第12話・お願い
天文16年(1547)5月20日
■甲斐国 山梨郡 躑躅ヶ崎館 晴信私室
・武田三郎
「父上、突然申し訳ございません」
そう言って三郎は晴信がいる部屋に入る。
「なんじゃ、三郎か?何か用事か?」
評定などの時とは違い優しい父上だ。
「その、父上御願いがございます。」
「なんじゃ珍しいな三郎、太郎と違って。書物が欲しいのか?」
金太郎兄上……(笑)ではなく太郎兄上は毎回おねだりしてるのか?
「いえ父上、書物もいいのですが、今度の志賀城攻めまでに少しでも兵が欲しいのです。自分の兵が欲しく、それと城が欲しくてお願いに参りました。」
「兵か、それに城か?どれくらい欲しいのだ?それと城はどうすれば良いか?」
「最低でも500の兵は欲しいのです。城は志賀城以外に城を私がその500で落としてその城をいただきたく」
「城は攻め落とせるのならやっても良いが、500か…しかしあと少しで出陣だそ?それはいささか無理だろう。それに兵を得るということはそのもの達への扶持が必要になるぞ?」
その覚悟はできてるんだろうと見つめてくる。
「城を得るまでは川狩りと山狩りでなんとか凌ぎます」
「だが、500人ともなるとそう簡単には集められんぞ?」
晴信は心配そうに三郎を見つめる。
「そこは大丈夫です餓死しそうな、山窩や河原者、貧民を喰い扶持だけで集めます。それを先ほど言った川狩りや山狩りなどで確保します。策はあります。川で篝火漁などをして食事の足しにします」
「それと魚だけでは無理ですから、獣などの動物を、狩りますし食糧事は心配には及びません」
「しかし、小者共に獣が狩れるのか?もしかして国衆に手伝ってもらうのか?」
「はい、その土地の国衆や地侍に仕留めてもらいます」
「国衆や地侍は自分の知行地を荒らされるばかりか報酬も無しか?」
「報酬は獲った獲物を折半で分け与えれば良いかとそれと戦の訓練になりますので武田家の為にもなります」
「そうか、ならば大丈夫そうだな。しかし本当に食糧は大丈夫なのか?それに篝火漁?それは聞いたことがないのだが…」
「簡単にいうと、夜に行うもので火の明かりや大きい岩を落として魚を脅かして網に追い込む漁でございます。」
「そうか、ならば良い。取り敢えず1日分の食糧しかやれぬ、すまぬな…」
晴信は申し訳なさそうに目線を下げる。
「謝らないでください父上。甲斐国は飢饉が続いているのを見ればわかります。それとこの500の兵は農繁期でも兵として動員できますので戦いに有利になると思います」
「そうなのか?」
「はい、これは兵農分離という政策で私が考えました。」
「武士と農民を完全にわけるというわけじゃな。戦が無いときは畑などを耕すのに使えばいいな」
兵農分離という言葉だけでその意味がわかるとは、さずが戦国のチート武将だ。
「源四郎、今すぐに三郎の名で山窩や河原者、貧民を500以上集めよ」
晴信は三郎の後ろに控えていた源四郎に命じた。
俺は父上に深く頭を下げて自分も館の外に出る準備をするため自分の私室に戻ることにした。
・武田晴信
三郎が久しぶりに部屋に来たのだが兵と城が欲しいと言ってきた。まだ4つなのに対したものよ。城は落とせばやるが兵は限られておる。それを三郎は山窩や河原者などといった身分の低い者を兵にしようとしているらしい。それにこれが兵農分離という政策。中々良い政策だ。儂も試してみるか…
さて太郎(義信)が嫡男で家を継ぐ立場だが、儂が父上を追放したように太郎も儂を追放するかもしれん。そうなる前に手を打って置くか…。
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