俺の匂いは、貫地谷家に個人情報を調査されるくらい酷いんですか!?
完全真面目回です
はやくギャグ回を書きたい
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「……それで、更衣室でスクワットしたら、見られてるような気配が消えたと」
「はい。なので、しばらく様子見してみてもいいんじゃないかと」
海浜高校に仕掛けられていた、呪いの魔法陣。
それの破壊に成功した翌日の放課後、俺は報告のため一人で生徒会室に来た。
四角く並べられた長机を挟んで、向かい合っているのは鼻栓をした生徒会長。
どうやら今日は、すでに鼻がすっきりしてしまっているらしい。
横山先輩と今井先輩も、一昨日と同じ場所で鼻栓をして仕事をしている。
ゲイの副会長と書記の人は、まだ休んでいるのだろうか。
まあ休んでいる理由が結界によって集められた悪い気のせいだったとしたら、近いうちに体調も戻るだろう。
「……なるほどねー。まあ、そういうことにしとこうか。ご苦労さん!」
「……いえ、まだ解決したかはわからないんで」
会長の鋭い眼光が、俺に突き刺さる。
この人、いちいち迫力ありすぎなんだよ。
……それになんか、引っかかる言い方だなあ。
「そういえばさ。ちょっと、聞きたいことがあるんだけど」
「ま、まだなにか?」
「昨晩、当直の先生が見回りしてたらさ、屋上の扉の鍵が無理やり開けられてた跡が残ってたらしいんだよね」
げええええええええええええっ!?
やっぱりああいうのって、傷とか残るんか!?
やばい、やばい、やばい、やばい!!
「橘君。なにか、知らない?」
「……いえ。更衣室を出たあとは、そのまま視聴覚室に荷物を取りに行って帰りましたから」
「ふーん。じゃあさ、音楽の堀先生が、変態と遭遇したって訴えてるらしいんだけど。それについて、なにか心当たりはあるかな?」
「……全然、ないです。校舎内に変態とか、夢でも見てたんじゃないですかねえ」
「わたし、べつに校舎内なんて一言も言ってないけど」
やべえええええええええええ!?
ここでカマかけとか卑怯だろ!!
「…………違うんですか? 話の流れ的に、そうかと思ったんですけど」
「……まあ、あってるんだけどね」
「で、ですよね。よかった――」
「それでさ、なんかそいつ赤いブーメラン水着を履いてたらしいんだけど」
「………………」
「昨日わたしが渡したやつも、片方赤いブーメランだったよね」
「……すごい、偶然ですね」
「すごい偶然だねえ。ほんとに」
「ほ、ほんとですね。びっくりです」
「ほんとだねー。ここまでくると、もう奇跡的だよね」
「そういえば、赤って欲求不満の色らしいですよ」
「……へー」
「も、もしかしたら先生、欲求不満でそんな夢見ちゃったのかもしれないですね」
「……ふーん」
「あ、あは、あは、あはははは」
……なんで俺は、こんなおっかない生徒会長から尋問受けなきゃいけないんだよ。
腐っても俺らは、海浜高校を救ったんだよ?
たしかに屋上に無断で入ったり、堀先生に怖い思いをさせたかもしれないけど、それでも褒められていいんじゃないの?
