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俺の匂いは、机を一日で我慢できなくしてしまうほど酷いんですか!?

ブックマークしていただいた皆様、本当にありがとうございます!

作者のモチベに変換されております

これからもよろしくお願いいたします!

「……それは、橘の隣になりたいってことか?」

「えっと、……それは、その……」


 女担任――佐伯祥子さえきしょうこ先生が鋭い眼光を飛ばして、お嬢様に先ほどの言葉の真意を確かめる。

 貫地谷さんは言葉に詰まってしまう。どう答えようか、迷っているようだ。


「違うのか? なら、べつに無理してまで、あの四人の席に割り込む必要ないんじゃないか? 橘たちは、仲良しで集まれているんだしな」

「ち、違いません! そのとおりで――」

「お嬢様!!」


 先生が淡々と述べる正論。

 貫地谷さんがそれに反論しようと、意を決したかのように見えた刹那、何者かが彼女に耳打ちを始めていた。

 

 その人がいつ現れたのか、まったく認識できていない。

 するりと記憶の隙間に侵入されたような、気づいたらそこにいた感覚。

 きっと、貫地谷さんが言っていた御付きの人なんだろう。

 ショートポニーにスーツ姿。

 俺の位置からは背中しか見えないが、声からすると女性じゃないだろうか。

 

「ええ。ええ。わかりました。そう答えれば、いいんですね」


 御付きの意見を、素直に頷きながら聞いていたお嬢様。

 耳打ちが終わったかと思うと、御付きはまたいつの間にか消えていた。

 俊介が「かっけー」や、「すっげー」と興奮し続けている。


「こ、こほん!」


 うわ。こんなにわざとらしい咳払い、リアルで初めて見た。


「先生。貫地谷家では、身体的特徴による差別は禁止されております。人間の価値は、そんなもので決まらないという教えです。橘様がどんなに素晴ら――ではなく、大変なハンデを抱えていようと、それを理由に避けるようなことをしたらお父様に叱られてしまいます」

「ふむ。家の教えときたか……」


 佐伯先生は、天井のある一点をじっと見つめる。

 ……え? まさかだけど、そこに御付きの人いるの? 

 先生、気配感じれるの?

 あなた、何者!?


「……まあ、いいだろう。これで意見を無視して、貫地谷家にモンスターペアレンツのごとく怒鳴り込まれても困ってしまうからな」

「先生! それでは」

「みんなの席替えが終わったら、朝霧、進藤、貫地谷でくじを引いてもらう。二人とも、異論はないな?」


 先生の視線が沙雪と美鈴に向けられる。


「……先生が決めたことなら、しょうがないです」

「正直あたしは、そんな消極的な理由で来られても迷惑だけど。でも、先生に従うよ」

「感謝いたします! 朝霧様、進藤様」


 両手を合わせて喜びを隠さないお嬢様。

 いっぽうで、不満たらたらな沙雪たち。

 これでもかと対照的な様子だった。

 

 それにしても、貫地谷さんの幸せそうな顔。

 よほど家の教えとやらを守れたことが、嬉しかったんだろう。

 そういったものを、真面目に守ることに誇りを持っているに違いない。

 同じ年なのに、すでに自分というものを確立している。

 率直にかっこいいなと思う。


 窓際後方を除く席替えが、つつがなく終わる。

 自分の周辺の人との挨拶もそこそこに、全員の視線が教壇に集まる。

 可愛い女の子ばかりのこのクラスにおいても、抜きんでた美貌を持つ三人が立っている。


「じゃあ、ここから引いて。席の番号は前から順に1、2、3な。橘の隣は、3ということだ。引く順番は、めんどくさいから名前順な。朝霧から引け」

「……はい」


 緊張気味に箱の中に手を突っ込み、くじを掴む。

 はたして、その結果は――


「やりました! 私、見事にやりました!!」

「あたしは、変わらずかー」

「…………………ッ!!」


 俺の隣を引き当てたのは、貫地谷さんだった。

 彼女の場合引き当ててしまったという表現のほうが正しい気もするけど、妙に大喜びだ。

 もしかして俺の隣で生活することで、『頑張ったね』とお父様にたくさん褒めてもらえるんだろうか。

 

 美鈴はくじ前と変わらず、俺の斜め前。

 沙雪はその前になってしまい、三人の中で俺と一番離れてしまった。

 沙雪があんなに離れたところに座るなんて、中学入学以来で初めてだった。

 ……というか、沙雪さん? なんか、めちゃくちゃ身体震えてませんか?

 歯ぎしりっぽい音も、耳に届いてますよ?


「橘様。あらためまして、よろしくお願いいたします」

「う、うん。よろしくね。きっと、いろいろ迷惑かけちゃうと思うけど……」

「め、迷惑だなんてそんな。……むしろ、光栄です」


 ちょ、ちょっと沙雪さん!?

 今、なんかバキッって聞こえたけど。

 もしかして、シャーペン折らなかった!?

 さっきまですごい喜びようだった、両隣の佐藤君と鈴木君が恐怖に怯えちゃってるけど!?


「はは。光栄だなんて、よほど家の教えを大事にしてるんだね。立ち向かう困難が厳しければ厳しいほど、ご両親も褒めてくれるのかな?」

「あっ! えーと……、はい。おっしゃるとおりです」

「やっぱり、そういうことなんだ。でもそのために、一日で机に染みついた匂いも我慢できなくなった俺のそばを希望するなんて。本当、尊敬するよ」

「はい! 橘様の匂いの染み込んだ机。短い時間で堪能しているだけでは、どうしても我慢できなくなって……。つい、運び出してしまいました!」


 恍惚な表情で語るお嬢様。

 ……あれ? なんか俺の言ってるニュアンスと、ズレがあるような……。


「……そういえば運び出したってことは、やっぱりあのヘリは貫地谷さんのだったんだね」

「み、見られてしまっていましたか。そうなんです。まことにかってながら、ヘリで運ばせてもらいました」


 きっと家の教えを守るため、最初から俺の近くの席に来てもいいという覚悟があった。

 それで少しでも俺の匂いを減らして快適に過ごすため、机を入れ替えといたってことなんだろう。


「……なんか、申し訳ないな。俺のせいで、結構なお金を使わせちゃって」

「いえ。お小遣いの範囲内でやりくりしていますから。ご心配なさらず」

「それはすごいな」

「そうですか?」


 なんか、数百円のお菓子でも買った時に言いそうなセリフ。

 本当、住む世界が違うんだなあ。


「ま、まあとにかく、俺もできるだけ気をつけるから」

「いえ。なにも気をつけずに、好きなようにお過ごしください」

「い、いや。そんなわけにも……」

「ふふっ。橘様のおかげで、幸せな毎日になりそうです」


 その時の彼女の微笑みは、すみれのように可憐で、同時にとてもまぶしいものだった。

 不意打ちで思わず、鼓動が速くなる。

 その笑顔を目にして俺は、中学時代までとは違う、新しい生活の予感をひしひしと感じていた。


 ……というか、沙雪さん!?

 さっきより、めっちゃやばい音聞こえましたけど!?

 もしかして、机にヒビ入ってないか!?

 ……あーあ。佐藤君と鈴木君、恐怖のあまり漏らしちゃった。

 せっかくのイケメンが台無しだよ。

 

 ほんと大丈夫かなあ、このクラス。



※1-7 クラスメイト概要※


・体臭がキツすぎる男子


・体臭男子の幼馴染三名(うち一名、沙雪様ご降臨中)


・体臭男子に好意的なお嬢様


・お漏らしイケメン二名

 

 etc

読んでいただきありがとうございました!

次回から、チート始まります

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