第32話・北信の雄
遅くなりすいません。今日風邪を引いてしまい病院にいていましたので更新が遅れてしまいました。
天文17年(1548)3月9日
■信濃国 上田原
忠実通りに遂に北信の雄である村上義清が武田方にあっさりと奪われた砥石城を奪還するために兵を起こした。それに呼応するように林城(後の松本城)の信濃守護・小笠原長時はこちらも武田方の諏訪郡に進行した。
「此度は勝てるのであろうな!」
小田井原の戦いで武田に敗れ領地であった上野国を追われ隣国である村上義清を頼ってきた関東管領・上杉憲政。所領を取り戻すため信濃諸将に呼びかけたのだ。
「憲政殿、落ち着き為されよ。武田が憎いのはわからなくも無いですが、総大将として堂々と構えるこそ肝心ですぞ」
陣の外で義清は興奮する憲政に対して諌めの言葉をかける。
「わかっておるわ、お主に言われなくともな!大体こんな兵しか集まらないとは、これでは北信の雄が聞いて呆れる!」
憲政は義清の言葉に対して罵倒を浴びせる。
(やれやれ困ったものだな。これでは武田に勝てぬのも頷けるな)
義清は子供のように怒り狂う憲政を見て呆れる。
そもそも憲政を保護したのは武田家に対して有効な大義名分だけであり、例え保護しなくとも砥石城を奪還するという大義名分が既にあるので余り意味がないのだが、1つでも多い方がいいだろうと保護したのだが間違いであった。武田には砥石の件で多少なりとも恨みはあるが今や甲斐はもちろんの事、信濃の大部分、上野まで領土としているのだ。儂が例え信濃で勢力が大きいとしても甲斐、上野という国を2つ持っており信濃も多く切り取っている。流石に兵力、国力が違い過ぎるのだ。甲斐一国では何とかなったのだかな。
「それなら良いのですが…。」
志賀の件やら上野を平らげた武田が来るとあっては兵も集まらず2千程…。それに対して武田は1万3千、勝つのが難しい…いや無理であろうな、武田の総大将は上杉軍を蹴散らし上野一国を僅かな時間で平らげた武田信之殿と聞く。恐らく我らに呼応した小笠原も敗れるであろうな。
義清は憲政を置いて陣の中へと戻る。
陣の中には元々村上方の諸将しかいない。
「はぁ、管領殿の相手は疲れるものだな…」
義清はそんなため息を吐く。
「殿のお気持ちお察しします」
そう言って頭を下げたのは屋代基綱。忠実ではこの合戦で雨宮正利、小島権兵衛と同じく討ち死にする。
義清は諸将を見渡す。
屋代基綱を始めとした、雨宮正利、雨宮昌秀、小島権兵衛、清野信秀、清野清運、楽岩寺光氏、出浦清正、出浦清種、若槻清尚、薬師寺清三、赤池修理亮、中沢国季、牧島基永、布下雅信、山田国政、小岩岳盛親、の16人が勢揃いしていた。
「将はいるが兵はいないか……。ん?何やつ」
義清は背後に気配を感じ刀に手を掛ける。
「武田信之様が家臣、望月千代女。信之様から義清様へ文を届けに参りました。これを…」
義清の背後へ現れたのは何と武田の忍びの者だった。千代女は義清へ手紙を渡す。
「ふむ……。望月殿、武田殿は我に寝返りをしろと言うのだな?」
「はい、信之様は村上殿を武田の末席に加えるとの由に、更に領土は安堵するとおっしゃっております」
「砥石城はどうなる?」
「申し訳ありませんが既に海野氏である真田氏に与えておりますゆえ、その代わり高梨氏の治める高井群、水内群を与えましょう。」
北信一帯が手に入るわけか…。
「あいわかった。信之殿に我ら村上勢お味方いたすと」
「ありがとうございます。それで関東管領様の事なのですが…」
「はっきりいって手を焼いておる状態、引き渡しましょうか?」
「いえいえ、それには及びませぬ。わざと越後の長尾に亡命させてくださいとのこと」
「亡命?はて、生かしておくと後々厄介だが…」
「仮にも関東管領、未だ敬う者もいます。村上殿が武田に引き渡ししてしまっては家名に傷が残るでしょう。それは武田も同じこと、後々の行動に差し支えますゆえ」
なんと、武田に降る我が家の事まで思ってくれているとは…。1度、信之殿…嫌…信之様に是非会って見たいものだ。
「では合戦のおり狼煙を上げますので、その折に寝返りを」
「承知した」
義清が頷くと千代女はその場から煙のように消えるのだった。義清は後ろに控えていた重臣達に顔を向けると
「先程の話し各々聞いていたな?我ら村上勢は武田にお味方いたす。無論、裏切りが納得しないものはこの場を立ち去っても良い」
しかし義清の言葉を聞いてもこの場を離れる者はいない。
「皆の気持ちあいわかった。裏切りは卑怯とは思うが管領を見ていると何故お味方したのか疑問に思う…。しかしこれは領土を守る、領民を守るためでもある。信之様にお味方すれば武田家中で日陰を見ることはないだろう」
村上勢は武田への恨みから忠誠へと変わった瞬間だった。
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