ちくしょう。全部、ぶっちゃけてしまいたい。
重苦しい沈黙。
会長は黙って、俺の双眸を見つめ続ける。
なんだか、心の奥底まで覗かれているような錯覚。そして恐怖。
時が止まったかのような、でも実際はたった一分ほどの時間が過ぎ、会長はゆっくりと口を開いた。
「……まあ、いいよ。いちおう、今回の仕事はやり遂げてくれたみたいだし。これ以上の追及はやめてあげる。わたしも、忙しいしね」
「……はい。ありがとうございます」
(ご主人様。よかったですね! なんとか、ギリギリセーフってやつでしょうか)
(どう考えてもギリギリセーフどころか、超余裕でアウトだろ! きっと……いや絶対、屋上に侵入したのも、変態の正体も俺たちだってバレてるよ)
(最悪それがばれてしまってたとしても、真相にさえ辿り着かれなきゃいいじゃないですか)
(これで目をつけられたら、俺たちの高校生活的に大打撃なんだよ)
昨夜、約二時間ぶりの再会を希と果たしたあと、俺たちはじっくりと話し合った。
まずは会長への報告だが、さっきおこなったとおりにすることを決めた。
つまり希の存在は伝えずに、霊っぽい気配を汗で消しましたという内容だ。
そして呪いの魔法陣のことも秘匿することにした。
いまだに誰があの魔法陣を仕掛けたのか、まったくわからない状況だからだ。
会長かもしれないし、横山さんかもしれないし、今井さんかもしれない。
……もしかしたら、貫地谷さんかもしれない。
だから、昨日あの場にいた四人以外には秘密ということに決めたんだ。
さっそく幼馴染たちに、誰にも言わないようにしてくれと連絡。
ゆいいつ俊介だけがすでに、「俺は今日、海浜高校を救った!」と両親に話していたらしいけど、あそこの家族なら大丈夫だろう。
きっといつもみたいに寝言を言ってると、相手にしていないはずだ。
オオカミ少年って童話。本当に偉大だよね。
ちなみに、希が俺の背後霊になったことは幼馴染にも隠している。
知っている人間が少なければ少ないほど、外部に漏れる危険が減るからだ。
できる限りその可能性を、ゼロに近づけたい。
なぜなら、希は謎の敵に対しての切り札だからだ。
彼女は背後霊だけど、俺を中心として半径三百メートルくらいなら、自由に行動できそうとのことだった。
つまり俺が授業を受けてる間に、密かに校内を巡回することも可能なんだ。
もしも授業中なら人が少ないと油断してくれたら、もう一度結界を張ろうとするかもしれない。
そうなれば、希はバッチリ犯人の顔を確認できるってわけ。
会長への報告から省いたのも、べつに生徒会メンバーを特別怪しんでいるわけではない。
単純に、盗聴も含めて情報が洩れる危険性が上がるからだ。
敵がその情報を手に入れてしまったら、仮に成仏したという偽情報を掴ませたとしても、希という存在がいたというだけで警戒してしまうだろう。
餌を仕掛けた檻に敵が入ってくるのを、今はじっと待つということだ。
「じゃあ、今日はこれの確認だけしてくれたら帰っていいよ」
「……これって?」
会長が横山先輩を経由して渡してきたのは、透明なファイルにギッシリと入った紙の束だった。
……もしかして、目安箱に入れられた意見書か?
「見ればわかると思うけど、生徒たちの意見ってやつだよ。緊急性を要しそうなものと、そうでないものを分けてくれ。助っ人部が――というか、橘君がやるべき仕事だね」
「……俺?」
どういうことかは、よくわからなかった。
けれど、会長のニンマリ顔を前にして俺は、嫌な予感しかしなかったんだ。
「そういうことかぁ……」
助っ人部の部室である視聴覚室に戻り、俺はさっそく意見書の束を机に出す。
貫地谷さんも含めた部員全員で囲んで、内容の確認を始めた。
……始めたんだけど、出るわ出るわ。同じ意見ばっかり。
『最近校内が臭い気がする』
『廊下が臭くなる時がある』
『教室が臭い』
『なんか臭い』
『臭い。空気清浄機が欲しい』
『とにかく臭い』
『1-7のT君が臭い』
「――って、ああああああああ!? 臭くて悪かったなああああ」
そう。意見書のほとんどが臭いってやつだった。
たまに『プールの男子更衣室が覗かれてる気がする』って紙を挟むが、ほとんどが『臭い』系のものだった。
というか、この仕事を俺にやらせるって。
それどころか、俺がやるべき仕事って。
ニンマリ笑顔の理由、これだったんですね。
あの人、ほんまもんの鬼だろ!?
