俺の匂いは、〇〇に遭遇しちゃうほど酷いんですか!?
ブックマークしていただいた皆様
評価をしていただいた皆様
感想を書いていただいた皆様
読んでいただいた皆様
本当にありがとうございます!
「ふおおおおおおおおおおおおお!!」
「……俊介。おまえなにやってんの?」
「いや。なんとなくこのパンツマスクかぶって気合入れたら、俺の隠された能力が解放されそうな気がしたけど、そんなことはなかったぜ」
俺と俊介は今、夜の学校をプールに向かって歩いている。
すでに完全下校時刻は過ぎた。
現在助っ人部以外の生徒は、学校に残っていないはずだ。
会長曰く、俺たちがいることを先生には伝えてないらしい。
だが仮に万が一見つかってしまっても、生徒会の仕事で遅くなってしまったと伝えれば大丈夫とのことだった。
先生たちも、今の生徒会が困窮していることは知っているはずだからと。
それでも問題になったら、校長の後ろ盾を使うとのことだった。
でも、俺は心底心配である。
べつに会長の言うことを信頼してないわけじゃない。
でも、彼女は予想だにしていないはずなのだ。
俺たちが、こんなパンツマスクをかぶった姿で活動しているということを。
いくら校長でも、こんな変態擁護しきれないんじゃないかなあ。
海浜高校は屋内プールだ。
そのため、水泳部は一年中プールで練習することができる。
この周辺の中学の水泳部員は、この屋内プールに憧れて集まる。
まあ話を聞く限りじゃスタミナつけるために走ったり、筋トレ練習が多かったりと、かなりきつい部活らしいけど。
特に一年は、夏まではたまにしかプールに入れてもらえないらしい。
パンツマスクの変態二人が、体育館に向かう道を途中で右折。
プールは体育館に並ぶように建っている。
会長に渡された合鍵を使って、開錠。
扉を開くと、プール独特の塩素の匂いが鼻をついた。
入るとすぐに二つの部屋が、視界に飛び込んでくる。
右が男子更衣室。左が女子更衣室だ。
俺は男子更衣室の合鍵を握って――
「……おい。俊介どこに行く?」
「なにって。覗きの謎を解明すんだろー?」
「今回俺らが調査すんのは、男子更衣室な! 今おまえが入ろうとしてんのは、女子更衣室だ!」
「男子と女子なんて、ついてるかついていないかの差しかない。細かいこと気にしてると、禿げるぞー?」
「その差がでかいんだろ! というか、その鍵いつの間に抜いたの!? 全部、俺が持ってたはずなのに」
「気づいたら、俺の手の中にあったのさ。きっと女子更衣室に入れという、神からの天啓だ」
「神からの天啓じゃなくて、犯罪者の典型じゃないの? ほら、さっさと行くぞ」
「いーやーだー!? 神よ! お助けください。この者に裁きの雷を!」
「今ここで俺が裁かれたら、お前も巻き添え食らって死ぬよ?」
犯罪者予備軍の襟首をつかんで、今度こそ男子更衣室に入る。
電気をつけてまず目についたのは、入り口付近。カーテンが端のほうにまとめられている。
なるほど。これを広げれば扉が開いても、中の着替えは見えなくなるわけね。
きっと、同じものが女子更衣室にもあるだろう。
中学時代までにあった、女子更衣室前を歩いた時に、タイミングよく扉が開いた時のあのドキドキ感。
甘酸っぱい、青春の一ページよ。さようなら。
「……で、おまえは何をしてるの?」
「このカーテンは敵だと、俺の本能が告げている。今すぐ破壊せねば」
「俊介落ち着け! おまえは酷く混乱している。おまえの敵は女子更衣室にあるほうだろ! ここは男子更衣室だ。いい加減現実を見ろ!」
「違う。ここは女子更衣室だ! 俺は女子更衣室にいるはずなんだー!!」
……もう、こいつは放っておこう。
とりあえず、俺はできることをするか。
リュックをおろして、まずは窓がないことを視認する。
次にロッカーの中など、怪しいところを片っ端から確認していく。
でも特に怪しいものや、まして隠れてる人なんて見つからない。
まあこんな場所、今まで何度も部員が探してるだろうしね。
なにもないのは想定内。
次に壁。
ほとんどの壁はロッカーで埋め尽くされてるけど、さらけ出されている箇所もある。
そこを、こぶしで軽く叩いてみる。
よく推理小説とかであるじゃん。
壁叩いたら一か所だけ音が違って、その中になにか隠されてるみたいな。
そんな展開を期待したけど、ちょっと手が痛くなっただけだった。
うーん。天井にも怪しいところはないし、どうしたものかな。
……やっぱり、これを試さないといけないのか。
俺はため息をつきながら、今日会長から手渡された紙袋に手を差し入れる。
そこにあったのは、見事なブーメラン水着だった。
どうやら覗きの気配を感じるのは、着替え始めたあとのことらしい。
それまでは、まったくなにも感じない。
それなのに、服を脱ぎ出すとはっきり見られているとわかるんだそうだ。
そして股間を晒すころには、声まで聞こえることがあるという。
