俺の匂いは、クラスメイトの性癖を暴いてしまうくらいやばいんですか!?
完全真面目のつなぎ回です
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「にしても、米倉が思ったよりも元気でよかったよなー。結構、ヘビーな事件だったと思うけど」
俊介の、心からよかったという感情を乗せた明るい声色が響く。
いい加減な気持ちで言ってるわけではなく、本気でそう思ってるとわかる姿。
特別仲がいいわけでもない相手にも、感情移入して親身になれる男。
こいつのこういうところ、本当に大好きだ。
放課後の、視聴覚室。
いつものように、助っ人部のメンバーが集合している。
だが室内全体が、俊介のように明るい空気というわけではない。
若干二名、不貞腐れた様子なのだ。
「……純一君の匂いって、心を癒す効果でもあるんじゃないかな? 山下さんほどじゃなくても、今回もバッチリ嗅がれたんだよね?」
「純すごいじゃん。世界一のカウンセラーになれるんじゃない? 患者さんに心の傷と向き合わせながら、純の体臭嗅がせればいいだけだもんね。女の子の患者ばかり選んだら、あっという間に子供が何百人もできそうだね」
美少女幼馴染二人の言葉からは、栗やウニのレベルでトゲがむき出しになっている。
栗子やウニ子ってあだ名がついてもおかしくないぞ。
……栗子はちょっと卑猥かな。
「なんだよ、二人とも。米倉が早く立ち直れたの、不満みたいじゃねえか」
「そ、そんなこと……」
「言ってないでしょ! こんの、馬鹿俊が!!」
「な、なんで俺が怒鳴られんだよ!? 理不尽だろ!」
もちろん沙雪も美鈴も、美樹が元気になったことに対して不満なんてないだろう。
元気になった美樹が、なぜか俺たちに積極的に関わってきたのが原因だと思う。
山下さんの時と同じだ。
あの時美鈴がなんで不機嫌だったのか、ようやくわかった。
美鈴も沙雪ほどではないけど、俺たち幼馴染の中に新しい人が加わることにかなりの抵抗があるんだ。
「でももしも本当に橘様の匂いに、人の心を癒す効果があるのでしたら、それは素晴らしいことですね」
手を合わせて微笑む貫地谷さんは、なにやら感動すら覚えているようだった。
そんなお嬢様の言葉を、俊介はおでこに指をあてて「ふむふむ」と頷きながら聞いていた。
かと思えば、急になにか思い当ったかのようにポンと手を打つ。
「……なるほどー。俺、わかったぞ。マスクのおかげで、純一の正体はわからない。でも自分を助けてくれて癒してくれたパンツレスラーと、似た匂いの人がクラスにいた。それで無意識に、フラフラと引き寄せられたってところなんじゃねえの!?」
「……俊介。おまえって、たまに凄く鋭いところを見せるよね。たしかにそれなら、美樹がいきなり俺に好意的な態度になったのも納得できる。すげえ。マジですげえよ俊介!」
「ふっ。照れるぜ。将来は、ハードボイルドな名探偵を目指すのも悪くないな。それでムチムチボインな色っぽい依頼者と、アバンチュールな恋の数々を……ぐへっ」
「おまえの夢見がちな妄想は、いったん置いておくとして。俺のはた迷惑な体臭に、人を前向きにすることができる効能が本当にあるとしたら、なんだか俺も救われる気がするよ。山下さんの悲劇を繰り返さないように濃い匂いにさえ気をつければ、依存症のようにはならない。仮にかなりの匂いを吸わせてしまったとしても、マスクさえ忘れなければあそこまでの状態にはならない。完璧じゃんこれ」
マスクがパンツである必要性はないし、山下さんという犠牲のもとに導き出された推論なんだけどね。
これから誰がどれだけ救われようとも、彼女がもとの可愛らしい委員長に戻れるわけではない。
ごめんね、山下さん。
きっと、君のことはなんとかするから。
……たぶん、……いつか、…………うん。頑張る。
「……純一君たちって、どうしてこう鈍感なのかな?」
「俊が探偵役じゃ、どんな簡単な事件も迷宮入りしそうだね。あんたは、迷うのほうの迷探偵でしょ」
「なにおうっ!? 美鈴。俺がいつか、おまえのことを追い詰めてやるから覚悟しとけよー」
「なんで、あたしが犯人なのよ!?」
「ひぇっ!? こ、股間はやめて!! まだ、完治してないんだぞ!」
