第34話・憲政またもや
連続投稿です。
天文17年(1548)3月10日
■信濃国 上田原
信之率いる武田、1万2千が上田原に着陣した。
「千代女、狼煙を上げよ。この戦は無いにも等しいし早くに終わるに越したことはない」
約束通り武田の人から綺麗な狼煙が1本上がる。
すると村上勢は憲政の3百を残して少し離れたところへ着陣した。
「よし、これで村上勢と戦わなくて済むな。全軍に通達、憲政の軍へと突撃!但し追うのは源四郎の隊だけよい」
信之の合図と共に武田軍は突撃を開始する。
一方憲政の陣はというと…。
「申し上げます!武田軍1万2千が着陣!」
「うむ、ご苦労!」
「申し上げます!村上勢離脱、離れたところへと着陣しました!」
「うむ、ご苦労!……んっ⁉︎今なんと言った?私の聞き間違い…」
「村上勢が戦線離脱です」
「な…なん…じゃと…。そんな馬鹿な!」
憲政は陣の外に出ると周りを見渡す。
少し離れたところに村上の旗が立ち並ぶ軍勢が見える。
「よぉぉぉぉしぃぃぃきぃぃぃぃよぉぉぉぉ‼︎」
憲政は天高く叫ぶ!
ちょうどその時、武田方から法螺貝が鳴る。
武田軍が突撃を開始したのだ。
それを見た憲政は唖然としている。
「憲政様!ここは危ないです。え…越後の長尾を頼りましょう!」
家臣たちが唖然としていた憲政の片腕を引っ張り馬の近くまで連れて行く。
「憲政様お急ぎなされ!ここは我らが食い止めますゆえ!」
なんとか憲政を馬に乗せて家臣の一人が馬の尻を叩く。すると馬は当然驚き走り出す。その後を30騎の騎馬武者が続いた。
天文17年(1548)3月10日
■信濃国 高井群
高梨氏が治める高井群にまで一目散に逃げきれた憲政は馬を降り、刀を抜き近くの木へと斬りつける。
「何故じゃ!何故じゃ!何故じゃ!この関東管領たるこの私が敗れなければならない!どいつもこいつも使えぬ。長野、村上、真田…裏切り者め!」
その様子を申し訳なく見ている家臣たち。
しばらくするとそれも終わり憲政は刀をしまう。
「殿、越後へ急ぎましょう。この辺りも危のうございます」
「わかっておる。誰ぞ高梨へ使者として向かえ」
この恨み忘れぬぞ…。武田だけではない、長野、村上、真田、余を裏切った者達は皆殺しじゃ!
憲政の逃亡はまだまだ続く。
天文17年(1548)3月10日
■信濃国 埴科郡 葛尾城
上田原で憲政に圧勝した武田軍は裏切った村上義清の居城に入った。
「義清殿、お味方感謝する。顔をあげて下さい」
俺は今、まさに豪傑といった風格がある村上義清とその家臣達に頭を下げられている。というかお久しぶりです、皆様。信之です。
正直この状況がキツイ…。だってさぁ、転生したからって言ってもまだ幼児だよ?俺は。元服はして大人だとしても身体は子供。
「では、お言葉に甘えさせていただく。改めてまして葛尾城城主、村上義清これより信之様へ忠義を励みまする」
「あぁ、そういうのはいいよ。堅っ苦しい挨拶は、もっとフレンドリーに」
「ふれ……んどりー…ですか?」
「そうそう、フレンドリーに。南蛮人の言葉で友好的にとか親しみやすくという意味のこと」
「なるほど、信之様は博識でありますな」
一刻ほど村上方の諸将たちと会話をして案内された部屋で休む。
「ふぅ…、なんとか難敵である村上殿を味方につけることができた。これも憲政様様だな」
「そうですな。これで信濃に残るのは小笠原、木曾、高梨といったところですが小笠原はお館様がどうにかなさるでしょう。問題は…」
傅役である馬場信房は口籠る。
「高梨か…」
「はい。背後には当然越後の守護代である長尾氏が出てくるでしょう」
「あぁ、必ず出てくるだろうな。信濃の領土を奪還する大義名分があるし、当然上野も危うくなる。防備が固まるまで高梨領へは進撃しないほうがいいだろう…」
信之の言葉に信房は頷くのであった。
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