第5話・襲撃後(追加)
追加のお話しです
■天文14年(1545)12月19日
甲斐国 巨摩郡 谷戸城
諏訪衆を山賊や盗賊など良からぬ者たちが襲った日から一週間が経った。父上には今回起きた出来事を書状であらかじめ知らせておいた。直ぐに返事の書状が届き、了承した事とそのまま谷戸城に向かうのでそれまで辺りを警戒せよとお達しだ。
「信之様、有賀泰時殿が目を覚ましました」
「わかりました。それで有賀殿の体調は?」
「すでに背中の刺し傷は塞がっておりますが、塞がったばかりですので暫くは安静が必要でしょう」
信之は心の中で一つため息を吐く。
もし湖衣姫の護衛、使者としてきた有賀殿を亡くしてしまえばこの縁談はマズイことになり諏訪にいる諏訪家家臣が反旗を翻る可能性も出てくるので本当に良かった。
「それなら良かった。しかし父上が来るとは…」
「それだけ諏訪を重要と考えての行動と思います。諏訪は甲斐から信濃へ入る玄関口と言っても過言ではないですからな」
「諏訪が落ちれば征圧したばかりの高遠も孤立し失いかねないからな。降った者も再び反抗するだろう」
「難儀ですな」
「そうだな。勢力を拡大すると色々と苦労が増えるからな」
「まぁ、それも仕方がないですな。拡大しなければ甲斐の民は飢えてしまうし、他国からの侵略も増えますし…」
「だな。領土が広がり大国になればそれだけで抑止力になり戦は起こらなくなり、民は疲弊しない。信房、そろそろ有賀殿の所に向かうとするか」
信之は泰時の命に別状はないことを知り安心して泰時が使っている部屋に信房を連れて向かう。
「有賀殿、入ってもよろしいか?」
信之が部屋に入る前に一声をかける。すると部屋の中から入ってもいいと返事を返してきた。
「失礼する」
「失礼いたします」
信之と信房は一礼して部屋に入る。部屋には1人の男性が布団の中に横たわっていた。
「有賀殿、お休みのところすいませぬ。」
「と…とんでも…ござらん。この私の様な情けない者の為にわざわざ…」
「何を仰る。有賀殿は武士として姫を立派に守ったのですから」
「そう言って頂けると嬉しいです…。それと私のことは泰時とお呼びください」
「分かりました。泰時殿、それで体調はどうでしょうか?」
「まだ身体の節々が痛く、暫くは動かすことは出来ないと思います」
「そうですか」
「そ…その…貴方様は?」
「これはすいません。武田家当主 武田大膳大夫晴信が三男 武田三郎信之と申します。隣に控えますのは我が傅役を勤めてもらっている馬場民部少輔信房です」
「馬場民部少輔信房と申します。どうぞ良しなに」
「当主の御三男であられましたか、これは…」
泰時は信之が当主の三男と知ると慌てて布団から起きようとする。
「畏まらなくてもいいですよ。まだ幼子ですし」
信之は起きようとする泰時を落ち着かせる。
「そうですか?その…姫様は?まさか賊に⁉︎」
「いえいえ、姫様には別室にてお休みになられています。ご心配はいりません」
「それは良かった…」
「では、我々はこれにて。余り長く居ても有賀殿が治らないといけないので」
「ありがとうございます」
「では…」
信之と信房は立ち上がると部屋を出て行った。
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