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第33話・勝弦峠の離脱

遅くなりすいません。

天文17年 (1548)3月9日


■信濃国 諏訪群 勝弦峠



村上義清が居城・葛尾城を出陣し上田原に着陣した頃、信濃国の守護職である小笠原長時も時を同じく兵を集め、居城・林城(後の松本城)を出陣し勝弦峠へ着陣した。



「この機を逃すでない!この信濃から武田を追い出すのじゃ!」



長時の呼びかけに対して、軍勢に加わったのは長時の舅でもある 安曇群 森城 城主である仁科盛能が加勢し軍勢は5千集まった。しかし急いで集めたので軍として纏まっておらず、寄せ集めの軍である。



「村上と守護である小笠原が同時に攻めれば武田なぞ、早々に打ち破れる」



長時は集まっている諸将に対して自慢げに威張る。集まっている主な諸将達の名前を挙げると…。


仁科盛能、仁科盛道(盛能の嫡男)、仁科盛孝(盛能の次男)、仁科盛康(盛能の三男)、青柳清長(盛能の弟)、青柳頼長(清長の嫡男)、小岩盛親(盛能の弟)、小岩盛康(盛親の嫡男)、飯森盛春(盛能の弟)、渋田見盛家(盛能の弟)、神田将監、赤沢経智、赤沢経康、犬甘政徳、平瀬義兼、二木重高、小笠原貞種、小笠原長隆、桐原長真、桐原真基、草間時信。



「しかし、武田は強兵…。むやみに領内に入れば敗れる可能性がある」



そう発言したのは長時の舅でもある仁科盛能。



「しかも軍は寄せ集め…。これでは戦になりますまい」



「舅殿、お歳をとりましたかな?この機を逃せば武田は必ずや攻めてくる。ならば村上が戦っている最中に攻め込めば簡単に武田領を切り取れる何故わからん!」



「いやいや…。これは呆れ申した、戦というものを全然わからんとは。これでは信濃は武田方に落ちましょうや」



「舅殿、それはいかがなものか!私は信濃国守護職で正当なる信濃国の統治者だぞ、いくらなんでもそれは聞きづてならぬ!」



「この時代、守護職では飯は食えぬ。信濃や領土、領民を守れぬぞ!誰もお主に付き従わなくなる。何故それがわからんのだ」



陣の中は一触即発だった。長時を押すもの、盛能を押すものとで別れる。

盛能は自分に賛同してくれる諸将達と陣を出て自らの手勢へと戻る。



「長時とは意見が合わぬ。盛道!」


盛能は嫡男である盛道を呼ぶ。



「はっ!ここに」



「盛道、今から武田に使者として行け」



「それは…!わかりました、して内容は?」



「我が仁科家、暗愚・小笠原長時から離脱し、武田家へお味方致す。それと本領安堵だ」



「わかりました。必ずやお伝えします」


盛道は数騎の騎馬武者と共に勝弦峠を離れる。



「さて、お主らはどうする?」



同じく本陣から一緒に出てきた、自分達の弟に話しかける。



「兄上と同じく…。小笠原はもう駄目でしょうな」



「これも滅びぬためですな」



「守護、守護と威張り散らしている小者が」



「一緒にいるだけでも悪寒がする」


青柳清長、小岩盛親、飯森盛春、渋田見盛家ら

弟たちも兄である盛能と同じく武田へ味方する。その他にも赤沢経智、赤沢経康、犬甘政徳、二木重高、平瀬義兼らの主な諸将達が手勢を率いて離脱。5千いた小笠原軍の1千が峠に残る事となった。



当然、諸将達が離脱していくのを目の当たりにした長時は…。



「裏切り者め‼︎忠義のない奴らばかりだ。武田を打ち破ったあと見せしめにお主ら一族郎党、討ち滅ぼしてやる‼︎」


当然の事ながら陣で家臣に当たり散らしたのだった。後の世でこの出来事は峠の名前に因み『勝弦峠の離脱』と知られるようになった。


勝弦峠の戦いと言われてもわからない人は多いのかと思います。これは塩尻峠の戦いの方が知られていると思いますが、小和田哲男氏の研究では塩尻峠ではなく南にある勝弦峠で戦いが起きたと近年では有力になっているとのことでしたのでこの作品では勝弦峠の方にさせていただきます。

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