました?」
あのヘンなの、そんな役割をやってのか。
大丈夫なのか?あんなので。
それより
「お前の方こそ、なんか物読んでるようなしゃべり方だったようだが…」
「あ、あーしっかり理解してくれてるみたいですねーさすがはご主人さまですじゃあ次行きましょう次」
理解してないんだな。
思いっきり目が泳いでいる。
しかも無理矢理話題を変えようとしてきた。
まぁ無理に追及する気はないが。
「で、次って何だ?」
「えっ、あはい。
次は魔法について説明させてもらいます」
『えっ』て、いや、よそう。
「魔法というものは、この世界に満ちる『魔力』を用いて現象を引き起こすもの全般を指します。
魔法には火、水、土、風、光属性という系統が存在します。
ただ、これは起こる現象に合わせて人間たちが勝手に決めたものなので、例外が存在します。
その例外はまとめて無属性と呼ばれます。
とりあえず、一番基本の火属性の魔法から教えますね」
なんかまた説明部分がえらく棒読み臭いが、こんなんに教えられて本当に習得できるんだろうか。
まいいや。
とりあえず、やるだけやってみよう。
「ご主人さまにはまず、魔力を感じてもらいます。
先ほど繋がった契約のパスを使ってご主人さまの魔力を吸収しますね。
なにか変化があると思うのでそれを感じてください。
じゃ、いきますよぉ」
トリナがそう言った瞬間、
「う?」
例の『何か』が吸い出されていく。
これか?
「どうですか?
魔力を感じ取れましたか?」
「あ、あぁ、たぶんこれかなっていうのなら」
なるほど。
さっきから感じていた『何か』は魔力だったのか。
「そうですか!
よかったぁ、これで分からないって言われたらなんて説明しようか不安だったんですよね」
まあ確かに、これは完全に感覚の問題だな。
説明するのは難しいだろう。
「では先に行きますね。
魔法を使う際にはこの魔力を消費する必要があるんです。
まずはその体内の魔力を手のひらから体外に放出してみてください」
言われて、手のひらを上に向けて魔力を出すイメージを描く。
すると、手のひらに魔力が集まる感覚と、その魔力が外に放出されていく感覚を感じる。
「できてますね。
次に、その魔力を手のひらの上で丸く、球体になるようにイメージしてみてください」
うーん、こうか?
「最後にその丸くなった魔力が燃えるイメージを送ってみてください」
燃える、燃える、ぬぬぬ
「あーそれだと魔力の量を増やしてるだけですね。
ラナリスさまの知識にはここで躓いたら魔力の中に『らいたー』があるイメージをしろ、とありますね。
ところでらいたーってなんですか?」
なるほどライターか。
……こうか!
ボゥッ
おお、成功したぞ。
「おめでとうございます!
これでご主人さまも魔法使いですね!」
「ああ、ありがとう。
でもこれ、どうやって消すんだ?」
「はい。
手のひらの上の魔力を霧散させる感じでやってみてください」
霧散、こうか
おお、ホントに消えた。
うぅーむ。
あまり思い出したくはないが、中学校の時のイメージトレーニングがかなり役に立ったな。
何事も無駄にはならないということか……
いや、だからと言って黒歴史は黒歴史であることに変わりはないんだけどさ。
ほんと、出来れば思い出したくなかった…
「はぁ…」
「あれ?
どうしたんですかご主人さま。
せっかく魔法が使えるようになったのになんか浮かない顔してますけど」
「いや、何でもない。
で、次はどうするんだ?」
「はい。
魔法も使えるようになったので次は私の感覚とのリンクをしてみましょうか。
先ほど契約が成立した時に、魔力同士がつながる感覚は感じてましたか?」
「ああ、感じてた」
「では、そのつながりを通して私を感じ取れますか?」
繋がりを通してトリナを感じる…
「そのつながりから感じる私を自分に重ねてみてください。
できますか?」
自分に重ねて…
お?
「こちらもできたみたいですね。
どうですか?」
「かなり遠くに何かを感じる」
何か嫌なものが群れを成して移動している感じがする。
「なんだこれ、すごく、嫌な」
「それが瘴気です。
正確には瘴気を纏った魔物ですね。
瘴気に魂を傷つけられた生物がそうなってしまうんです」
そうか、これが。
「それと、このつながりからお互いの知識を共有することもできるんです。
やってみてください」
へえ、便利だけどそれってお互いプライバシーもへったくれもねえな。
どれ
「んっ、んんっ、ご主人さま、そこじゃなく、もっと奥、あぁ行き過ぎですぅ。
そう、もうちょっと…」
「だああああうっさいわ!
ちょっと黙ってろ!」
「だってなんだかこそばゆくて、んんっ」
ったく。
テンプレやってんじゃねえよ。
お、これか?
「んっ、あ、それですそれそれ。
そこをさっきと同じように」
自分に重ねて、お、出来た出来た。
ふむ、でもこれって
「なあ、最初からこれやっとけば最初の説明、しなくてよかったんじゃね?」
「………………あっ」
「……」
「あ、あは、は、ははははは…」
トリナの名前の元ネタについて
例のヘンなのが読んでたっぽい「マンガ」に登場するあのランドの職員からです。
わかりますか?