「……純一君。気にすることないよ。わたしが、ずっと一緒にいるから」
「もちろん、あたしもいるよ。まあこう言っちゃなんだけど、いつものことじゃん。中学の時は、目安箱なんてなかったけどさ」
「先生や親に口で訴えるか、生徒会に紙で訴えるかの違いしかないしなー。それでも、今は貫地谷さんがいるだけマシじゃん」
「当然、私は橘様の味方です。というよりも、こんなにかぐわしい香り――ではなくて、この程度の匂い。文句をつけるなど、根性がないにもほどがあります」
「……みんな、ありがとうな」
机に突っ伏した俺を、みんなが慰めてくれる。
俺、こんな体だけど、本当に友達には恵まれてる。
(それにしても、すごい書かれようですね)
(……そういや、希は俺の匂いなんともないのか?)
(希は幽霊ですから、匂いは全くわかりません。でもここまでの言われようだと、好奇心で一回嗅いでみたくなりますね)
(幽霊ってすごいのな)
(そうですか? たまたまご主人様の体臭がすごいからラッキーだっただけで、普通なら鼻が利いたほうがよくありません? なんの匂いもわからないんですよ)
(……言われてみれば、それもそうか)
先ほどの生徒会室でもそうだったが、俺と希は基本的に心で会話している。
これはもちろん、俺以外の人に希のことを気づかれないためだ。
相手に伝えたいと思いつつ心で話せば、声に出すことなく会話ができる。
念話みたいなものと説明すれば、いいのだろうか。
すでに俺と一心同体だから、できるとのことだった。
希は完全に消えてるし、声も出していない。
それでも、気配を察する人がいるんだから油断はできない。
そう俺たちに忠告してくれたのは、沙雪様だった。
今朝顔を合わせたとき、開口一番こう言ったのだ。
「……なんか、女の気配がする。純一君、心当たりないかな?」
その場はなんとか誤魔化したけど、火種はくすぶり続けてしまった。
結果、昨日より多くのシャーペンがあの世に逝くことになり、オムツーズも少しちびりすぎた一日となったのだ。
正直、俺が幼馴染にも希を隠した理由には、沙雪様のことも含まれている。
貫地谷さんが四人の中に入ってきただけで、あそこまで心が揺さぶられたのだ。
いくら幽霊だからといっても、貫地谷さんと比較できないほど近い存在となった希のことを知ったら、どんな大事件に発展するのか。
まったく予想できないし、したくない。
沙雪のことを考えながら、意見書確認を再開する。
残りも変わらず『臭い』系が大半で、あとは『覗き』があるくらい。
もちろんそれ以外のものも数枚見かけるけど、それくらい我慢せいなものばかりだった。
『クラスの男子の匂いをもっと嗅ぎたいんですけど、嗅いだらどうなってしまうかわからない。だから我慢してるんですけど、心がおかしくなりそう。親にも怪しまれてます。どうすればいいですか!?』
そんななかで、これを見つけてしまった。
前半部分は綺麗な丸っこくて可愛い文字なのに、後半になるにつれて荒々しく書かれている。
……これって、まず九割九分山下さんだよね?
今日も教室で、時たま『えへえへ』声を漏らしてた、うちのクラスの委員長だよね!?
俺はそっとその紙を小さくたたんで、ブレザーのポケットにしまった。
……べ、べつにもみ消そうとか、そんなんじゃないよ!
俺が個別に対応しなきゃいけないことだから、生徒会室に戻す必要ないってだけで。
ほ、本当だぞ!
