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俺の股間は、幽霊を顕現させるほどでかいんですか!?

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本当にありがとうございます!

「――って、きゃあああああああ!? ゆ、ゆ、幽霊!?」


 美鈴がこんな感じで下半身丸出しの俺に飛びついてきたのは、俊介の股間が天に召されてからゆうに一分以上たっていた。

 まあ股間丸出しで接近されたら、幽霊なんて気にしてる場合じゃないかもね。

 露出狂と幽霊がセットで出るお化け屋敷なら、誰も幽霊に注目しないんじゃないかな。

 

 今、美鈴は俺の背中に隠れるようにして、宙に浮いてる女の子を様子見している。

 これはべつに彼女が、特別怖がりだからということでもない。

 むしろいきなり幽霊なんかを目撃したら、美鈴みたいな反応が普通なんじゃないだろうか?

 俊介みたいに股間を突き出して幽霊に迫るような行動は、きっと超珍しいと思われる。


「ほ、本当に浮いてるね」


 美鈴の絶叫でようやく沙雪も気づいたのか、女の子を見つめながら声を漏らす。

 ……あなたはいったい、今まで何に目を奪われてたんだい? 


 まあそんなことより、沙雪も妙に落ち着いてるね。俺も人のこと言えないけど。

 ……そういえば例の『幽霊は会いに来てる』って話見たとき、沙雪も隣にいたっけ。

 幽霊嫌いって話も聞いた覚えないし、沙雪も同じ理由で嫌悪感とか持ってなかったのかな。

 

……というか、この子をいつまでもこのまま放置はできないよな。

 俺は未知とのコンタクトに、少しだけ緊張気味に口を開く。


「あ、あの」

「は、はいっ!?」

「えーと。意思疎通はできるんだよね」

「だ、大丈夫です! できます!」

「じゃ、じゃあ。いろいろと聞いてもいいかな?」

「ど、どうぞ!」

「えっとね――」

「……純。そのまえに、いい加減下履いたら?」

「……えっ!? あっ、そうだった。なんだか、履いてないのがあたりまえの空間のように思えて」

「どんな空間よ、それ」

「はい。純一君、これ」

「うん。ありが――て、なにこれ?」

「なにって、履くんだよね?」


 俺は幼馴染が脱ぎ捨てたパンツを拾ってくれたのかと思ったんだけど、彼女が差し出していたのは違うものだった。

 会長のピッチピチブーメラン水着だ。


「……いや、もう覗き事件の真相わかりそうだし、パンツ履けばいいんじゃ」

「せっかくなんだし、履いておかないともったいないよ」

「俺にはなにがせっかくなのかも、なんでもったいないのかもわからないよ」

「……沙雪の言うとおりだよ。一回くらい履かないと、会長も怒るかもよ?」

「そ、そんな理不尽なことが……」


 ……ないとも言い切れない!

 なんと恐ろしい人なんだ。


「希も履いたほうがいいと思います」

「な、なんで君まで!?」

「結構、真面目な話です。希、たぶん興奮状態になった時に、姿が見えちゃうんだと思います。だからもしも普通のパンツを履かれたら、希の姿も声も消えちゃうかも」


「な、なんて厄介な……。そ、そうだ! ほら、そこに倒れてるお兄さんの股間なら見放題プランだよ」

「…………ふっ」

「そ、そんな笑いかたしないであげて。きっとマスクの中が、涙で溢れちゃう」


 間違いなく年下の女の子に、息子を見られて鼻で笑われるとか……。

 俊介、強く生きてくれ!


「ち、ちくしょー……。俺は大きいはずなんだ。母さんから、父さんよりかなり大きいって。自信持てって……」


 ……おばさん。あなたは、いったいなにを息子に吹き込んでるんだよ。

 そしておじさん、強く強く生きてくれ!

 俺は知らぬ間に息子の幼馴染女子高生に、自分のもう一人の息子の大きさを暴露されたおじさんを想い、心の中で手を合わせた。


 その後丸出しかブーメランかの究極の二択を迫られ、結局俺はブーメランを選んだ。

 とても難しい選択だったが、俺は逃げずに決めたんだ。

 さて、ここで今の俺の完成した姿を再確認してみよう。

 

 JKのパンツで作られた、お手製のマスク!

 上半身は裸!

 下半身には、もっこりきわどいブーメラン!


 うん。誰かに見つかったら、通報確定だね。

 これに加えて、体臭もばらまいてるからね。

 もう笑うしかないよね。


「す、すごいです! すごい、もっこりです!!」

「……消えないようで、なによりだ」

「純。すごい姿になったね。永久保存版だよ」

「なにおまえは、笑いこらえながら写真撮ってるんだい?」

「待ち受けにしようと思って」

「やめて!?」

「わ、わたしはデスクトップ画面に使うよ! あとで送ってね」

「……沙雪。目が血走ってるぞ」


 だあああああ!