「ふふふっ。皆さんとご一緒してますと、本当に楽しい時間を過ごせますわ」
こちらの迷探偵の弱点は、どうやら下半身らしい。
……いや、男なら誰でもそうか。
「……でもさすがの純一君の匂いでも、完全に立ち直れてるわけではなさそうだけどね」
「そうかあ? めっちゃ、元気だったじゃん」
「そんなだから、俊はモテないんじゃない? ただ襲われそうになっただけじゃなくて、親友と思ってた子が手引きしてたんでしょ? 普通、そんな簡単に割り切れないって」
「純一君のほう見たときに視界に入ったけど、窓の外見ながら寂しそうな顔してたよ」
「……そっか」
そりゃ、そうかもしれない。
信頼してたろう親友に、あんな酷い裏切りをされたんだ。
そうそう、完全に切り替えるなんて不可能だろう。
まあ山下さんレベルで濃厚な体臭を嗅いでもらってたら、もう完璧に立ち直ってるかもしれないけど。
あれは、たぶん麻薬みたいなもんだ。
立ち直るための手助けになるレベルに、体臭療法はとどめておくべきだろう。
「寂しそうって、沙雪の勘違いじゃねーの? 高一にもなって漏らしたら、外眺めて黄昏たくもなるだろ」
かっかっかと、馬鹿笑いする俊介。
いいやつだけど、デリカシーはまったくない。
もしかしたらこいつのモテない理由、俺の体臭のせいじゃないかもしれん。
クラスメイトの前で盛大に噴射した美樹は、自分でもなにが起こったのか理解できなかったのか、しばらく呆然としていた。
徐々に自分の状況に気づいた彼女は、恥ずかしさで顔を真っ赤にしながらも、気丈な振る舞いで処理を始めた。
沙雪も美鈴とともに、美樹を手伝っていた。
沙雪が美樹の手助けをしたのは、けっして自分が多発するお漏らしの近因と気づいて申し訳なくとかではない。
単純に、近くの女の子が大変そうだからという優しさによるものだ。
なぜなら、沙雪様は斜め後ろでやらかした田中君にはまったく目もくれなかったから。
彼は哀愁を背中から漂わせながら、黙々と一人で処理してたよ。
俺はジャージと置きトランクスだけ、そっと彼の机に置いたんだ。
俺は美樹にも同様に、ジャージとトランクスを手渡した。
彼女は恥ずかしそうにしながらも、「ありがと」と呟きながら受け取ってくれた。
そんなお漏らし美少女ギャルが最終的に行き着いた席は、俺の後ろだった。
ジャージに着替えて戻ってくると、佐伯先生に直談判。
最初は聞く耳持たずだった先生も、美樹の勢いに根負けしたのか、もしくはめんどくさくなったのか。
結局、美樹の要求を認めることになった。
その後、美樹の席があった廊下側に移りたいと手を挙げる生徒が続出したが、「これ以上席が動くのは、めんどくさい!!」という先生の一喝で終焉。
美樹の後ろの人が、一つずつ前に詰めることになった。
結果、1-7はちょっといびつな席の形になってしまった。
ちなみに美樹は、佐藤の椅子で漏らしてしまったことを謝罪。
自分の椅子との交換を申し出たけど、彼はこれを固辞。
美樹は、恥ずかしい気持ちもあったのだろう。
なんとか替えるようにと交渉を続けたが、最後佐藤は漏らされた椅子に顔をこすりつけてこう叫んだ。
「こ、この椅子は俺のもんだ!! 誰にも、絶対に渡さないぞおおおおおおおおおお!!」
こうして彼はクラス中の美少女だけでなく、数人を除き男子からもドン引きされた。
……佐藤。どれだけおまえは、自分の高校生活を修羅道にするつもりなんだっ!?
ということで、沙雪が俺のほうを見たときに、美樹のことが目に入った理由がこれである。
俺の後ろに座ってるからね。
そして沙雪と美鈴がますます不機嫌そうになったのも、これのせいだと思われた。
「まあこの最低野郎は無視するとして、あとは高校生活で少しずつ癒していくしかないんじゃないの。すぐ前に、カウンセラー純もいるわけだしね。なんか腑に落ちない部分もあるけどね。でも傷ついた女の子は、やっぱり放っておけないし」
「……そうだよね。純一君には米倉さんのことを頑張ってもらって、それ以上にわたしのことも頑張ってもらう。それで、納得しようじゃありませんか」
「……はは。お手柔らかにな」
当分、頭なでやハグとかさせられる日々が続きそうだ。
……まさか、美鈴も参加したりしないだろうな?