そんなこんなで結局開票の結果は、『臭い』候補がダントツのトップ当選。
今ごろ、きっと支援者の前でダルマに目でも入れてるんだろう。
「純一君、お疲れ様。今すぐ対処すべき問題は、一つもなかったね」
「本当なら俺の匂いは、すぐに対処するべきなんだろうけど。解決不可能な案件だからね。しょうがないね」
「ほらほら。純も拗ねないの。よし! 今日は仕事も早く片付いたし、明日は休みだし、またカラオケ行っちゃう!?」
「……からおけ、ですか?」
「おっ!? もしかして、貫地谷さんはカラオケ知らない? ちょー楽しいぜ。俺の美声を聞かせてやるよ」
俺たちが外で遊ぶときは、基本カラオケだ。
なぜかというと、個室なのでほかの人に俺の匂いで迷惑をかけないから。
もちろんゲーセンとか、映画館とかに行くこともある。
汗にさえ気をつけてれば、大惨事になることもない。
それでも多くの人がいるところで遊べば、不快に思わせてしまうことも増える。
俺たちはいつしか自然と、外で遊ぶ=カラオケが候補の筆頭に上がるようになっていた。
まあ全員カラオケ大好きだから、べつにいいんだけどね。
でもやっぱり俺の体臭がなければ、もっといろいろローテーションできてるんだろうなあと時々思うことはある。
「からおけ……とても気になります」
「なら、貫地谷さんも行く? 俺たちは、みんな歓迎だけど」
まあ、沙雪は少し不満だろうけど……。
ちらりと、隣の家に住む美少女に視線を移す。
彼女はやはりなにか言いたげだったけど、アイコンタクトでしぶしぶながら了承してくれた。
「はい! 橘様達とご一緒したいです」
「望月さん。大丈夫なのかな――ん?」
相変わらずどこにいるかわからないお嬢様の御付きに問いかけたところ、ポケットのスマホがバイブする。
『行っていただいて、問題ありません』
開いたら、こんなメールが届いてた。
……あの人、いつの間に俺のアドレス調べたのよ。
貫地谷家の諜報部隊、恐ろしすぎ!
望月さんからお許しをいただいたので、助っ人部全員でカラオケに行くことになった。
まずは貫地谷家の大型リムジンで、各自帰宅。
俺はシャワーを浴びるので、そのあいだ貫地谷さんは沙雪の家で待つことになった。
沙雪なりに、距離を詰めようと努力してるんだと思う。
二十分後、大型リムジンで再開した俺たち。
俺、俊介、美鈴は私服だったけど、沙雪は制服のままだった。
きっと貫地谷さんだけが制服にならないように、気を使ったんだろうな。
沙雪は、本当に心の優しい女の子なんだ。
幼馴染として、誇りに思う。
大型リムジンの快適空間で、いつもお世話になってるカラオケ店に到着。
雑居ビルの三階と四階に店舗を構える、この地域の小中高生行きつけのお店だ。
かなり古いんで、店内とかも暗いんだけどね。
そのぶん料金が安いという、学生にはありがたい場所だった。
エレベーターを三階で降りて入店すると、いつものようにカウンターで受付を済ます。
いつもとちょっとだけ違うのは、四人じゃなくて五人というとこ。
それが少し嬉しくて、自然と顔がほころんでいた。
案内されたのは、三階の部屋。
部屋の大きさは、いつもと変わらない。
まあ四人が五人になったくらいじゃ、広くはならないか。
貫地谷さんは入店して以降、ずっと瞳を輝かせっぱなし。
お嬢様にとっては、物珍しい光景が続いているんだろう。
「俺、いっちばーん!」
俊介がいつもどおり、手慣れた手つきで最初に曲を入れる。
いつも歌っている、アニソンだけど有名バンドが歌っている曲だ。
聞きなれたイントロが流れる。
美鈴や沙雪はなにを歌うか相談しながらも、手拍子で盛り上げる。
それにならって、貫地谷さんも楽しそうに拍手している。
彼女が嬉しそうで、ほんとよかった。
そして、Aメロに入ろうとした刹那――
「――っ!? 純一! どっかで、争ってる声が聞こえる! たぶん、女の子もいる!!」
俊介が握ったマイクのスイッチを切って、そう叫んだのだった。
※1-7 クラスメイト概要※
・体臭がキツすぎる男子
・体臭男子の幼馴染三名(うち一名、沙雪様少し落ち着き中)
・体臭男子に好意的なお嬢様
・紙おむつイケメン二名
・体臭男子に近づきすぎると、アへ顔晒しそうになる委員長
NEW!・密かに体臭男子の後ろで漂う、ご主人様の股間大好きな幽霊少女
etc
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次回もよろしくお願いします!