会長からはどうしても覗きの謎がわからなそうなら、実際に着替えてみろと指示されている。
なんでブーメランなのかと問うたところ、「わたしの趣味だ」という気持ちのいい返答をいただけた。
「おい、俊介! そろそろ、カーテンとの格闘の時間は終わりにしてくれ」
「ってことは、なんも見つからなかったのか?」
「なかった。だから、着替えるよ」
「ちっ! しゃーねーな。俺のダビデ像並みに美しい裸体を、おばけに披露してやるか」
「ダビデとミケランジェロに謝れよ。おまえ、俺よりぷよぷよじゃん」
ツッコミを入れながら、俊介のおばけという言葉に思考を移す。
男子部員の『幽霊なんじゃないか!?』という訴え。
会長の心霊現象という発言。
もしも男子部員たちの証言が嘘でなければ、幽霊の仕業としか思えなくなってくる。
いや幽霊とは限らないけど、なにか人間とは違う存在。
俺は幽霊について、とくに怖いという感情はない。
小さいころは子供らしく、怖がったりしたこともあったと思う。
でも小学生のころ見たテレビで、ある人がこんなことを言っていたのだ。
幽霊が見えたなら、寂しくなった霊が見えた人に会いに来ただけなんだと。
だから、笑顔で手でも振ってあげてくださいと。
この話を聞いて以来、霊に対して恐怖は感じなくなった。
まあ、一度も見たことないからってこともあるかもだけど。
「純一君、俊介君。なにか見つかった?」
服を脱ぎ始めようとした間際、ノックとともに扉がゆっくり開く。
あいた隙間から、沙雪がそろっと顔を覗かせた。
「いや。なにも見つからなかったよ。だから、試しに今から水着に着替えてみる」
「あ! ご、ごめん。そ、そうだよね。着替えるんだよね」
「沙雪たちは扉の外で待っててくれ。着替え終わったら呼ぶから」
「う、うん。待ってるね」
幼馴染はちょっと頬を染めて、伏し目がちにしながら扉を閉めた。
冷静に考えてみると、ちょっと危ないタイミングだったな。
どっちかにずれてたら、スッポンポンで出迎えてたかも。
「じゃあ、ちゃっちゃと着替えちまおうぜー」
「……そ、そうだな」
ほんと時々、こいつの図太さが羨ましくなるよ。
パンツマスクをかぶった二名の変質者が、服を脱ぎ出す。
マスクはつけたまま、ワイシャツ、肌着を脱いでロッカーに入れる。
ズボンに手をかけたところで、ひんやりとした何かを感じた。
「……俊介。何か感じないか?」
「えっ? なにがー?」
なにもためらうことなく、一気にズボンをおろす親友。
やっぱり、おまえの図太さ羨ましくないわ!
俊介と違い、俺はあきらかに感じていた。
何者かからの視線を。
親友は、すでにズボンをロッカーに放り込んでいる。
俺も周囲を警戒しつつ、ズボンを脱ぐ。
どんなに目を凝らして確認しても、俺と俊介以外誰もいない。
俺は緊張気味にパンツのゴムに指をかけ、一気に脱ぎ捨てた。
「すっすっ、すごいですうう!! 今まで見た中で圧倒的に一番大きいです! 変態の人は大きいって都市伝説、本当だったんですね!!」
「な、な、なんだー!?」
「………………浮いてる」
刹那、聞いたことのない女の子の声が、更衣室に響く。
狼狽気味に、二人で声のほうに顔を向けると、そこにはいつの間にか女の子がいた。
しかも、ただいたわけじゃない。
浮いていたのだ。空中に。
「……あれ。でもおかしいなあ。こっちの変態さんは、小さいですね」
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待て!? おまえ! 今俺のどこを見ながら、小さいって言った!?」
「しゅ、俊介!? 今、おまえが気にすべきところってそこか? もっと、ほかにいろいろあるだろ」
「うっせー。俺の男としてのプライドがかかってんだよ! おら。そんなとこで浮いてるから、小さいだなんて勘違いするんだろ!? もっと降りてきて、至近距離でよく見ろ!」
「あ、あれ!? もしかして希、姿が見えちゃってる!?」
「純!? いったい、なんの騒ぎ――って、ぎゃああああ!?」
「純一君どうしたの…………す、すごいっ」
「おお! 美鈴、いいとこに来た。よく見て、こいつに教えてやってくれよ! 俺のはけっして小さくな――ぎゃっ!?」
「粗末なもん見せるな! 死ね!!」
「……じゅ、純一も丸見えじゃねえか……」
こうしてドタバタの中、俺たちは初めて遭遇してしまったんだ。
幽霊ってやつに。
※屋内プール 男子更衣室概要※
・JKのパンツで作られたマスクをかぶった股間丸出しの男子
・おっさんのパンツで作られたマスクをかぶった股間蹴り上げられ男子
・変態の股間を蹴り上げた美少女
・顔を覆った両手の指の隙間から、なにかを凝視している美少女
・空中に浮いている女の子
読んでいただきありがとうございました!
少しでも楽しんでいただけてたら嬉しいです!
次回もよろしくお願いいたします!