「あっ、あの。皆さんに、お話が――」
「失礼します」
そこはかとなく嫌な予感も残しつつも、いったん会話の区切りがついたタイミング。
それを待っていたかのように貫地谷さんがなにかを言いかけるが、かぶるように誰かがノックとともに入室してくる。
……あれは――
「横山先輩?」
「橘君。仕事です。生徒会室まで来てください」
「お、俺ですか?」
そこに立っていたのは、可愛いけど無表情という印象しかない副会長だった。
声には出さないが、早くしてくれオーラを全身から放出している。
「ご、ごめん貫地谷さん。なにか言いかけてたこと、みんなに話しといて」
「は、はい。私のことはお気になさらず、お仕事頑張ってきてください」
少し残念そうな笑顔を浮かべるお嬢様や幼馴染たちを残し、俺は先輩の後ろについて生徒会室に向かう。
なんとなく一人で呼び出されるのって、緊張するよなあ。
先週、目安箱で傷つけられたばかりのシチュエーションなのだ。
今日も酷いことされたら、トラウマになってしまいそう。
「失礼します……っ!?」
副会長に続いて生徒会室に入った俺を待っていたのは、会長に今井先輩。
そして会ったことのない男子と女子の先輩。
でもそれらの人は、正直どうでもよくて。
俺の目に一番に飛び込んできたのは、我がクラスの委員長の姿だった。
俺が入ってきた途端、彼女は顔を紅潮させ始める。
今にも、『えへ、えへ』言い出しそうな様子だ。
「や、山下さん!?」
「やーやー。橘君。もうこの状況を見て、察しのいい君ならなんで呼ばれたかわかるよね?」
「…………はい、会長様」
俺はブレザーのポケットを、上から手でさする。
その中には、例の紙が入っている。
『クラスの男子の匂いをもっと嗅ぎたいんですけど、嗅いだらどうなってしまうかわからない。だから我慢してるんですけど、心がおかしくなりそう。親にも怪しまれてます。どうすればいいですか!?』
まず間違いなく、この件についてじゃないだろうか?
べつに握りつぶそうとしたわけじゃないけど、なんだか後ろめたい。
「じゃあ、彼女の相談内容は説明する必要もないね?」
「はい」
「彼女がわたしに、どうしても直接話があるって乗り込んできてね」
「……はい」
「目安箱に意見を入れたけど、返答はまだですかと」
「…………はい」
「話を聞く限り、どうやら君が解決するしかなさそうなんで来てもらたってわけ」
「………………了解いたしました」
「それにしても、どこにいってしまったんだろうね? 彼女の書いた紙は」
「……………………もう、許してもらえないでしょうか」
針の筵とはこういうことだ。
裁判所の被告人席に立つ人は、きっとこんな感じなんだろう。
「まあ、わたしがとやかく言うことでもないしね。あとは、彼女の希望を聞いてあげて」
「わかりました。山下さん?」
「ひゃ、ひゃいっ!」
恍惚とした表情で、飛び上がるような仕草をする委員長。
やっぱり小動物みたいな女の子だなあ。
「ご、ごめんね。べつにあの相談、無視したりしたわけじゃないんだ。どうしたらいいか、考えてたっていうか……」
「あ、あやまらないでください! わ、わたしも難しいこと相談してるなって、わかってますから。で、でもこの週末で、家族に誤魔化しができない状態になってしまって……。えへっ、えへ……」
「……ああ、うん。なんとなく、わかる」
今日の山下さんは、朝からハッスルしていた。
土日を挟んでしまったせいか、俺の匂いへの禁断症状がすごいことになってしまっていた。
今だって、なんとかして症状を抑えてるって感じだ。
あの状態で家にいたら、家族からしたら心配どころの騒ぎじゃないだろう。
「そ、それで。その。……橘君にどうしても頼みたいことがあって……。あ、あへぇ」
「う、うん。俺にできることなら、なんでもするよ」
委員長は俺の言葉に顔を輝かせるが、自分を落ち着かせるように一度首を振る。
そして三度深呼吸をしてから、意を決したように大きく口を開いた。
「あ、あの! わ、わたしの彼氏のふりをしてくださいぃぃ!!」
「――うえっ!?」
思いもよらない彼女の言葉に、変な声が漏れてしまった。
※1-7 クラスメイト概要※
・体臭がキツすぎる男子
・体臭男子の幼馴染三名(うち一名、沙雪様パワーアップ)
・体臭男子に好意的なお嬢様
・紙おむつイケメン二名(うち一名、佐藤に尿属性発覚)
・体臭男子に近づきすぎると、アへ顔晒しそうになる委員長
・密かに体臭男子の後ろで漂う、ご主人様の股間大好きな幽霊少女
・体臭男子の後ろの席を勝ち取った美少女お漏らしギャル
・巻き添えを食らって漏らした、美鈴の隣の席の田中君
・俺らの夢と希望を打ち砕くもの 破壊神〇グネス
読んでいただきありがとうございました
少しでも楽しんでいただけてたら嬉しいです
次は委員長ちゃん回です
次回もよろしくお願いします!