 このままじゃ、話が全然進まねえ!


「……もう、好きに撮ってくれ。俺はこの子と、ちゃんと話すから」

「オッケー。純と沙雪に任せた」


 楽しそうにスマホを向けてくる美鈴。

 ……さっきまで、幽霊にビビってたのに。

 それが気にならなくなるほどに、俺の姿はインパクトあるのかい?


「……で、君はいったい何者なの? 幽霊であることは、なんとなく理解したけど」

「はい。希こと笹野希ささののぞみは三月に死んでしまいました。近くにある病院で」

「近くにある病院って、臨海病院のこと?」


 市立臨海病院は、海浜高校の近所にある結構大きい病院だ。

 夜間の救急外来もやっており、地域の医療を支えている。


「そうです。希はそこで、十三年という短い生涯を終えました」

「そ、そっか。それはご冥福をお祈りします」

「いえ。ずっと小さいころから病気だったんで、覚悟はできていました」


 そう微笑みつつも、やはりその表情は悲しさを帯びている。

 そりゃ、そうだよな。

 十三年で三月ってことは、中学一年ってことだもんな。

 そんな年で死んで、平気なわけがない。


 そんな希に向けて辛そうな顔を見せる沙雪が、ためらいがちに口を開く。


「……えっと、希ちゃんでいいですか?」

「はい! 大丈夫です」


「やっぱり希ちゃんは、なにか未練があって幽霊になっちゃったんですか? 幽霊になる人って、そういう理由があるってよく耳にします。わたしたちでよければ、希ちゃんの力になれないかな?」


「……うーん。たしかに希には未練があったし、力になってほしいこともありますけど。幽霊になる人についての認識は、根本的に間違ってますね」

「それって、幽霊に未練は関係ないってことかー?」


 ようやく股間と心に受けた瀕死の傷が少し癒えたのか、俊介が会話に参戦してくる。

 まだ股間にはなにも触れさせたくないんだろう。丸出しのままだ。

 美鈴は、いまだに俺にスマホのカメラを向け続けている。


「関係なくはないですけど、それ以前の問題というか……。皆さんは、この世に霊ってたくさんいると思っていますよね?」

「え? 違うの」

「違いますよ、モッコリのお兄さん」

「モッコリ言うな!」


「希、実は死ぬ前から霊感があったんです。なのに生活してて、霊なんてほとんど見たことありません。それに知ってたんです。霊は、一瞬であの世に吸い込まれるって」


「それって、どういうことだよ」

「そのままの意味ですよ。ちっちゃいお兄さん」

「お、俺はちっちゃくねえ!」

「しゅ、俊介落ち着け! で、吸い込まれるってどういう意味なの?」

 

 怒りに震える、股間丸出しでおっさんパンツマスクをかぶった変態を、ブーメランを身に着けたJKパンツマスクをかぶった変態が止める光景。

 海浜高校、始まってんな。


「希、おばあちゃんもおじいちゃんも最後に立ち会ったんですけど、その時見てるんです。亡くなった瞬間、ヒュンってなにかに吸い込まれて上に消えたんです。強力な掃除機に吸い込まれたみたいに」


「なら、なんで希ちゃんはここにいるの?」

「それはですね。ロケットスタートです」

「ロケットスタートぉ?」


 自慢げに笑う幽霊に、胡散臭そうな視線を向けるおっさんパンツ。

 ……にしても、ロケットスタートって言葉。

 なぜだか、胸騒ぎがする。


「そうです。希は死んだ瞬間に、『※自主規制※カート』並みのロケットスタートをかましてですね。そりゃあもう全速力で――」

「うわああああああああああああああああ」

「も、モッコリのお兄さん!? どうしたんですか、いきなり叫んで!?」

「わかった! わかったから、ロケットスタートの話はこれでおしまい!!」


 なぜだろう。

 なんだか邪魔しないと、身に大変な危険が迫るような気がした。

 不思議な感覚だ。


「……まあ、いいです。それでこの海浜高校に飛び込んだってわけです」

「なんで、ここなんだ? 距離的には、近い高校がほかにあるよね」

「そんなの、屋内プールがあるからに決まってるじゃないですか!」

「は?」

「は? じゃないですよ。モッコリのお兄さん! 希はお兄さんみたいな立派なものを見たくて、魂の回収から逃れたんですよ!」

「の、希ちゃん。そんな理由で幽霊に……」


「そんな理由ってなんですか!? お姉さんはいいですよね。これから死ぬまで、いくらでもエッチなことできるんですから。でも希は、処女で死んじゃったんですよ!? 年頃の男の人の下半身を見ることもなく、死んじゃったんですよ!? せめてあの世に行く前に、見たいって思ってなにがいけないんですか!?」


「ご、ごめんね」


 沙雪は、心底申し訳なさそうに頭を下げる。

 ……いや、謝る必要ないだろ。

 

 俺は例の幽霊の話を思い返していた。

 霊が見えるのは、その人に会いたいからって話だ。

 じゃあ希みたいに誰かにじゃなくて、下半身に会いたい霊はどうしたらいいのかな?

 手じゃなくて、股間を振ってあげればいいのかな?

 なーんてね。ははっ。

 ……俺的に、結構綺麗な思い出が台無しなんだが。


「わかってくれればいいんです。こうして男の人の裸に執着してたら、見事に地縛霊になれましたとさ。ということで未練も関係はありますけど、ほとんどの場合それ以前の問題ってことです」

「……そういえば、話のスタートそれだったな。なんか内容濃すぎて、すっかり忘れてたよ」


 どっと疲れた。

 もう帰っていいかな。


「そんで、おまえはどうすれば消えるわけ―? 俺ら、覗き問題を解決するために来てんだけど」


「ああ。そういえば、さっきモッコリさんも言ってましたね。覗き事件って。やっぱり、希のこと気づかれてたんですね。水泳部の人たちもキョロキョロしたり、幽霊がみたいなこと話してたんで、見えないはずなのにおかしいなとは思ってたんですけど。でも今日のモッコリさんで、興奮したら見えちゃうことがわかりましたし納得です。きっと興奮度合いによって、どれだけ見えるかも変わるんでしょうね」


 股間の大きさによって、出たり消えたりする幽霊。

 これが幽霊の正体だって知られたら、ホラー産業壊滅だろうね。


「それで、君はこれからどうなるんだ?」

「君じゃなくて、希でいいですよ!」

「……希はどうなるんだ? 地縛霊だから、ずっとここにいるのか?」


 もしそうなら、困る。

 絶対に解決しないじゃん。

 いや、霊媒師とか呼べばいいのか?

 でも希は変態だけど、悪い霊には見えない。

 そういう荒っぽい方法じゃなくて、どうにかして穏便に済まないものか。


「……じつは希。もう地縛霊じゃないんです」

「なら、希ちゃんはなんなのかな?」


「希は今、地縛霊から転職して浮幽霊なんです。二週間くらい前に股間に満足して、もう天に帰ってもいいかなと思ったら、更衣室の外に出られたんですよ。でも空には行けなかった。なんかここ、いつの間にか結界が張られちゃったみたいで」


「結界!? なにそれ、かっけー!!」

「また俊介がワクワクしそうな単語が……」


 両手を握って立ち上がり、大興奮の親友。

 そんなことよりおまえ、そろそろなにか履けよ。


「それで、希はその結界のせいで成仏できないでいると」


「そうなんです! まあそのおかげでお兄さんのモッコリに出会えたんで、張ってくれた人には感謝なんですけどね。でも、そろそろそんな悠長なことも言ってられないかなあって」


「希ちゃん。それって、どういう意味?」


 更衣室内に、少しだけ緊張が走る。

 写真に夢中な美鈴以外ね。


「えっとですね。その結界、どうやら悪い気を集めちゃうみたいなんですよ。いわゆる呪いの結界ってやつですかね。そのせいで、最近生徒さんが結構体調不良で休んでるみたいで」


「……純一君。それって……」

「ああ。会長が言ってたやつだね」


 会長は言っていた。

 ここ最近生徒の病気や怪我が多い。

 それが本当にその呪いの結界のせいだとしたら、放置はできない。


「そのせいで、希のお気に入りの水泳部員も休んじゃってるんです」

「そんなことはどうでもよく――はないけど、今は置いてくれ。希は、その結界をどうにかできないんだよね?」

「どうにかできてたら、もう成仏してますよ」

「……そりゃ、そうだよな。ごめん。馬鹿なこと聞い――」

「でも、結界を作ってる魔法陣の場所ならわかります」

「――えっ?」


「だから、これ壊せば消えるよって場所ならわかります。希は死ぬ前から霊感少女だったんですから。そのくらい、気づいちゃってます」

「おまえすっげーじゃん! ちょっと、かっけーって思っちまった」

「どうしますか? 案内しましょうか?」

「ああ。希、頼んだ」


 こうして助っ人部の第一回活動内容が、『水泳部の覗きの謎を解明せよ』から『海浜高校を危機から救え』に、緊急チェンジされたのだった。



※屋内プール 男子更衣室概要※


・JKのパンツで作られたマスクをかぶったブーメラン水着男子


・おっさんのパンツで作られたマスクをかぶった心と股間重症男子


・ブーメラン変態の写真を一心不乱に撮る美少女


・ブーメラン変態の写真を心待ちにしている美少女


・股間を求めて幽霊というレアキャラになった女の子

読んでいただきありがとうございました!


少しでも楽しんでいただけてたら嬉しいです


希ちゃんもかなりチートです


次回もよろしくお願いします!

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